[2004年文献] 梗塞責任動脈への側副循環の割合は,年齢とともに低下

阪神地区における急性心筋梗塞(AMI)患者を前向きに登録した観察研究により,「梗塞責任動脈への側副循環の発達は加齢とともに障害される」という仮説を検討した。その結果,側副循環を有する人の割合は年齢とともに低下することが示された。また,70歳以上の患者では,側副循環の欠如は入院中の死亡の独立した危険因子であった。

Kurotobi T, et al.; OACIS Group. Reduced collateral circulation to the infarct-related artery in elderly patients with acute myocardial infarction. J Am Coll Cardiol. 2004; 44: 28-34.pubmed

コホート
1998年4月~2002年5月の期間に,阪神地区の25の心臓救急病院に発症1週間以内に受診した急性心筋梗塞(AMI)患者3,573人のうち,発症後72時間以内に冠動脈造影を行い,かつ梗塞責任動脈が完全に閉塞していた1,934人。
男性は76.6 %,平均年齢は64.0歳。

側副循環については,冠動脈造影の結果よりRentropスコアを用いて以下のように評価し,1~3点の場合に「側副循環あり」とした。
 0点: 側副循環なし,1点: 側枝に側副循環がみとめられるが外膜側冠動脈は造影されない,2点: 側副循環により外膜側冠動脈が一部造影される,3点: 側副循環により外膜側冠動脈が完全に造影される
結 果
◇ 対象背景
側副循環がみとめられたのは802人(41.5 %)。

側副循環ありの人で,なしの人にくらべて有意に高値を示していたのは,高脂血症の割合(44.3 % vs. 39.0 %,P=0.03),狭心症既往の割合(33.1 % vs. 25.5 %,P=0.001),梗塞前狭心症の割合(53.1 % vs. 45.6 %,P=0.002),および発症からカテーテル施術までの時間(13.1時間 vs. 8.6時間,P<0.001)で,有意に低値を示していたのは,年齢(62.7歳 vs. 65.0歳,P<0.001),病変血管数(1.27 vs. 1.36,P=0.01),左回旋枝梗塞の割合(8.2 % vs. 15.9 %,P<0.001)。
性別,喫煙率,高血圧の割合,糖尿病の割合,血管形成術の有無,TIMI血流グレード3までの回復の割合には有意な差はみられなかった。

側副循環ありの人の割合は,以下のように年齢とともに有意に減少した(P<0.001)。
   50歳未満: 47.9 %
   50~59歳: 45.8 %
   60~69歳: 43.4 %
   70歳以上: 34.0 %

◇ 側副循環に関連する因子
多変量解析によると,側副循環の存在との独立した関連を示していたのは以下の因子。
   年齢: オッズ比0.98 (95 %信頼区間0.97-0.99)
   左回旋枝梗塞: 0.47 (0.33-0.68)
   カテーテル施術までの時間: 1.02 (1.01-1.03)
   狭心症既往: 1.49 (1.12-1.99)
   梗塞前狭心症: 1.35 (1.10-1.66)

梗塞前狭心症の割合,狭心症既往の割合,およびカテーテル施術までの時間について,年齢層(70歳未満/以上)ごとに比較した結果,いずれも有意差はなかった。
しかし,梗塞前狭心症を有する例,狭心症既往を有する例,およびカテーテル施術までの時間が6時間未満の例について,それぞれ側副循環の有無を年齢層ごとに比較すると,いずれも70歳未満のほうが70歳以上にくらべて梗塞責任動脈への側副循環が存在する割合が有意に高かった(梗塞前狭心症: 70歳未満49.2 % vs. 70歳以上36.5 %[P=0.001],狭心症既往: 50.5 % vs. 38.5 %[P=0.01],カテーテル施術までの時間が6時間以下: 51.7 % vs. 39.0 %[P=0.003])。

◇ 側副循環と入院中の死亡
多変量解析によると,入院中の死亡と独立した関連を示した因子は以下のとおりで,側副循環の欠如は独立した危険因子とはならなかった。
   Killip分類≧2: オッズ比16.6 (95 %信頼区間7.0-39.6)
   最終的なTIMI血流グレード3: 0.36 (0.15-0.86)
   糖尿病: 4.25 (1.76-10.3)
   病変血管数: 1.98 (1.14-3.45)

一方,70歳以上の例のみで多変量解析を行うと,入院中の死亡と独立した関連を示した因子は以下のとおりで,側副循環の欠如は独立した危険因子となった。
   側副循環の欠如: オッズ比15.6 (95 %信頼区間3.51-69.6)
   Killip分類≧2: 5.84 (2.75-12.4)
   最終的なTIMI血流グレード3: 0.29 (0.14-0.62)


◇ 結論
阪神地区における急性心筋梗塞(AMI)患者を前向きに登録した観察研究により,「梗塞責任動脈への側副循環の発達は加齢とともに障害される」という仮説を検討した。その結果,側副循環を有する人の割合は年齢とともに低下することが示された。また,70歳以上の患者では,側副循環の欠如は入院中の死亡の独立した危険因子であった。


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