[2012年文献] 大気中の二酸化窒素(NO2)濃度が高い日に発症した脳卒中および脳梗塞の急性期致死率は高い

日本人一般住民を対象とした循環器疾患発症登録研究により,1988~2004年の16年間に脳卒中または急性心筋梗塞を発症した人において,発症日の大気汚染物質濃度と発症後28日以内の急性期致死率との関連を検討した。その結果,交通関連の大気汚染指標である二酸化窒素(NO2)の高値の日と脳卒中,ならびに脳梗塞発症者の急性期致死率との有意な関連がみとめられた。

Turin TC, et al. Ambient Air Pollutants and Acute Case-Fatality of Cerebro-Cardiovascular Events: Takashima Stroke and AMI Registry, Japan (1988-2004). Cerebrovasc Dis. 2012; 34: 130-139.pubmed

コホート
高島循環器疾患発症登録研究。
滋賀県高島市の住民のうち,1988年1月1日~2004年12月31日(6210日間[16年間])に脳卒中を初発した2038人(男性1083人,女性955人)および急性心筋梗塞(AMI)を初発した429人(男性281人,女性148人)。
脳卒中発症時平均年齢は男性69.7歳,女性75.0歳,AMI発症時平均年齢は男性68.3歳,女性75.3歳。

大気汚染については,国立環境研究所の大気環境データベースを用い,高島市にもっとも近い観測局において,研究期間中,毎日記録された4つの物質の大気中濃度の日間平均値の四分位によって,各日を以下のカテゴリーのいずれかに分類した(したがって,たとえばSPMが20μg/m3であった日に脳卒中を発症した人がいた場合,その発症者の発症日のSPM濃度はQ2となる)。
  ・二酸化窒素(NO2)(ppb): 研究期間中の平均値16.0
   Q1: <10.3(対照),Q2: 10.3~14.7,Q3: 14.8~20.6,Q4: >20.6
  ・浮遊粒子状物質*(suspended particulate matter: SPM)(μg/m3):平均値26.9
   Q1: <16.0(対照),Q2: 16.0~24.2,Q3: 24.3~34.8,Q4: >34.8
  ・二酸化硫黄(SO2)(ppb): 平均値3.9
   Q1: <2.6(対照),Q2: 2.6~3.5,Q3: 3.6~4.8,Q4: >4.8
  ・光化学オキシダント**(Ox)(ppb): 平均値28.4
   Q1: <19.0(対照),Q2: 19.0~27.6,Q3: 27.7~36.5,Q4: >36.5
*浮遊粒子状物質: 日本の大気質基準では,空気力学径10μm以下の粒子(10μm を超える粒子は100%除外されている)。
**光化学オキシダント(酸化物質): 窒素酸化物と炭化水素の光化学反応により生じる,おもにオゾンまたはその他の二次的オキシダント。
結 果
◇ 発症と発症後の死亡状況
脳卒中発症者2038人のうち,脳梗塞は1389人,脳出血は432人,くも膜下出血は190人であった。

発症後28日以内の死亡者数と,死亡時の平均年齢は以下のとおり。
  脳卒中: 男性153人(71.0歳),女性154人(76.4歳)
  急性心筋梗塞(AMI): 94人(72.5歳),54人(78.6歳)

◇ 脳卒中/AMI発症者の発症日の大気汚染物質濃度と急性期致死率との関連
(1)浮遊粒子状物質(SPM)
脳卒中/AMI発症者の発症日のSPM濃度(Q1~Q4)と,多変量調整*した28日以内の致死率比(fatality rate ratio: FRR)との関連を検討した結果は以下のとおりで,発症日のSPM濃度は,脳卒中発症者,AMI発症者のいずれの死亡率とも関連していなかった。この結果は,脳卒中の病型別にみても同様であった。
*各大気汚染物質,年齢,性別,糖尿病,高血圧,肥満,飲酒,喫煙,発症した季節により調整
  [全脳卒中のFRR(95%信頼区間)]Q1: 1,Q2: 1.17(0.85-1.61),Q3: 1.00(0.70-1.42),Q4: 0.72(0.47-1.11)
  [AMIのFRR]Q1: 1,Q2; 1.03(0.63-1.68),Q3; 1.52(0.87-2.63),Q4; 0.85(0.44-1.63)

(2)二酸化硫黄(SO2
脳卒中/AMI発症者の発症日のSO2濃度(Q1~Q4)と,多変量調整*した28日以内のFRRとの関連を検討した結果は以下のとおりで,発症日のSO2濃度は,脳卒中発症者,AMI発症者のいずれの死亡率とも関連していなかった。この結果は,脳卒中の病型別にみても同様であった。
  [全脳卒中のFRR]Q1: 1,Q2: 0.91(0.66-1.25),Q3: 0.89(0.63-1.24),Q4: 0.69(0.45-1.05)
  [AMIのFRR]Q1: 1,Q2: 0.53(0.33-1.11),Q3: 0.71(0.41-1.22),Q4: 0.49(0.25-1.00)

(3)二酸化窒素(NO2
脳卒中/AMI発症者の発症日のNO2濃度(Q1~Q4)と,多変量調整*した28日以内のFRRの関連を検討した結果は以下のとおりで,発症日のNO2濃度高値(Q4)は脳卒中発症者のFFRと有意に関連しており,病型別にみると,とくに脳梗塞について顕著であった。脳出血とくも膜下出血については有意な関連はみられず。
  [全脳卒のFRR]Q1: 1,Q2: 0.89(0.62-1.27),Q3: 1.12(0.79-1.61),Q4: 1.65(1.06-2.57)
   [脳梗塞のFRR]Q1: 1,Q2: 1.24(0.69-2.23),Q3: 1.19(0.63-2.34),Q4: 2.47(1.14-5.33)
   [脳出血のFRR]Q1: 1,Q2: 0.34(0.17-0.68),Q3: 0.53(0.28-1.01),Q4: 0.48(0.21-1.12)
   [くも膜下出血のFRR]Q1: 1,Q2: 1.32(0.62-2.82),Q3: 1.53(0.70-3.36),Q4: 2.23(0.99-5.67)
  [AMIのFRR]Q1: 1,Q2: 1.39(0.79-2.44),Q3: 1.79(0.99-3.23),Q4: 1.24(0.62-2.49)

(4)光化学オキシダント(Ox)
脳卒中/AMI発症者の発症日のOx濃度(Q1~Q4)と,多変量調整*した28日以内のFRRの関連を検討した結果は以下のとおりで,発症日のOx濃度は,脳卒中発症者,AMI発症者のいずれの死亡率とも関連していなかった。この結果は,脳卒中の病型別にみても同様であった。
  [全脳卒のFRR]Q1: 1,Q2: 1.20(0.85-1.70),Q3: 1.13(0.76-1.69),Q4: 1.12(0.70-1.81)
  [AMIのFRR]Q1: 1,Q2: 0.98(0.60-1.60),Q3: 0.62(0.34-1.13),Q4: 1.15(0.60-2.21)


◇ 結論
日本人一般住民を対象とした循環器疾患発症登録研究により,1988~2004年の16年間に脳卒中または急性心筋梗塞を発症した人において,発症日の大気汚染物質濃度と発症後28日以内の急性期致死率との関連を検討した。その結果,交通関連の大気汚染指標である二酸化窒素(NO2)の高値の日と脳卒中,ならびに脳梗塞発症者の急性期致死率との有意な関連がみとめられた。


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