[2011年文献] 農村地域より漁村地域のほうが,収縮期血圧と心血管疾患死亡との関連が弱い

海洋生物由来のn-3飽和脂肪酸を適度に摂取すると心血管疾患死が抑制されることが,これまでのメタ解析で示唆されている。また,日本の農村と漁村を比較した複数の研究により,魚の平均摂取量は農村地域で1日あたり約100 g/日,漁村地域では200~250 gであることや,n-3系多価不飽和脂肪酸の血中濃度が漁村地域で高いことなどが示されている。この研究では,日本の農村地域の代表となる田主丸コホートと漁村代表となる牛深コホートを40年間追跡し,血圧と脳卒中死亡および心血管疾患死亡との関連を比較した。その結果,収縮期血圧と脳卒中死亡および心血管疾患死亡リスクとの関連は,田主丸コホートで牛深コホートにくらべて明瞭であったことから,収縮期血圧が高くなることによる死亡リスクへの影響は,魚をより多く摂取することで弱まる可能性が示唆された。

Hirai Y, et al. Systolic blood pressure predicts cardiovascular mortality in a farming but not in a fishing community. -A 40-year follow up of the Japanese cohorts of the seven countries study-. Circ J. 2011; 75: 1890-6.pubmed

コホート
Seven Countries Studyの田主丸コホート,牛深コホート。
1958年に健診を受診した田主丸(農村)の住民508人,および1960年に健診を受診した牛深(漁村)の住民502人のうち,ベースラインの血圧値とおもな交絡因子のデータに不備のない40~59歳の男性1006人(田主丸508人,牛深498人)を解析対象とした。
平均追跡期間は田主丸コホート40年(13116人・年),牛深コホート39.3年(12003人・年)。

高血圧の定義は収縮期血圧(SBP)≧140mmHgまたは拡張期血圧(DBP)≧90mmHgとした(当初は両コホートとも降圧治療を受けている人はまれであったため,降圧薬服用は高血圧の定義に含めなかった)。
SBP,DBPともに仰臥位で2回測定した値の平均を求め,全体をそれぞれ以下の3つのカテゴリーに分けて検討した。

田主丸コホート
・SBP: <120 mmHg(158人),120~139 mmHg(188人),≧140 mmHg(162人)
・DBP: <70 mmHg(184人),70~84 mmHg(219人),≧85 mmHg(105人)

牛深コホート
・SBP: <120 mmHg(122人),120~139 mmHg(186人),≧140 mmHg(190人)
・DBP: <70 mmHg(92人),70~84 mmHg(266人),≧85 mmHg(140人)
結 果
◇ 対象背景
平均年齢は田主丸コホート50.1歳,牛深コホート49.5歳。
ベースライン時に両コホート間で有意な差が認められた背景は以下のとおり。

  BMI:田主丸コホート21.8 kg/m2,牛深コホート22.1 kg/m2(P=0.05)
  収縮期血圧(SBP):133.1 mmHg,136.9 mmHg(P=0.02)
  拡張期血圧(DBP):73.7 mmHg,78.4 mmHg(P<0.01)
  高血圧:32.3%,39.4%(P=0.02)
  安静時心拍数:60.6拍/分,65.2拍/分(P<0.01)
  喫煙状況(P=0.01)
     喫煙未経験:16.3%,15.0%
     禁煙:13.0%,7.3%
     現在喫煙:70.7%,77.6%
  仕事での身体活動の度合い(P<0.01)
     強度の身体労働:54.1%,75.9%
     中等度の身体労働:41.7%,16.9%
     座位中心:4.1%,7.2%
  職業(P<0.01)
     農業:77.4%,5.4%
     漁業:0.8%,65.1%
     専門職:13.6%,7.2%
     肉体労働:8.3%,22.3%

追跡期間中の死亡は田主丸コホート418人,牛深コホート413人。
全心血管疾患死亡は118人, 130人,脳卒中死亡は75人,78人,冠動脈疾患死亡は30人,23人,その他の心血管疾患死亡は13人,29人であった。

◇ SBPと脳卒中死亡,心血管疾患死亡リスク
両コホートともにSBPと心血管疾患死亡および脳卒中死亡との有意な関連が認められ,とくに田主丸コホートでより強い関連がみられ,SBP≧140 mmHgのカテゴリーでSBP<120 mmHgにくらべて脳卒中死亡リスクが4倍,心血管疾患死亡リスクが3倍となっていた。牛深コホートでは,それぞれ1.7倍。これらの関連は,交絡因子による調整後も有意であった。

SBPの各カテゴリーにおける脳卒中死亡および心血管疾患死亡の多変量調整*ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。
*年齢,身長,体重,喫煙状況,身体活動,および職業により調整

・田主丸コホート
  脳卒中死亡:SBP<120 mmHg:1(対照),120~139 mmHg:2.21(0.99-4.94),≧140 mmHg:4.42(2.02-9.70)(P for trend<0.001)
  心血管疾患死亡:1,1.78(1.00-3.14),3.05(1.73-3.25)(P for trend<0.001)

・牛深コホート
  脳卒中死亡:1,0.94(0.46-1.91),1.74(0.91-3.32)(P for trend<0.001)
  心血管疾患死亡:1,1.00(0.58-1.71),1.66(1.01-2.75)(P for trend<0.001)

また,脳卒中死亡についてはコホートとSBPの有意な相互作用がみられた(P=0.03)。心血管疾患死亡ではボーダーライン上の相互作用であった(P=0.09)。

◇ DBPと脳卒中死亡,心血管疾患死亡リスク
DBPと脳卒中死亡,心血管疾患死亡との関連は両コホートで同様であった。両コホートとも,DBP<70 mmHgのカテゴリーにくらべ,70~84 mmHgのカテゴリーで約30%のリスク増加がみられたが有意ではなく,>85 mmHgではリスクが2.5倍前後と有意に増加していた。

DBPの各カテゴリーにおける脳卒中死亡および心血管疾患死亡の多変量調整*ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。
*年齢,身長,体重,喫煙状況,身体活動,および職業により調整

・田主丸コホート
  脳卒中死亡:DBP<70 mmHg:1(対照),70-84 mmHg:1.34(0.74-2.42),≧85 mmHg:2.81(1.49-5.29)(P for trend<0.001)
  心血管疾患死亡:1,1.38(0.87-2.19),2.32(1.39-3.89)(P for trend<0.001)

・牛深コホート
  脳卒中死亡:1,1.27(0.56-2.89),2.71(1.18-6.21)(P for trend<0.001)
  心血管疾患死亡:1,1.33(0.71-2.48),2.58(1.36-4.89)(P for trend<0.001)


◇結論
魚介類由来のn-3系多価不飽和脂肪酸を適度に摂取すると心血管疾患死が抑制されることが,これまでのメタ解析で示唆されている。また,日本の農村と漁村を比較した複数の研究により,魚の平均摂取量は農村地域で1日あたり約100 g/日,漁村地域では200~250 gであることや,n-3系多価不飽和脂肪酸の血中濃度が漁村地域で高いことなどが示されている。この研究では,日本の農村地域の代表となる田主丸コホートと漁村代表となる牛深コホートを40年間追跡し,血圧と脳卒中死亡および心血管疾患死亡との関連を比較した。その結果,収縮期血圧と脳卒中死亡および心血管疾患死亡リスクとの関連は,田主丸コホートで牛深コホートにくらべて明瞭であったことから,収縮期血圧が高くなることによる死亡リスクへの影響は,魚をより多く摂取することで弱まる可能性が示唆された。


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