[2003年文献] 中年期の喫煙者において,喫煙量はアルツハイマー病の発症リスクと関連する

中年期の喫煙状況および喫煙量とその後の認知症発症リスクとの関連について,日系アメリカ人男性を対象とした長期的な前向きコホート研究における検討を行った。約25年間の追跡の結果,中年期の喫煙は血管性認知症の発症リスクと有意に関連していたが,心血管・呼吸機能因子で調整を行うと関連は消失した。一方,中年期の喫煙者のなかで喫煙量ごとに認知症発症リスクを比較した結果,喫煙量が多いほどアルツハイマー病のリスクが高くなっていたが,超多量喫煙者でのさらなるリスク増加はみとめられなかった。

Tyas SL, et al. Mid-life smoking and late-life dementia: the Honolulu-Asia Aging Study. Neurobiol Aging. 2003; 24: 589-96.pubmed

コホート
Honolulu-Asia Aging Study。
1900~1919年に出生し,1965年より開始されたホノルル心臓調査の第1回健診を受診した日系アメリカ人男性8006人のうち,1971~1974年に実施された第3回健診,ならびに1991~1993年に実施された第4回健診とともに認知機能検査を受けた3734人(第4回健診時の生存者の80%)。このうち,喫煙状況や喫煙量のデータに不備のない3232人を解析対象とした。

第3回健診時(中年期)の喫煙状況によって,対象者を以下の3つのカテゴリーに分類した。
  喫煙未経験(1274人),禁煙(1010人),喫煙(948人)

また,第3回健診時の喫煙者を,喫煙量によって少量喫煙者(≦26.7箱・年),中程度喫煙者(>26.7~40.5箱・年),多量喫煙者(>40.5~55.5箱・年),超多量喫煙者(>55.5~156箱・年)に分類した。

認知機能の評価(第4回健診および1994~1996年に実施された第5回健診で実施)では,まずCognitive Abilities Screening Instrument(CASI,100点満点)や年齢によるスクリーニングを行い,必要に応じてさらに神経心理検査,ならびに専門医による面接と神経学的診察を実施。
認知症の診断基準としては米国精神医学会『精神障害の診断・統計マニュアル』第3版改訂版(DSM-III-R)を用い,アルツハイマー病の診断には米国国立神経疾患・脳卒中研究所およびアルツハイマー病・関連障害協会によるアルツハイマー病診断基準(NINCDS-ADRDA),血管性認知症の診断にはカリフォルニアアルツハイマー病診断・治療センター(ADDTC)の基準を用いた。
結 果
◇ 対象背景
第3回健診時(中年期)の喫煙状況による有意な差がみられたものは以下のとおり(*P<0.05,**P<0.0001)。
  年齢**(歳,第3回健診時): 喫煙未経験78.3,禁煙77.7,喫煙76.8
  教育年数**(年): 10.9,10.3,10.2
  中年期のアルコール摂取量**(oz/月): 7.0,13.7,18.0
  中年期の収縮期血圧*(mmHg): 132.3,131.8,130.5
  中年期の拡張期血圧**(mmHg): 83.2,83.1,81.1
  中年期の1秒量**(L): 2.81,2.78,2.67
  高齢期の足関節上腕血圧比(ABI)**: 1.07,1.06,0.99
  高齢期までの降圧薬服用歴*: 41.5%,45.5%,39.9%
  高齢期までの脳血管イベント既往*: 5.9%,4.9%,8.0%

◇ 中年期の喫煙状況と認知症発症リスク
喫煙状況ごとにみた認知症および各病型発症の多変量調整オッズ比(95%信頼区間)は以下のとおり(年齢,教育年数,アポリポ蛋白E遺伝子ε4アリルの有無で調整)。
喫煙者では,喫煙未経験者に対する血管性認知症の有意なリスク増加がみとめられたが,さらに心血管危険因子(アルコール摂取,血圧,降圧薬服用,ABI,脳血管イベント既往)および呼吸機能(1秒量)による調整を行うと,有意差は消失した。

 全認知症: 喫煙未経験1.0,禁煙0.82(0.60-1.11),喫煙1.27(0.94-1.73)
  アルツハイマー病: 1.0,0.87(0.58-1.30),1.29(0.86-1.93)
   アルツハイマー病(脳血管イベント既往例を除く): 1.0,0.88(0.55-1.40),1.00(0.61-1.63)
  血管性認知症: 1.0,0.78(0.43-1.39),1.73(1.03-2.92)

◇ 中年期の喫煙量と認知症発症リスク
中年期の喫煙者において,喫煙量ごとにみた認知症および各病型発症の多変量調整オッズ比(95%信頼区間)は以下のとおり(年齢,教育年数,アポリポ蛋白E遺伝子ε4アリルの有無で調整)。
中程度および多量喫煙者では,少量喫煙者に対してアルツハイマー病の有意なリスク増加がみとめられ,この結果はさらに心血管危険因子および呼吸機能で調整しても同様であった。

 全認知症: 少量1.00,中程度1.59(1.02-2.52),多量1.81(1.14-2.89),超多量1.33(0.81-2.19)
  アルツハイマー病: 1.0,2.06(1.12-3.87),2.43(1.33-4.57),1.38(0.68-2.78)
   アルツハイマー病(脳血管イベント既往例を除く): 1.0,2.18(1.07-4.69),2.40(1.16-5.17),1.08(0.43-2.63)
  血管性認知症: 1.0,1.16(0.52-2.59),1.51(0.69-3.33),1.38(0.62-3.07)

超多量喫煙者を除いた解析では,全認知症,アルツハイマー病およびアルツハイマー病(脳血管イベント既往例を除く)のいずれについても,喫煙量が多くなるほどリスクが増加する有意な関連がみとめられたが(すべてP for trend<0.01),血管性認知症については有意な関連はみられなかった。

◇ 喫煙状況と剖検での神経病理学的所見
追跡期間中の死亡者のうち,剖検が行われた218人を対象として,海馬と新皮質の神経原線維変化(neurofibrillary tangles),海馬と新皮質の老人斑(neuritic plaque),および脳重量低値の多変量調整オッズ比を喫煙状況および喫煙量ごとに比較した(死亡時年齢,アポリポ蛋白E遺伝子ε4アリルの有無,収縮期血圧,および神経病理学的に確認された脳血管イベント既往で調整し,脳重量低値に関してはさらに身長とBMIで調整)。
その結果,禁煙者では喫煙未経験者に対して新皮質の老人斑のリスクが有意に高かった。
また,中程度喫煙者および多量喫煙者では,少量喫煙者に対して新皮質の老人斑のリスクが有意に高かった。


◇ 結論
中年期の喫煙状況および喫煙量とその後の認知症発症リスクとの関連について,日系アメリカ人男性を対象とした長期的な前向きコホート研究における検討を行った。約25年間の追跡の結果,中年期の喫煙は血管性認知症の発症リスクと有意に関連していたが,心血管・呼吸機能因子で調整を行うと関連は消失した。一方,中年期の喫煙者のなかで喫煙量ごとに認知症発症リスクを比較した結果,喫煙量が多いほどアルツハイマー病のリスクが高くなっていたが,超多量喫煙者でのさらなるリスク増加はみとめられなかった。


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