[2007年文献] 40歳代の日本人男性の潜在性動脈硬化は,白人男性に比べて進行していなかった

潜在性動脈硬化の進展度およびその危険因子を40代の日米男性で比較した結果,日本人男性は白人男性よりも総コレステロール値,血圧および喫煙率が高かったにもかかわらず,潜在性動脈硬化が進行していないことが明らかになった。このことから,日本人男性が動脈硬化に予防的に働くなんらかの因子をもっている可能性が示唆される。

Sekikawa A, et al: Less subclinical atherosclerosis in Japanese men in Japan than in White men in the United States in the post-World War II birth cohort. Am J Epidemiol. 2007; 165: 617-24.pubmed

目的
食生活の欧米化,血清コレステロール値の上昇,高い喫煙率などにも関わらず,日本人の冠動脈疾患(CHD)の死亡率は先進各国に比べてきわめて低い。この理由として,冠動脈のアテローム体積が小さいこと,破綻しやすいプラークの割合が少ないこと,血栓症やその他の臨床的なイベントに関連する危険因子の保有率が低いことなどの可能性があげられる。
そこで,冠動脈カルシウムスコア(coronary calcium score,CCS)および頸動脈内膜-中膜厚(intima-media thickness,IMT)でみた潜在性動脈硬化の進行度を,戦後世代の日米男性で比較した。
コホート
第二次世界大戦後出生コホート(Post World War II Birth Cohort)。
2002~2005年に滋賀県草津市の住民基本台帳から無作為に抽出された40~49歳の地域住民男性250人,および米国ペンシルベニア州アレゲーニーの有権者登録リストから無作為に抽出された40~49歳の白人男性243人の計493人。
日本では住民基本台帳から年齢および性別,米国では有権者登録リストから年齢,性別および人種を得て,郵送により対象者に参加を依頼した。
参加率は日米とも約50%。
検査項目は身長,体重,腹囲,血圧,血液検査(総コレステロール,HDL-C,LDL-C,トリグリセリド,血糖,インスリン,CRP,フィブリノーゲン),電子線CT(冠動脈カルシウムスコア),頸動脈エコー(頸動脈の内膜-中膜厚),自己記入式質問票(飲酒,喫煙など)。

◆ベースライン時背景:
平均年齢は日本人45.2歳,白人45.1歳。
日本人で白人よりも有意に高い値を示したのは,拡張期血圧(日本人76.5 mmHg,白人73.6 mmHg),総コレステロール(219 mg/dL,212 mg/dL),HDL-C(54 mg/dL,48 mg/dL),空腹時血糖(106 mg/dL,100 mg/dL),喫煙率(49.2%,5.3%),喫煙量(18.9箱・年,0箱・年),週2回以上の飲酒(66.8 %,45.3 %),エタノール摂取量(14.3 g/日,2.9 g/日),高血圧有病率(26.4 %,15.2 %)。
白人で日本人よりも有意に高い値を示したのは,BMI(23.8 kg/m2,27.8 kg/m2),腹囲(85.3 cm,98.3 cm),血清インスリン(72.2 pmol/L,105.6 pmol/L),血清フィブリノーゲン(7.37 micromol/L,8.67 micromol/L),血清CRP(0.32 mg/L,0.87 mg/L),運動をする人の割合(26.8 %,73.3 %),降圧薬服用率(4.0 %,8.6 %),脂質降下薬服用率(3.2 %,11.5 %)。
結 果
◇冠動脈カルシウムスコア(coronary calcium score,CCS)
冠動脈カルシウムが少しでもみられる人(CCSが0を超える),およびCCS 10以上の人の割合は,白人のほうが日本人よりも有意に高かった(いずれもP<0.01)。
CCSと有意に相関していたのは,年齢,BMI,血圧(白人のみ),高血圧有病率,LDL-C(日本人のみ),HDL-C(白人のみ),トリグリセリド,空腹時血糖(白人のみ),インスリン(白人のみ),頸動脈内膜-中膜厚(IMT),フィブリノーゲン(P<0.05)。
CCS と飲酒量はU字型の相関傾向を示したが有意ではなかった。頸動脈IMTと飲酒量では,このような傾向は見られなかった。

◇頸動脈IMT
日本人の頸動脈IMTは0.616 mmと,白人の0.672 mmよりも有意に低い値を示した(P<0.01)。
頸動脈IMTと有意に相関していたのは,年齢,BMI,血圧,高血圧有病率,糖尿病有病率(日本人のみ),LDL-C(白人のみ),空腹時血糖(日本人のみ),CCS> 0,CCS≧ 10(P<0.05)。

◇ 結論
潜在性動脈硬化の進展度およびその危険因子を40代の日米男性で比較した結果,日本人男性は白人男性よりも総コレステロール値,血圧および喫煙率が高かったにもかかわらず,潜在性動脈硬化が進行していないことが明らかになった。このことから,日本人男性が動脈硬化に予防的に働くなんらかの因子をもっている可能性が示唆される。


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