[2011年文献] 心血管疾患リスクのBNPの閾値は,男性37 pg/mL,女性55 pg/mL

脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)値の上昇は心血管疾患リスクと関連することが報告されているが,リスクを予測するための閾値については明確に定められておらず,従来の危険因子との比較も行われていない。本研究は,BNP値と心血管イベント発症との関連を検討し,性別ごとにリスク予測のための閾値を検討したはじめての研究。日本の一般住民を対象として5.8年間の前向きコホート研究による検討を行った結果,男性ではBNP値が約37 pg/mL超,女性では約55 pg/mL超になると心血管イベント(脳卒中,うっ血性心不全,または入院を要する心筋梗塞)発症リスクが上昇することが示された。以上の結果より,BNPは心血管疾患リスクの簡易かつ有用なマーカーであると考えられた。

Nakamura M, et al. Sex-specific threshold levels of plasma B-type natriuretic peptide for prediction of cardiovascular event risk in a Japanese population initially free of cardiovascular disease. Am J Cardiol. 2011; 108: 1564-9.pubmed

コホート
岩手県北地域(二戸,久慈)に居住し,脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)値の測定に同意した15394人のうち,40歳未満の575人,80歳超の330人,血清クレアチニン値が2.0mg/dL以上の10人,血圧データがない3人,身体計測のデータがない47人,および/またはルーチンの血液検査のデータがない4人を除いた。平均5.8年間追跡し,解析は13209人(男性4365人,女性8844人)で行った。
平均年齢は男性63.3歳,女性61.6歳。

BNP値(pg/mL)の十分位により,性別ごとに以下のカテゴリーを設定した。
・男性
   D1~D4(対照): 中央値5(四分位範囲2.1~7.6),1741人
   D5: 12.3(11.4~13.2),441人
   D6: 16.3(15.3~17.5),441人
   D7: 21.3(19.8~22.8),434人
   D8: 28.3(26.5~30.5),436人
   D9: 41.4(37.5~46.5),436人
   D10: 76.5(63.4~116.7),436人
・女性
   D1~D4(対照): 中央値7.3(四分位範囲3.8~10.4),3539人
   D5: 15.0(14.1~15.9),880人
   D6: 18.7(17.8~19.7),880人
   D7: 23.5(22.2~25.0),893人
   D8: 29.8(28.0~31.9),882人
   D9: 40.4(37.1~43.8),885人
   D10: 66.1(55.1~88.0),885人
結 果
◇ 対象背景
男性にくらべ,女性のほうが脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)値(中央値14.2 pg/mL vs. 16.9 pg/mL,P<0.001)およびBMI(23.9 kg/m2 vs. 平均24.2 kg/m2,P<0.001)が高かった。
高血圧の割合(44.3% vs. 38%),心房細動(2.9% vs. 0.6%),糖尿病(9.6% vs. 5.4%),喫煙者の割合(33.9% vs. 2.5%)は男性のほうが女性にくらべて高く,高コレステロール血症の割合(10.5% vs. 20.3%)は男性にくらべて女性のほうが高かった。
降圧薬を使用している割合は,男性23.3%,女性23.8%(P=0.232)。
フラミンガムリスクスコアは男性のほうが女性にくらべて高かった(平均13.8 vs. 11.9)。

◇ BNP値と心血管イベント発症リスク
追跡期間中に心血管イベント(脳卒中,うっ血性心不全,または入院を要する心筋梗塞)を発症したのは430人(男性215人,女性215人)。

BNP値が低い4つのカテゴリー(D1~D4)を対照とした心血管イベントの多変量調整ハザード比(HR)*は,BNP値が高くなるほど上昇していた(男性のP for trend<0.01,女性のP for trend<0.001)。*年齢,BMI,糖尿病,高血圧,高コレステロール血症,心房細動,推算糸球体濾過量,喫煙により調整

D1~D4に比して有意な心血管イベントリスク上昇がみとめられたのは,男性ではD9(HR 2.06,95%信頼区間1.30-3.27)およびD10(3.15,2.03-4.88),女性ではD10(1.68,1.13-2.50)であった。この結果より,心血管イベントリスク予測のためのBNPの閾値は,男性では約37 pg/mL超,女性では約55 pg/mL超になると考えられた。

BNP値,およびフラミンガムリスクスコアの心血管イベント予測能について,受信者動作特性曲線の曲線下面積(area under the curve: AUC)を用いて比較した結果は以下のとおりで,予測能は同様であった。
・男性
  BNP値のAUC 0.669(95%信頼区間0.629-0.710)
  フラミンガムリスクスコアのAUC 0.676(0.640-0.712)
・女性
  BNP値のAUC 0.634(0.593-0.676)
  フラミンガムリスクスコアのAUC 0.681(0.649-0.713)


◇ 結論
脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)値の上昇は心血管疾患リスクと関連することが報告されているが,リスクを予測するための閾値については明確に定められておらず,従来の危険因子との比較も行われていない。本研究は,とBNP値心血管イベント発症との関連を検討し,性別ごとにリスク予測のための閾値を検討したはじめての研究。日本の一般住民を対象として5.8年間の前向きコホート研究による検討を行った結果,男性ではBNP値が約37 pg/mL超,女性では約55 pg/mL超になると心血管イベント(脳卒中,うっ血性心不全,または入院を要する心筋梗塞)発症リスクが上昇することが示された。以上の結果より,BNPは心血管疾患リスクの簡易かつ有用なマーカーであると考えられた。


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