[2008年文献] 腎機能低下は心血管疾患の危険因子

腎機能低下と心血管疾患リスクとの関連,および腎機能が低下している人における血圧と心血管疾患リスクとの関連について,地域住民を対象とした10のコホート研究のデータによる検討を行った。その結果,腎機能は心血管疾患の危険因子であることが示された。また,腎機能低下の有無にかかわらず,血圧は心血管疾患リスクと有意な関連を示し,Jカーブ現象はみとめられなかった。

Ninomiya T, et al.; for the Japan Arteriosclerosis Longitudinal Study Group. Impact of Kidney Disease and Blood Pressure on the Development of Cardiovascular Disease: An Overview From the Japan Arteriosclerosis Longitudinal Study. Circulation. 2008; 118: 2694-2701.pubmed

コホート
JALS 0次研究(JALS-ECC: JALS-existing cohorts combine)に参加した21コホートのうち,職域コホート,ならびに発症データ,血清クレアチニン,その他のデータに不備があるコホートを除いた10の地域コホートの35,153人の個人データをプールした。
平均追跡期間は7.4年間。
平均年齢は57.6歳,男性は38.0 %,糸球体濾過値(GFR: glomerular filtration ratio)<60 mL/分/1.73 m2は8.2 %。

心血管疾患の解析対象は23,033人,脳卒中の解析対象は23,084人,心筋梗塞の解析対象は30,657人,死亡の解析対象は31,374人。

GFRの推算には,4変数MDRD(Modification of Diet in Renal Disease)式を用いた(Circulation. 2003; 108: 2154-2169.pubmed)。
GFRにより,全体を以下のように分類して解析を行った。
   90 mL/分/1.73 m2以上,89~60 mL/分/1.73 m2,60 mL/分/1.73 m2未満

血圧の検討にはJNC7にもとづく以下の分類を用いた。
  正常: 収縮期血圧(SBP)<120 mmHgかつ拡張期血圧(DBP)<80 mmHg
  前高血圧: SBP120~139 mmHgまたはDBP80~89 mmHg
  ステージ1高血圧: SBP140~159 mmHgまたはDBP 90~99 mmHg
  ステージ2高血圧: SBP≧160 mmHgまたはDBP≧100 mmHg
結 果
◇ 対象背景
対象となった35,153人のうち,心血管疾患を発症したのは727人(うち脳卒中が592人,心筋梗塞が180人)で,死亡したのは2104人。

心血管疾患発症に関する解析の対象となった23,033人の対象背景は以下のとおり(それぞれ男性,女性の値)。
   人数: 9,574人,13,459人
   年齢: 56.9歳,58.2歳
   糸球体濾過値(GFR: glomerular filtration ratio): 87.3 mL/分/1.73 m2,81.0 mL/分/1.73 m2
     GFR≧90 mL/分/1.73 m2: 39.0 %,27.1 %
     GFR 60~89 mL/分/1.73 m2: 55.9 %,62.8 %
     GFR<60 mL/分/1.73 m2: 5.2 %,10.1 %
   血圧: 133.6 / 81.1 mmHg,132.3 / 77.9 mmHg
     正常血圧: 19.6 %,24.3 %
     前高血圧: 41.8 %,41.0 %
     ステージ1高血圧: 26.0 %,24.3 %
     ステージ2高血圧: 12.6 %,10.4 %
   糖尿病: 9.5 %,5.2 %
   総コレステロール: 193 mg/dL,208.4 mg/dL
   BMI: 23.2 kg/m2,23.2 kg/m2
   喫煙率: 56.2 %,7.1 %


◇ 腎機能と心血管疾患発症率
GFR<60 mL/分/1.73 m2の人における心血管疾患発症率,脳卒中発症率,心筋梗塞発症率,全死亡率は,いずれもGFR≧90 mL/分/1.73 m2にくらべて有意に高かった(P<0.001)。この結果は,男女別の解析でも同様だった(女性の心筋梗塞を除く)。

◇ 腎機能と心血管疾患リスク
GFR<60 mL/分/1.73 m2の人における心血管疾患の多変量調整ハザード比(95 %信頼区間,vs. GFR≧90 mL/分/1.73 m2)は以下のとおり。

・ 男女をあわせた解析
   心血管疾患: 1.57 (1.14-2.15,P=0.005)
     脳卒中: 1.41 (0.99-2.00)
     心筋梗塞: 2.37 (1.29-4.34,P=0.005)
   全死亡: 1.65 (1.38-1.97,P<0.001)

・ 男性
   心血管疾患: 1.47 (0.94-2.29)
     脳卒中: 1.10 (0.64-1.89)
     心筋梗塞: 2.56 (1.24-5.27,P=0.01)
   全死亡: 1.73 (1.37-2.17,P<0.001)

・ 女性
   心血管疾患: 1.97 (1.19-3.29,P=0.009)
     脳卒中: 1.98 (1.15-3.42,P=0.01)
     心筋梗塞: 2.79 (0.74-10.56)
   全死亡: 1.68 (1.24-2.30,P<0.001)


◇ 血圧と心血管疾患リスク(腎機能により層別)
GFR≧60 mL/分/1.73 m2,GFR<60 mL/分/1.73 m2のそれぞれにおける血圧カテゴリーと心血管疾患リスクとの関連を検討した。
その結果,心血管疾患発症リスク,脳卒中発症リスク,および全死亡リスクのいずれについても,腎機能にかかわらず,血圧カテゴリーにともなってリスクが有意に増加することが示された(異質性を示すP値は,それぞれP=0.97,P=0.77,P=0.99)。

この結果は,日本人向けの係数を用いたMDRD式(Clin Exp Nephrol. 2007; 11: 41-50.pubmed)により推算したGFRを用いても同様だった。


◇ 結論
腎機能低下と心血管疾患リスクとの関連,および腎機能が低下している人における血圧と心血管疾患リスクとの関連について,地域住民を対象とした10のコホート研究のデータによる検討を行った。その結果,腎機能は心血管疾患の危険因子であることが示された。また,腎機能低下の有無にかかわらず,血圧は心血管疾患リスクと有意な関連を示し,Jカーブ現象はみとめられなかった。


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