[2015年文献] 腹囲が大きい人では,その後さらに腹囲が増加すると糖尿病発症リスクが上昇

都市部の日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,ベースラインの腹囲,ならびに6.8年後までの腹囲の変化量と,2型糖尿病発症リスクとの関連を前向きに検討した。2回目の腹囲測定から平均9.3年間の追跡を行った結果,初回測定時の腹囲が中央値以上だった人では,性別を問わず,その後の腹囲の増加が大きい場合に糖尿病発症リスクが高くなることが示されたが,初回測定時の腹囲が小さかった人では,そのような関連はみられなかった。以上の結果より,糖尿病予防の観点から,腹囲の大きい日本人の男女においてはとくに,それ以上の腹囲の増加を防ぐことが重要であると考えられた。

Tatsumi Y, et al. Changes in Waist Circumference and the Incidence of Type 2 Diabetes in Community-Dwelling Men and Women: The Suita Study. J Epidemiol. 2015; 25: 489-95.pubmed

コホート
吹田市民から無作為に抽出され,国立循環器病研究センターでの第1回健診(1989年9月~1994年3月: ベースライン)と第2回健診(1997年4月~1999年3月)を受診した30~83歳の3658人のうち,第2回健診時の糖尿病有病者355人,第2回健診時に75歳超だった571人,第1回健診と第2回健診の受診間隔が5年未満または9年超の470人,データに不備のあった257人,ならびに追跡不可能だった134人を除いた2273人を,2011年3月末まで追跡。
第1回から第2回健診時にかけての受診間隔の平均は6.8年間で,第2回健診からの追跡期間の平均は9.3年間。

対象者を,男女別に,第1回健診時の腹囲(中央値未満/以上),ならびに第1回から第2回健診時にかけての腹囲の変化量(cm/年)の三分位(腹囲が減少または増加が小さい/中程度/大きい)による計6つのカテゴリーに分けて解析を行った。
結 果
◇ 対象背景
第1回健診時の腹囲の中央値は,男性82.0 cm,女性75.0 cmであった。
第2回健診時の年齢(男性)58.8歳,(女性)57.6歳,腹囲83.5 cm,79.7 cm,第1回から第2回健診時までの腹囲変化量+0.17 cm/年,+0.51 cm/年,BMI 23.2 kg/m2,22.2 kg/m2,HbA1c 5.6%,5.6%,血圧: 126.4 / 80.8 mmHg,125.3 / 78.6 mmHg,高血圧36.0%,30.6%,糖尿病家族歴9.5%,11.2%,喫煙率39.3%,7.5%,飲酒率72.9%,31.0%。

性,ならびに第1回健診時の腹囲(中央値未満/以上)ごとに,腹囲変化率(1年あたり)とBMI変化率(1年あたり)をプロットした結果,相関係数は男性で0.71(中央値以上),0.72(中央値未満),女性で0.38,0.39(いずれもP<0.001)と,有意な正の相関がみとめられた。

◇ 腹囲の変化と糖尿病発症リスク
追跡期間中に2型糖尿病を発症したのは287人。
腹囲とその変化量によるカテゴリーごとの,腹囲(年齢調整)の変化,ならびに糖尿病発症の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。
第1回健診時のBMI,および第1回から第2回健診時にかけてのBMI変化量で調整を行ったうえでも,第1回健診時の腹囲が中央値以上の女性では,腹囲の増加が大きいカテゴリーにおいて,変化が中程度のカテゴリーに比した有意な糖尿病発症リスクの増加がみとめられた。第1回健診時の腹囲が中央値以上の男性でも同様の結果が得られたが,有意差はボーダーライン上であった。
年齢,HbA1c,糖尿病家族歴,喫煙,飲酒,[いずれも第2回健診時],第1回健診時のBMI,腹囲,ならびに第1回から第2回健診時にかけてのBMI変化量で調整)

・男性(第1回健診時の腹囲<82.0 cm[中央値])
  腹囲が減少または増加が小さい(第1回76.9→第2回74.2 cm): 1.01(0.52-1.96)
  腹囲の増加が中程度(76.3→78.4 cm): 対照
  腹囲の増加が大きい(75.9→82.9 cm): 1.34(0.73-2.46)

・男性(第1回健診時の腹囲≧82.0 cm)
  腹囲が減少または増加が小さい(90.1→84.7 cm): 1.40(0.75-2.58)
  腹囲の増加が中程度(88.3→88.6 cm): 対照
  腹囲の増加が大きい(87.3→92.1 cm): 1.72(0.98-3.02)

・女性(第1回健診時の腹囲<75.0 cm[中央値])
  腹囲が減少または増加が小さい(69.5→69. 3 cm): 1.98(0.80-4.91)
  腹囲の増加が中程度(67.7→74.4 cm): 対照
  腹囲の増加が大きい(67.5→81.7 cm): 0.52(0.20-1.38)

・女性(第1回健診時の腹囲≧75.0 cm)
  腹囲が減少または増加が小さい(85.3→79.4 cm): 1.24(0.63-2.44)
  腹囲の増加が中程度(83.4→83.8 cm): 対照
  腹囲の増加が大きい(80.0→88.4 cm): 2.07(1.13-3.79)

◇ BMIの変化と糖尿病発症リスク
第1回健診時の腹囲が中央値以上,かつ腹囲の増加が大きい人において,第1回から第2回健診時にかけてのBMI変化量が1 kg/m2/年大きくなるごとの2型糖尿病発症の多変量調整ハザード比は,男性で2.11(95%信頼区間0.49-9.16),女性で0.93(0.31-2.82)であった。


◇ 結論
都市部の日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,ベースラインの腹囲,ならびに6.8年後までの腹囲の変化量と,2型糖尿病発症リスクとの関連を前向きに検討した。2回目の腹囲測定から平均9.3年間の追跡を行った結果,初回測定時の腹囲が中央値以上だった人では,性別を問わず,その後の腹囲の増加が大きい場合に糖尿病発症リスクが高くなることが示されたが,初回測定時の腹囲が小さかった人では,そのような関連はみられなかった。以上の結果より,糖尿病予防の観点から,腹囲の大きい日本人の男女においてはとくに,それ以上の腹囲の増加を防ぐことが重要であると考えられた。


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