[2012年文献] 血清EPA値,DHA値が低い急性心筋梗塞患者では,心不全入院+全死亡リスクが増加

ドコサヘキサエン酸(DHA)およびエイコサペンタエン酸(EPA)などを含む長鎖n-3系多価不飽和脂肪酸(n-3 PUFA)の摂取は,アテローム性動脈硬化イベントリスクの低下,とくに急性心筋梗塞(AMI)リスクの低下と関連することがこれまでに報告されている。しかし,AMI既往患者における血中n-3 PUFAレベルと心不全リスクとの関連については十分なデータがない。そこで,阪神地区におけるAMI患者を登録した多施設共同前向き研究による検討を行った結果,血清DHA値およびEHA値が低いAMI既往患者では,それぞれ心不全入院+全死亡のリスクが高くなることが示された。なお,血清EPA値が低い場合はとくに心不全入院リスク,血清DHA値が低い場合は全死亡リスクとの関連がそれぞれ強くみられた。

Hara M, et al.; for the Osaka Acute Coronary Insufficiency Study (OACIS) Investigators. Low Levels of Serum n-3 Polyunsaturated Fatty Acids Are Associated With Worse Heart Failure-Free Survival in Patients After Acute Myocardial Infarction. Circ J. 2012; pubmed

コホート
2006年1月~2009年12月の期間にOACIS研究に登録された急性心筋梗塞(AMI)患者2579人のうち,生存退院し,AMI発症から10日以上経過後,および退院の前後14日以内の血液検査データが得られた連続712人を解析対象とした。
追跡期間(中央値)は1079日間。
年齢中央値65歳,男性77.8%,平均血清ドコサヘキサエン酸(DHA)値71.0μg/mL,平均血清エイコサペンタエン酸(EPA)値30.5μg/mL。

血清DHA値およびEPA値の三分位により,全体を以下のカテゴリーに分けて解析を行った。
・DHA:低レベル(61.4 μg/mL未満)239人,中レベル(61.4 μg/mL超83.5μg/mL未満)236人,高レベル(83.5 μg/mL超)237人
・EPA:低レベル(24.6μg/mL未満)237人,中レベル(24.6μg/mL超38.8μg/mL未満)237人,高レベル(38.8 μg/mL超)238人
結 果
◇ 患者背景
血清ドコサヘキサエン酸(DHA)値のカテゴリー間で有意な差がみとめられた背景因子は以下のとおり。
   年齢:低レベル66歳,中レベル66歳,高レベル64歳(P=0.0224)
   男性:81.2%,80.5%,71.7%(P=0.0220)
   BMI(kg/m2):23.4,24.0,24.1(P=0.0181)
   血清エイコサペンタエン酸(EPA)(μg/mL):20.4,29.4,47.3(P<0.0001)
   総コレステロール(mg/dL):184,194,198(P=0.0024)
   HDL-C(mg/dL):42,45,44(P=0.0274)
   トリグリセリド(mg/dL):88,100,104(P=0.0058)
   退院時のスタチン使用:68.6%,60.6%,52.3%(P=0.0013)

血清EPA値のカテゴリー間で有意な差がみとめられた背景因子は以下のとおり。
   血清DHA(μg/mL):52.1,70.8,96.4(P<0.0001)
   総コレステロール(mg/dL):186,194,195(P=0.0317)
   HDL-C(mg/dL):42,44,45(P=0.0040)
   eGFR(mL/分/1.73m2):66.9,73.8,66.8(P=0.0026)

◇ 血清DHA,EPA値と心不全による入院および全死亡リスク
血清DHA値およびEPA値の3つのカテゴリーごとの心不全による入院,および全死亡の発生は以下のとおり。
・心不全による入院
  DHA:低レベル17人,中レベル10人,高レベル8人
  EPA:20人,7人,8人
・全死亡
  DHA:23人,12人,10人
  EPA:19人,16人,10人

各カテゴリー間で心不全入院を伴わない生存率を示すKaplan-Meier曲線を比較すると,血清DHA値およびEPA値が低レベルの人では,それぞれ他のカテゴリーに比して,心不全入院を伴わない生存率が有意に劣っていた(DHA:P=0.0204,EPA:P=0.0353)。
しかし,心不全入院と全死亡とを分けて解析すると,EPA値が低レベルの人では心不全入院リスクのみが有意に高かったのに対し(P=0.0086),DHA値が低レベルの人では,全死亡リスクのみが有意に高かった(P=0.0305)。

以上の結果は,propensity scoreにより層別化したCox回帰分析*においても同様で,DHA値・EPA値とも低レベルの場合は全死亡+心不全入院のリスクが有意に増加していたものの,各エンドポイントを分けて解析すると,血清DHA値が低いことは全死亡リスクと,血清EHA値が低いことは心不全入院リスクとそれぞれ有意に関連していた。

血清DHA値およびEPA値が低レベルの人における,中レベル+高レベルに比した各エンドポイントのハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。*反応変数: 血清DHA値低レベル,およびEPA値低レベル,説明変数: 年齢,性別,ST上昇型心筋梗塞[MI],糖尿病,高血圧,脂質異常症,喫煙,MI既往,eGFR,再灌流療法,スタチン服用,ACE阻害薬/アンジオテンシン2受容体拮抗薬服用,β遮断薬服用,抗血小板薬服用を説明変数としたロジスティック回帰分析からpropensity scoreを算出して調整

・血清DHA値低レベル
  全死亡+心不全入院: 1.68(95%信頼区間1.03-2.72,vs. 中レベル+高レベル,P=0.0358)
  心不全入院: 1.72(0.86-3.45,P=0.1224)
全死亡: 1.91(1.03-3.55,P=0.0386)

・血清EPA値低レベル
  全死亡+心不全入院: 1.69(1.05-2.72,vs. 中レベル+高レベル,P=0.0280)
心不全全入院: 2.40(1.21-4.75,P=0.0097)
  全死亡: 1.45(0.79-2.67,P=0.2315)

◇ サブグループ解析
血清EPA値が低レベルの人における心不全入院リスク増加について,サブグループ解析を行ったところ,とくにハザード比の顕著な上昇がみられたのは男性(ハザード比5.82,95%信頼区間2.29-14.75,P<0.0001),HDL-C低値(15.68,1.99-123.80,P=0.0004),スタチン非服用(6.40,2.06-19.86,P=0.0002)であった。
血清DHA値が低レベルの人における全死亡リスク増加については,サブグループによる差はみられなかった。

◇ 結論
ドコサヘキサエン酸(DHA)およびエイコサペンタエン酸(EPA)などを含む長鎖n-3系多価不飽和脂肪酸(n-3 PUFA)の摂取は,アテローム性動脈硬化イベントリスクの低下,とくに急性心筋梗塞(AMI)リスクの低下と関連することがこれまでに報告されている。しかし,AMI既往患者における血中n-3 PUFAレベルと心不全リスクとの関連については十分なデータがない。そこで,阪神地区におけるAMI患者を登録した多施設共同前向き研究による検討を行った結果,血清DHA値およびEHA値が低いAMI既往患者では,それぞれ心不全入院+全死亡のリスクが高くなることが示された。なお,血清EPA値が低い場合はとくに心不全入院リスク,血清DHA値が低い場合は全死亡リスクとの関連がそれぞれ強くみられた。


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