[1995年文献] 中年期の収縮期血圧が高いほど,25年後の認知機能低下のリスクが高い

中年期に測定した血圧と高齢期の認知機能低下リスクとの関連について,日系アメリカ人を対象とした長期的な前向きコホート研究による検討を行った。その結果,年齢や教育年数,心血管疾患の合併などとは独立して,中年期の収縮期血圧値が高いほど25年後の認知機能低下のリスクが有意に高くなることが示された。一方,高齢期の収縮期血圧と認知機能低下との関連を横断的に検討すると,低値ほど認知機能低下のリスクが高くなっていた。拡張期血圧と認知機能低下との関連はみとめられなかった。以上の結果から,認知症を予防するためには,中年期の収縮期血圧の適切なコントロールが重要であることが示唆された。

Launer LJ, et al. The association between midlife blood pressure levels and late-life cognitive function. The Honolulu-Asia Aging Study. JAMA. 1995; 274: 1846-51.pubmed

コホート
Honolulu-Asia Aging Study。
1900~1919年に出生し,1965~1968年に実施されたホノルル心臓調査の第1回健診(ベースライン:中年期)を受診した日系アメリカ人男性8006人のうち,1991~1993年に実施された第4回健診(高齢期)を受診し,認知機能検査を受けた3735人。
平均追跡期間は25年間。

中年期の血圧として,第1回~第3回健診時,すなわち計3回測定された血圧値のうち,2つ以上が「低い」~「高い」のいずれかに該当する場合は対象者をそのカテゴリーに分類し,それ以外の場合は「変動あり」のカテゴリーに分類した。

・収縮期血圧(SBP)
 <110 mmHg(低い),110~139 mmHg(正常),140~159 mmHg(境界性),≧160 mmHg(高い)
・拡張期血圧(DBP)
 <80 mmHg(低い),80~89 mmHg(正常),90~94 mmHg(境界性),≧95 mmHg(高い)

認知機能の評価にはCognitive Abilities Screening Instrument(CASI,100点満点)を用い,92点以上を「良好」,82点以上92点未満を「中程度」,82点未満を「低下」とした。
結 果
◇ 対象背景
第1回健診時の年齢52.7歳,血圧の平均値131.3 / 82.9 mmHg,収縮期血圧(SBP)≧160 mmHgの割合6.1%,降圧薬服用率19.7%。

SBPは追跡期間中に上昇し,第4回健診時の平均値は149.3 mmHg,SBP≧160 mmHgの割合は31.3%であった。一方,拡張期血圧(DBP)は第4回健診時に79.8 mmHgと低下しており,DBP≧95 mmHgの割合は第1回健診時10.6%,第4回健診時9.1%であった。
中年期の血圧が高いカテゴリーほど,年齢,冠動脈疾患有病率および心血管疾患有病率が高く,教育年数および足関節上腕血圧比(ABI)が低かった。

第4回健診時に行われた認知機能検査の結果,「良好」は891人,「中程度」は1641人,「低下」は1203人であった。
認知機能が低いカテゴリーほど,年齢および心血管疾患有病率が高く,教育年数およびABIが有意に低かった。

◇ 中年期の血圧と認知機能低下リスク
中年期のSBPのカテゴリーごとにみた,認知機能「中程度」および「低下」の多変量調整オッズ比は以下のとおりで,「中程度」「低下」のいずれについても中年期の血圧が高いカテゴリーほど有意にリスクが高いことが示された。
年齢,教育年数,第4回健診時の脳卒中,冠動脈疾患ならびにABIで調整)

  <110 mmHg: [中程度]1.0,[低下]1.0
  110~139 mmHg: 1.31(1.00-1.72),1.23(0.88-1.71)
  140~159 mmHg: 1.22(0.89-1.66),1.21(0.82-1.79)
  変動あり: 1.60(1.02-2.50),1.48(0.89-2.46)
  ≧160 mmHg: 1.73(1.04-2.87),2.11(1.22-3.66)
  (認知機能「中程度」に関するP for trend<0.05,「低下」に関するP for trend<0.02)

中年期のDBPと認知機能とのあいだに有意な関連はみられなかった。

◇ 高齢期の血圧と認知機能リスク(断面解析)
第4回健診時のSBPカテゴリー(<110 mmHg/110~139 mmHg/140~159 mmHg/≧160 mmHg)ごとにみた認知機能「中程度」および「低下」の調整オッズ比(年齢および教育年数で調整)は以下のとおりで,血圧が高いことと認知機能「中程度」のリスクとの関連はみられなかった。
認知機能「低下」のリスクについては,逆にSBP<110 mmHgのカテゴリーでもっともリスクが高かった。

  <110 mmHg: [中程度]1.0,[低下]1.0
  110~139 mmHg: 1.12(0.63-1.97),0.53(0.30-0.96)
  140~159 mmHg: 1.06(0.60-1.87)0.45(0.25-0.80)
  ≧160 mmHg: 1.17(0.65-2.10),0.49(0.27-0.88)

高齢期のDBPと認知機能とのあいだに有意な関連はみられなかった。


◇ 結論
中年期に測定した血圧と高齢期の認知機能低下リスクとの関連について,日系アメリカ人を対象とした長期的な前向きコホート研究による検討を行った。その結果,年齢や教育年数,心血管疾患の合併などとは独立して,中年期の収縮期血圧値が高いほど25年後の認知機能低下のリスクが有意に高くなることが示された。一方,高齢期の収縮期血圧と認知機能低下との関連を横断的に検討すると,低値ほど認知機能低下のリスクが高くなっていた。拡張期血圧と認知機能低下との関連はみとめられなかった。以上の結果から,認知症を予防するためには,中年期の収縮期血圧の適切なコントロールが重要であることが示唆された。


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