[2008年文献] ヘム鉄および赤身肉の摂取は血圧と正の相関,鉄および非ヘム鉄は血圧と負の相関を示した

鉄分と血圧に相関があるとする説の検証を目的として,鉄の摂取,および赤身肉の摂取と血圧との関連について,4か国17集団における断面解析により検討した。その結果,鉄および非ヘム鉄の摂取量は血圧と逆相関していたが,おもに肉に含まれる鉄分であるヘム鉄は血圧と弱い正の相関を示した。赤身肉の摂取量は血圧と正の相関を示した。鉄分は,酸化ストレスや炎症反応を介して動脈硬化にも関連すると考えられている。また,ヘム鉄と非ヘム鉄は代謝・吸収に違いがある。鉄の摂取と血圧の関連について,他の集団においても検討を行うことが望まれる。

Tzoulaki I, et al.; International Collaborative Research Group on Macro-/Micronutrients and Blood Pressure. Relation of iron and red meat intake to blood pressure: cross sectional epidemiological study. BMJ. 2008; 337: a258.pubmed

コホート
INTERMAP研究に参加した日本,中国,イギリスおよび米国(計4か国17集団)の40~59歳の4680人(断面解析)。
結 果
収縮期血圧がもっとも低かったのは日本(117.2 mmHg),もっとも高かったのは中国(121.3 mmHg)。
拡張期血圧がもっとも低かったのは中国(73.2 mmHg),もっとも高かったのは英国(77.3 mmHg)。
摂取エネルギー4.2 MJ [約1000 kcal]あたりの鉄の摂取量は,米国7.8 mg,中国7.8 mg,英国6.2 mg,日本5.3 mgであった。
BMIおよび総摂取エネルギーは,米国でもっとも高く,中国と日本で低かった。

◇ 鉄,およびヘム鉄,非ヘム鉄の摂取
摂取した鉄のうちヘム鉄が占める割合は,英国および米国で6 %,日本で9 %,中国で3 %だった。
ヘム鉄の供給源に占める肉類の割合は,英国90 %,米国87 %,中国88 %,日本61 %。
非ヘム鉄の供給源は,日本および中国ではおもに野菜・豆類で,英国および米国ではパンおよびシリアルだった。

ヘム鉄の摂取量と正の相関を示した栄養素は,総蛋白質(r=0.53),動物性蛋白質(r=0.63)。
非ヘム鉄の摂取量と正の相関を示した栄養素は,植物性蛋白質(r=0.47),食物繊維(r=0.54),リン(r=0.47),カルシウム(r=0.42),マグネシウム(r=0.59)。また,非ヘム鉄は24時間尿中カリウム排泄量とも正の相関を示した(r=0.50)。

◇ 鉄の摂取と血圧
鉄の摂取量は,収縮期血圧,および拡張期血圧と有意な負の相関を示した(いずれもP<0.001 [年齢,性別,コホート,身長,体重,特別食,サプリメントの使用,運動,心血管疾患または糖尿病既往,高血圧家族歴で調整])。
さらに尿中カリウム・ナトリウム排泄,血中脂質などを含めたモデルによると,4.2 MJ [約1000 kcal]あたり4.2 mg多くの鉄を摂取すると,収縮期血圧が1.39 mmHg低下し(P<0.01),拡張期血圧が0.68 mmHg低下することが示された(P=0.01)。

さらにヘム鉄と非ヘム鉄について解析を行うと,血圧と非ヘム鉄との負の関連が強いことがわかった。
ヘム鉄は血圧と正の相関を示したが,有意ではなかった。

以上の結果は,特別食やサプリメントをとっていないサブグループで検討を行っても同様だった。

食事からの鉄の摂取,およびサプリメントからの鉄の摂取をあわせた解析を行うと,鉄の摂取量は依然として血圧と負の相関を示したものの,食事からの鉄のみで行った解析に比べて相関が弱まった。

◇ 赤身肉
赤身肉の摂取量は国ごとに大きく異なっており,1日あたりの摂取量は英国で91 g,米国で76 g,日本で39 g,中国で24 gだった。

◇ 赤身肉の摂取と血圧
赤身肉の摂取量は,収縮期血圧および拡張期血圧と有意な正の相関を示した(それぞれP<0.001,P<0.01 [年齢,性別,コホート,身長,体重,特別食,サプリメントの使用,運動,心血管疾患または糖尿病既往,高血圧家族歴で調整])。

1日あたり103 g多くの赤身肉を摂取すると,収縮期血圧が1.25 mmHg上昇し(P<0.01),拡張期血圧が0.73 mmHg上昇することがわかった(P=0.01)。

赤身肉の摂取に占める牛肉の割合は,中国で5 %,日本で33 %,英国で40 %,米国で66 %だった。
牛肉のみで血圧との関連を検討した結果,摂取量は収縮期血圧と有意な正の相関を示したが(P<0.01),拡張期血圧との有意な関連はみとめられなかった。

以上の結果は,特別食やサプリメントをとっていないサブグループで検討を行っても同様だった。

◇ 結論
鉄分と血圧に相関があるとする説の検証を目的として,鉄の摂取,および赤身肉の摂取と血圧との関連について,4か国17集団における断面解析により検討した。その結果,鉄および非ヘム鉄の摂取量は血圧と逆相関していたが,おもに肉に含まれる鉄分であるヘム鉄は血圧と弱い正の相関を示した。赤身肉の摂取量は血圧と正の相関を示した。鉄分は,酸化ストレスや炎症反応を介して動脈硬化にも関連すると考えられている。また,ヘム鉄と非ヘム鉄は代謝・吸収に違いがある。鉄の摂取と血圧の関連について,他の集団においても検討を行うことが望まれる。


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