[2010年文献] ナトリウム摂取源として,日本,米国,イギリスでは加工食品中の塩,中国では自宅の食事で使う塩が多い

日本,中国,米国,イギリスの4か国において標準化した食事調査,ならびに24時間蓄尿によるナトリウム排泄量の測定を行い,摂取したナトリウムがどのような食品にどのくらい含まれていたかを検討した。その結果,日本,米国およびイギリスでは,商業的な加工食品にすでに含まれているナトリウムが摂取源の大半を占めていたが,中国(とくに農村部)では,家庭において個人の好みで料理に添加される,あるいは振りかけられる塩が多くの割合を占めていた。以上より,ナトリウム摂取量の抑制のために,日本,米国およびイギリスでは商業的な加工食品から,中国では家庭での料理から塩分を減らす努力が必要と考えられる。

Anderson CA, et al. Dietary sources of sodium in China, Japan, the United Kingdom, and the United States, women and men aged 40 to 59 years: the INTERMAP study. J Am Diet Assoc. 2010; 110: 736-45.pubmed

コホート
INTERMAP研究に参加した日本(4集団),中国(農村部3集団),イギリス(2集団)および米国(8集団)の40~59歳の4895人のうち,計4回行われた調査のいずれかに参加しなかった110人,食事調査への回答が信頼できないと判断された7人,総摂取エネルギーが極端に少なかった(500 kcal/日未満)または極端に多かった(男性8000 kcal/日超,女性5000 kcal/日超)37人,2回行った尿検査のいずれかの検体に不備のあった37人,およびその他のデータに不備があったかプロトコル違反のあった24人を除外した4680人(断面解析)。
結 果
◇ 対象背景
日本人(1145人),中国人(839人),イギリス人(501人),アメリカ人(2195人)それぞれのおもな対象背景は以下のとおり。
  年齢(歳): 49.4,49.0,49.1,49.1
  BMI(kg/m2): 23.4,23.1,27.5,28.9
  収縮期血圧(mmHg): 117.2,121.3,120.4,118.6
  拡張期血圧(mmHg): 73.6,73.2,77.3,73.4
  ナトリウム排泄量(24時間蓄尿,mg): 4561,5233,3339,3739
  ナトリウム摂取量(食事調査,mg): 4651,3990,3406,3660
  高血圧(%): 13.4,17.3,23.2,27.1

◇ 日本におけるナトリウム摂取源
食事調査の結果,日本人の1日あたりのナトリウム摂取量は4651 mgで,計340の食品からそれぞれ1日1 mg以上のナトリウムを摂取していた。
おもな内訳は以下のとおりで,家庭および外食時に料理に添加される塩が9.5%を占めていた。

  醤油: 932 mg(20.0%)
  野菜・果物の塩漬け: 458 mg(9.8%)
  味噌汁: 450 mg(9.7%)
  魚(生または塩漬け): 443 mg(9.5%)
  料理に含まれる塩(飲食店・ファストフード・家庭): 441 mg(9.5%)
  味噌汁以外のスープ: 311 mg(6.7%)
  パン・麺類: 215 mg(4.6%)
  ソース・調味料(醤油以外): 203 mg(4.4%)
  かまぼこ・練り物: 131 mg(2.8%)
  加工肉(ハム・ソーセージ・ベーコン): 103 mg(2.2%)
  海産物(いか,えび,鰻,牡蠣,かに): 78 mg(1.7%)
  ルー(カレー・コンソメ): 64 mg(1.4%)
  卵: 53 mg(1.1%)
  魚卵: 45 mg(1.0%)

◇ 中国におけるナトリウム摂取源
食事調査の結果,中国人の1日あたりのナトリウム摂取量は3990 mgで,計105の食品からそれぞれ1 mg以上のナトリウムを摂取していた。
おもな内訳は以下のとおりで,家庭で料理に添加される塩が75.8%を占めていた。

  家庭で料理に添加される塩: 3024 mg(75.8%)
  醤油: 255.5 mg(6.4%)
  辛子菜,カブの葉,キャベツ: 143.4 mg(3.6%)
  重炭酸ナトリウム・炭酸ナトリウム(柔化剤): 98.1 mg(2.5%)
  麺類: 88.8 mg(2.2%)
  パン(豆の入った饅頭など): 63.9 mg(1.6%)
  塩漬け卵: 31.7 mg(0.8%)
  グルタミン酸ナトリウム: 24.5 mg(0.6%)

なお,1日あたりのナトリウム摂取量は北部(北京および上海)では4733 mg,南部(広西チワン族自治区)では2491 mgと顕著な地域差がみとめられ,これはおもに南部において,家庭で料理に添加される塩の量が北部の約半分であったことによる。

◇ イギリスにおけるナトリウム摂取源
食事調査における1日あたりのナトリウム摂取量(3406 mg)の内訳は以下のとおりで,家庭で料理に添加される塩が5.0%を占めていた。

  パン・穀物・シリアル: 1178.2 mg(34.6%)
  赤身肉,鶏肉,卵: 696.3 mg(20.4%)
  野菜・ベジタリアン食品: 280.1 mg(8.2%)
  乳製品: 267 mg(7.8%)
  スパイス・香料・グレービー・ソース: 170.1 mg(5.0%)
  家庭料理に添加される塩: 169.0 mg(5.0%)
  スープ: 134.3 mg(3.9%)
  スプレッド(パンに塗る): 125.9 mg(3.7%)

◇ 米国におけるナトリウム摂取源
食事調査における1日あたりのナトリウム摂取量(3660 mg)の内訳は以下のとおりであった。
家庭および外食時に料理に添加される塩(29.0%)については,ファストフードとそれ以外の加工食品のデータを分ける過程で過大評価されたと考えられる。

  料理に含まれる塩(飲食店・ファストフード・家庭): 1062.9 mg(29.0%)
  パン・穀物・シリアル: 713.0 mg(19.5%)
  赤身肉,鶏肉,卵: 439.5 mg(12.0%)
  乳製品: 300.4 mg(8.2%)
  グレービー・調味料・ソース・ドレッシング: 262.0 mg(7.2%)
  醤油・照り焼きソース: 166.4 mg(4.5%)
  野菜・大豆蛋白食品: 119.4 mg(3.3%)
  スープ: 104.8 mg(2.9%)
  ピクルス・オリーブ: 54.7 mg(1.5%)
  ベーキングパウダー・重曹: 52.7 mg(1.4%)
  マーガリン: 45.9 mg(1.3%)


◇ 結論
日本,中国,米国,イギリスの4か国において標準化した食事調査,ならびに24時間蓄尿によるナトリウム排泄量の測定を行い,摂取したナトリウムがどのような食品にどのくらい含まれていたかを検討した。その結果,日本,米国およびイギリスでは,商業的な加工食品にすでに含まれているナトリウムが摂取源の大半を占めていたが,中国(とくに農村部)では,家庭において個人の好みで料理に添加される,あるいは振りかけられる塩が多くの割合を占めていた。以上より,ナトリウム摂取量の抑制のために,日本,米国およびイギリスでは商業的な加工食品から,中国では家庭での料理から塩分を減らす努力が必要と考えられる。


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