[2000年文献] 中年期の少量~中程度飲酒者では,高齢期の認知機能低下リスクが有意に低い

アルコール摂取量とその後の認知機能低下リスクとの関連について,日系アメリカ人男性を対象とした長期的な前向きコホート研究による検討を行った。中年期の少量~中程度飲酒者(1日1杯以下)では,非飲酒者に比して高齢期の認知機能低下のリスクが有意に低かった。ただし,多量飲酒者(1日4杯以上)ではリスクが上昇する傾向がみられるなど,アルコール摂取量と認知機能との関連は非線形であることが示唆された。

Galanis DJ, et al. A longitudinal study of drinking and cognitive performance in elderly Japanese American men: the Honolulu-Asia Aging Study. Am J Public Health. 2000; 90: 1254-9.pubmed

コホート
Honolulu-Asia Aging Study。
1900~1919年に出生し,1965年より開始されたホノルル心臓調査の第1回(ベースライン)健診を受診した日系アメリカ人男性8006人のうち,1971~1974年に実施された第3回健診,ならびに1991~1993年に実施された第4回健診とともに認知機能検査を受け,データに不備のない3556人。

アルコール摂取量について,第3回健診時(中年期)に調査を行い,以下のカテゴリーに対象者を分類した(1 oz=約30 mL)。
  ・非飲酒: 第3回健診時996人
  ・1~2 oz/月(1週間に1杯以下): 751人
  ・3~15 oz/月(1週間に2杯~1日1杯): 926人
  ・16~30 oz/月(1日2杯): 362人
  ・31~60 oz/月(1日3~4杯): 311人
  ・60 oz超/月(1日5杯以上): 210人

また,第4回健診時(高齢期)にもアルコール摂取状況の調査を行い,第3回の健診時の結果と組み合わせた以下のカテゴリーによる解析も行った(「飲酒量増加」は203人と少なかったために解析から除外)。
継続して非飲酒: 860人
  飲酒量減少: 1497人
  継続して少量~中程度飲酒(1か月1~15 oz): 384人
  継続して多量飲酒(1か月16 oz以上): 331人
  第4回健診時のデータなし: 281人

認知機能の評価には,第4回健診とともに実施されたCognitive Abilities Screening Instrument(CASI,100点満点)の結果を用い,82点以上を「良好(good)」,74点以上82点未満を「中程度(intermediate)」,74点未満を「低下(poor)」とした。
結 果
◇ 対象背景(高齢期)
平均年齢77.8歳。
中年期のアルコール摂取量のカテゴリー(非飲酒,1~2 oz/月,3~15 oz/月,16~30 oz/月,31~60 oz/月,60 oz超/月)ごとにみた,高齢期のおもな対象背景は以下のとおり。
  年齢(歳): 78.3,77.8,77.1,78.1,78.0,77.8
  大学卒業以上の学歴: 15%,21%,19%,15%,11%,13%
  日系1世(日本で出生): 8%,5%,5%,9%,9%,9%
  日系2世(米国で出生): 85%,87%,85%,81%,80%,81%
  喫煙未経験: 45%,43%,30%,25%,15%,14%
  喫煙継続: 21%,22%,29%,27%,37%,45%
  脳卒中既往: 10%,12%,10%,13%,14%,11%
第1回健診および第3回健診での調査による)

◇ 中年期のアルコール摂取量と高齢期の認知機能低下
飲酒者のCASIスコアは平均84.9点で,非飲酒者の83.5点に比して有意に高かった。また,飲酒者の認知機能「低下」のリスク比は0.74(95%信頼区間0.85-0.93)と,非飲酒者に比して有意に低く,認知機能「中程度」のリスク比も0.84(0.59-1.03)と低い傾向であった。

中年期のアルコール摂取量のカテゴリー(非飲酒,1~2 oz/月,3~15 oz/月,16~30 oz/月,31~60 oz/月,60 oz超/月)ごとにみたCASIスコア,および認知機能「低下」と「中程度」のリスク比は以下のとおり(年齢,学歴,移住状況,第1回~第3回健診時にかけての喫煙状況,ならびに脳卒中既往で調整)。認知機能「低下」のリスクは60 oz超/月の飲酒者でもっとも高く,逆に3~15 oz/月の飲酒者では有意な低下がみられたことから,非線形の関連が示唆された。

  CASIスコア: 83.5(95%信頼区間82.0-84.8),84.2(82.7-85.5),84.5(83.2-85.9),84.0(82.5-85.5),83.9(82.3-85.4),81.9(80.1-83.6)
  認知機能「低下」: 1.00,0.74(0.54-1.01),0.60(0.44-0.82),0.72(0.49-1.06),0.78(0.52-1.17),1.29(0.83-2.01)
  認知機能「中程度」: 1.00,0.78(0.59-1.03),0.89(0.69-1.15),0.89(0.64-1.25),0.68(0.46-1.00),1.02(0.67-1.55)

◇ 中年期から高齢期にかけてのアルコール摂取状況の変化を考慮した解析
飲酒量は全体に低下傾向にあり,中年期の飲酒者の55%が,高齢期には非飲酒者となっていた。

摂取状況の変化を考慮したカテゴリー(継続して非飲酒,飲酒量減少,継続して少量~中程度飲酒,継続して多量飲酒,高齢期のデータなし)ごとにみたCASIスコア,および認知機能「低下」と「中程度」のリスク比は以下のとおり(年齢,学歴,移住状況,第1回~第3回健診時にかけての喫煙状況,ならびに脳卒中既往で調整)。
「継続して少量~中程度飲酒」の人では,継続して非飲酒の人に比して認知機能「低下」のリスクが約3分の1と有意に低下していた。高齢期のデータのない人では,認知機能「低下」および「中程度」のリスクが有意に高かった。

  CASIスコア: 85.1(95%信頼区間83.7-86.5),85.1(83.8-86.4),86.8(85.3-88.1),86.0(84.6-87.4),76.2(74.3-78.0)
  認知機能「低下」: 1.00,0.86(0.65-1.14),0.34(0.20-0.60),0.71(0.45-1.10),5.83(3.92-8.68)
  認知機能「中程度」: 1.00,0.85(0.67-1.09),0.73(0.50-1.04),0.85(0.59-1.22),2.69(1.79-4.04)


◇ 結論
アルコール摂取量とその後の認知機能低下リスクとの関連について,日系アメリカ人男性を対象とした長期的な前向きコホート研究による検討を行った。中年期の少量~中程度飲酒者(1日1杯以下)では,非飲酒者に比して高齢期の認知機能低下のリスクが有意に低かった。ただし,多量飲酒者(1日4杯以上)ではリスクが上昇する傾向がみられるなど,アルコール摂取量と認知機能との関連は非線形であることが示唆された。


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