[Editorial View] 沖縄透析研究(Okinawa Dialysis Study: OKIDS)から心-腎連関を探る

慢性腎臓病(chronic kidney disease: CKD)と心血管疾患(CVD)との関連が注目されている。
Framingham Heart Studyは1984年に蛋白尿と死亡リスクの関連1)を発表し,2004年にはCKDの危険因子としてBMI,高血圧,糖尿病などを指摘した2)。わが国からも2005年に久山町研究がCKDは男性の冠動脈疾患(CAD),女性の脳梗塞の危険因子3),メタボリックシンドローム(MetS)はCKDの危険因子である4)と2006年に発表し,同年NIPPON DATA90もCKDはCVDの危険因子だとした5)
『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版』を発表した日本動脈硬化学会は,CADとCKDの関係を検討する委員会を発足し,CVD予防の観点からCKDを捉えようとしている。
ここでは,沖縄県の透析患者の登録研究であるOkinawa Dialysis Study(OKIDS)からCVDとCKDの関連をみてみたい。
1) Am Heart J. 1984; 108: 1347-52pubmed, 2) JAMA. 2004; 291: 844-50pubmed
3) Kidney Int. 2005; 68: 228-36pubmed, 4) Am J Kidney Dis. 2006; 48: 383-91pubmed
5) Circ J. 2006; 70: 954-9pubmed
長寿で健康的なイメージがある沖縄県だが,食生活の西洋化が日本で最も早い時期に急速に進んだため,疾患の欧米化も全国に先駆けて進行していることが懸念されている。
また県民の400人に1人が透析患者で,人口当たりの透析施設が最も多く,日本でも有数の「透析県」である。
OKIDSは1971~2000年に5000人を超える透析患者を登録し,透析導入後のCVDの発症,生命予後との関連を追跡検討しているコホート観察研究。
Dr.Iseki_comment

OKIDSからの主な所見
2000年   血圧上昇との関連度は脳卒中ほど顕著ではないものの累積透析導入率も上昇
(Hypertens Res. 2000; 23: 143-9.pubmed
2002年   トリグリセライドは蛋白尿発症の危険因子
(Kidney Int. 2002; 62: 1743-9.pubmed
2003年   蛋白尿の程度(試験紙法)と透析導入の累積発症率との関連(図1
(Kidney Int. 2003; 63: 1468-74.pubmed

健診時の血圧レベルと透析導入の累積発症率との関連(図2
(Hypertension. 2003; 41: 1341-5.pubmed

2004年   BMIと蛋白尿,末期腎不全(end stage renal disease: ESRD)の発症は関連する(図3
(Kidney Int. 2004; 65: 1870-6.pubmed

健診時の腎機能レベル(Cockcroft-Gault法で計算したクレアチニン・クリアラ ンス)および蛋白尿の有無と透析導入の累積発症率との関連
(Am J Kidney Dis. 2004; 44: 806-14.pubmed

2006年   MetSの構成要因数の増加に伴いCKDの有病率が上昇(図4
(Kidney Int. 2006; 69: 369-74.pubmed

CKD症例は非CKDに比べ心血管疾患,ESRDが増加
(Vascular Disease Prevention. 2006; 3: 327-33.)

2007年   MetSの有無でCKD発症率に有意差
(Hypertens Res. 2007; 30: 937-43.pubmed

肥満者の多い睡眠時無呼吸患者にはCKDが高頻度である
(Hypertens Res. 印刷中)


〔図1〕
図1
〔図2〕
図2
〔図3〕
図3
〔図4〕
図4
Dr.Iseki_comment

日本人の20%がCKD (日本腎臓学会調査による。CKD:腎機能の低下,蛋白尿)
心血管疾患の新たな危険因子として注目されるCKD
2002年   アメリカ腎臓財団(NKF)がCKDを定義し,ステージごとの行動計画を発表
2003年   アメリカ心臓病学会(AHA)がCKDはCVD発症のリスクと声明を発表
2004年   日本腎臓学会CKD対策小委員会を発足
2006年   世界腎臓デー(3月の第2木曜日)制定
日本慢性腎臓病対策協議会(J-CKDI)発足
2007年   日本動脈硬化学会,CADとCKDの関係を検討する委員会を発足

 心血管疾患からCKDをみる

epi-c.jp編集委員 寺本民生 帝京大学医学部内科 脂質代謝異常とCKD   epi-c.jp編集委員 桑島 巌 東京都老人医療センター 心血管疾患とCKD
CKDに高トリグリセライド,低HDL-Cなどの脂質代謝異常が多いことはよく知られています。Helsinki Heart Studyが1995年に1),2003年にPhysicians’ Health Study2)が脂質値と腎機能障害進展リスクとの関連を発表し,CKDにおける脂質低下治療による腎保護効果がCARE3),GREACE4),TNT試験5)などで示唆されていますが,心血管疾患を抑制するという決定的なエビデンスはまだありません。
CKDの初期段階である微量アルブミン尿がMetS,冠動脈疾患と関連し,末期の状態であるESRDは高血圧と関連,さらにカルシウム代謝異常による石灰化プラークが増加することが分かっています。微量アルブミン尿はatherosclerosis(アテローム性動脈硬化),すなわち脂質に依存する「欧米型」病態に関与し,ESRDは線維性のarteriosclerosis(動脈硬化),すなわち血圧に依存する「過去の日本型」病態であるわけです。血液透析を受けている2型糖尿病患者におけるatorvastatinの心血管疾患の有意な抑制効果はなしとした4D6)から,血圧依存型の病態にはスタチン系薬剤の効果は期待できないことと,早期のCKDにおける脂質管理の重要性がうかがえます。現時点ではまずは微量アルブミンから蛋白尿への進展を予防する第1段階のCKD対策,透析導入を1日でも先送りできるような第2段階のESRD対策を考慮した治療戦略が必要だと思います。
 
治療学が進歩したことにより脳・心臓の合併症は減少してきました。すると血管病の最終段階である腎硬化症が残ったのです。短命だった時代は腎臓病を発症する前に亡くなっていたのですが,長寿時代を迎え腎臓病が浮かび上がってきたわけです。
心臓と腎臓の関連は以前から分かっていましたが,CKDという概念が出てきたことでCVDのリスクという視点が加わり,循環器領域と腎臓領域の距離が近くなりました。これまではCKDの早期発見は透析導入を遅延させることだけを視野に入れていましたが,循環器疾患の予防という重要性が加わったわけです。
糸球体は細小血管の塊なわけですから,これからは「血管病」という共通の概念で脳・心・腎疾患を捉えていくことが重要だと考えています。循環器医は今後,全血管に配慮し,大血管と細小血管という意識で治療していくことが必要になると思います。血管病の最大の原因は高血圧ですから,クレアチニンが低下したからといって油断することなく,血圧のコントロールを続けてCVD予防に努めなくてはいけないと思います。
 

1) Hypertension. 1995; 26: 670-5pubmed, 2) J Am Soc Nephrol. 2003; 14: 2084-91pubmed, 3) J Am Soc Nephrol. 2003; 14: 1605-13pubmed, 4) J Clin Pathol. 2004; 57: 728-34pubmed, 5) Clin J Am Soc Nephrol. 2007; 2: 1131-9pubmed, 6) N Engl J Med. 2005; 353: 238-48.pubmed
ESRD: end-stage renal disease; 末期腎不全,MetS: メタボリックシンドローム
試験名 CARE:Cholesterol and Recurrent Events,GREACE :Greek Atorvastatin and Coronary Heart Disease Evaluation,TNT:Treating to New Targets,4D:German Diabetes and Dialysis Study


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