[2015年文献] 糖尿病を有するアテローム血栓症患者では心血管イベント・全死亡リスクが有意に高い

REACH Registryに登録されたアテローム血栓症患者または高リスク患者を対象に,糖尿病有病と4年後の心血管イベントとの関連,ならびにその予測因子について検討を行った。その結果,糖尿病有病者では非有病者と比べて,全死亡ならびに心血管イベント(心血管死亡,非致死性心筋梗塞)リスクが有意に高かった。また,全身性動脈硬化性疾患合併,うっ血性心不全合併,1年以内の虚血イベント発生は,糖尿病有病者における心血管死亡の有意な予測因子であった。糖尿病を合併したアテローム血栓症患者に対しては,さらなる治療を検討すべきと考えられる。

Cavender MA, et al.; REACH Registry Investigators*. Impact of Diabetes Mellitus on Hospitalization for Heart Failure, Cardiovascular Events, and Death: Outcomes at 4 Years From the Reduction of Atherothrombosis for Continued Health (REACH) Registry. Circulation. 2015; 132: 923-31.pubmed

コホート
2003~2004年にREACH Registryに登録された,冠動脈疾患(CHD)・末梢動脈疾患(PAD)・脳血管疾患(CeVD)いずれかのアテローム血栓症を持つ,またはアテローム血栓症の危険因子【参照】を3つ以上持つ45歳以上の外来患者45227人を解析の対象とした。追跡期間は2008年までの4年間。

糖尿病の診断基準は以下のとおり。
 ・薬物または生活習慣改善による糖尿病治療が行われている人
 ・検査時に空腹時血糖値>126 mg/dLを2回以上みとめながらも,薬物治療または生活習慣改善が行われていない人
結 果
◇ 対象背景
糖尿病有病者は19699人(43.6%)。

平均年齢は,糖尿病有病者・非有病者ともに68.4歳。北米・西ヨーロッパ諸国の患者の割合は66.9%。
糖尿病有病者では,非有病者と比べて,男性の割合,白人の割合,CHDの割合(50.4% vs. 64.5%,P<0.001),CeVDの割合(24.0% vs. 31.7%,P<0.001)が有意に低く,心不全の既往(16.1% vs. 11.8%,P<0.001),高血圧(87.2% vs. 76.7%),高脂血症(73.4% vs. 68.0%),肥満(BMI≧30 kg/m2)(37.9% vs. 21.1%),腎不全(32.4% vs. 0.5%)などの心血管危険因子を有する割合は有意に高かった(いずれもP<0.001)。

◇ 糖尿病の有無と心血管イベント・全死亡リスクとの関連
糖尿病の有無別にみた4年後の全死亡と心血管イベント(心血管死亡,非致死性心筋梗塞,非致死性脳卒中)の年齢・性別調整後のハザード率(95%信頼区間)は以下のとおり。非致死性脳卒中を除き,いずれも糖尿病有病者で有意に高かった。

 心血管死亡+非致死性心筋梗塞+非致死性脳卒中: 糖尿病有病者16.5%(16.0-17.1) vs.非有病者13.1%(12.6-13.5),P<0.001
 全死亡: 14.3%(13.8-14.9)vs. 9.9%(9.5-10.3),P<0.001
 心血管死亡: 8.9%(8.4-9.4)vs. 6.0%(5.7-6.3),P<0.001
 非致死性心筋梗塞: 4.4%(4.0-4.7)vs. 3.2%(2.9-3.4),P<0.001
 非致死性脳卒中:5.7%(5.3-6.0)vs. 5.3%(5.0-5.6),P=0.14

◇ 糖尿病有病者における心血管イベントリスクの予測因子
Cox比例ハザード生存モデルで検討した,糖尿病有病者における4年後の心血管イベント(心血管死亡・心筋梗塞・脳卒中)の有意な予測因子(多変量調整ハザード比[95%信頼区間])は以下のとおりであった(性別,年齢,地域,心血管危険因子,薬物治療[スタチン・アスピリン・降圧薬・血糖降下薬]で調整)。

・正の関連
 全身性動脈硬化性疾患合併(vs. 危険因子のみ): 1.92(1.66-2.22),P<0.001
 うっ血性心不全合併(vs. 非合併): 1.70(1.55-1.87),P<0.001
 1年以内の虚血イベント発生(vs. 非発生): 1.64(1.45-1.85),P<0.001
 1つの脈管領域の疾患(vs. 危険因子のみ): 1.45(1.28-1.64),P<0.001
 腎機能障害あり(vs. なし): 1.39(1.28-1.51),P<0.001
 虚血イベント発生から1年超(vs. 非発生): 1.36(1.23-1.50),P<0.001
 年齢(+10歳): 1.34(1.28-1.41),P<0.001
 ベースライン時のインスリン使用(vs. 非使用): 1.33(1.21-1.46),P<0.001
 喫煙歴(vs. 以前喫煙していた/喫煙歴なし): 1.25(1.11-1.40),P<0.001
 心房細動合併(vs. 非合併): 1.24(1.11-1.39),P<0.001
 東ヨーロッパ(vs. 北米): 1.20(1.03-1.39),P=0.02
 男性(vs. 女性): 1.19(1.09-1.29),P<0.001

・負の関連
 スタチン服用(vs. なし): 0.82(0.72-0.94),P=0.003
 日本(vs. 北米): 0.61(0.52-0.71),P<0.001

◇ 糖尿病有病者における心不全入院リスクと予測因子
糖尿病有病者では,非有病者と比べて,4年後の心不全による入院リスクが有意に高かった(9.4% vs. 5.9%,多変量調整オッズ比1.33[95%信頼区間: 1.18-1.50])。

ロジスティック回帰モデルによる,糖尿病有病者における4年後の心不全による入院の予測因子(多変量調整オッズ比)は以下のとおり。

・正の関連
 うっ血性心不全合併(vs. 非合併): 4.72(4.22-5.29),P<0.001
 全身性動脈硬化性疾患合併(vs. 危険因子のみ): 1.98(1.64-2.39),P<0.001
 中東(vs. 北米): 1.86(1.22-2.85),P=0.004
 心房細動合併(vs. 非合併): 1.68(1.47-1.93),P<0.001
 腎機能障害あり(vs. なし): 1.58(1.39-1.80),P<0.001
 うっ血性心不全に対する薬物治療(vs. なし): 1.58(1.21-2.08),P<0.001
 1つの脈管領域の疾患(vs. 危険因子のみ): 1.46(1.24-1.71),P<0.001
 年齢(+10歳): 1.30(1.22-1.39),P<0.001
 東ヨーロッパ(vs. 北米): 1.38(1.12-1.70),P=0.002
 西ヨーロッパ(vs. 北米): 1.24(1.09-1.40),P=0.001

・負の関連
 日本(vs. 北米): 0.44(0.34-0.58),P<0.001

◇ 結論
REACH Registryに登録されたアテローム血栓症患者または高リスク患者を対象に,糖尿病有病と4年後の心血管イベントとの関連,ならびにその予測因子について検討を行った。その結果,糖尿病有病者では非有病者と比べて,全死亡ならびに心血管イベント(心血管死亡,非致死性心筋梗塞)リスクが有意に高かった。また,全身性動脈硬化性疾患合併,うっ血性心不全合併,1年以内の虚血イベント発生は,糖尿病有病者における心血管死亡の有意な予測因子であった。糖尿病を合併したアテローム血栓症患者に対しては,さらなる治療を検討すべきと考えられる。


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