[2003年文献] 60歳未満では収縮期血圧10 mmHg低下により脳卒中リスクが半減

血圧と心血管疾患リスクとの関連を検討するために,アジア・太平洋地域の37の前向きコホート研究のメタ解析を実施した。その結果,血圧は脳卒中発症リスク,虚血性心疾患発症リスク,心血管疾患死亡リスクのいずれとも顕著な対数線形の関連を示していた。リスクの増加はいずれも収縮期血圧115 mmHgからみとめられ,60歳未満では収縮期血圧10 mmHgの低下にともなって脳卒中リスクが半減することが示された。血圧と心血管イベントとの関連は,アジアのほうがオーストララシアにくらべて強い傾向を示していた。

Lawes CM, et al.; Asia Pacific Cohort Studies Collaboration. Blood pressure and cardiovascular disease in the Asia Pacific region. J Hypertens. 2003; 21: 707-16.pubmed

コホート
Asia Pacific Cohort Studies Collaboration(APCSC: アジア・太平洋地域の前向きコホート研究の個人データに基づくメタ解析)の参加コホートのうち,データに不備のない37コホートの42万5325人。
平均追跡期間は7.1年間(301万6553人・年)。
参加国ごとの人数は,韓国43%,中国28%,日本8%,その他(アジア)4%,オーストラリアまたはニュージーランド17%。

脳卒中発症の確定診断にCTスキャンを用いていたのは参加コホートの約半数で,それぞれ発症者の約1/2はCTによる確定診断が行われていた。

希釈バイアスを考慮して調整したベースライン時の血圧値を通常血圧(usual blood pressure)とした。
結 果
平均年齢は47歳,女性は43%。

◇ 血圧と脳卒中発症リスク
脳卒中を発症したのは5178人。
うち30%(1531人)が出血性脳卒中,35%(1802人)が虚血性脳卒中,残りはその他・病型不明。

すべてのコホートで,収縮期血圧が低いほど脳卒中(致死的,非致死的の両方を含む)の発症リスクが低くなっていたが,関連の強さにはコホート間で差がみられた(P for heterogeneity<0.0001)。このコホート間変動の80%が,各コホートの年齢構成の違いによるものと考えられ,若年層のほうが血圧と脳卒中リスクとの関連が強くなっていた。

年齢層(<60歳,60~69歳,≧70歳)ごとに収縮期通常血圧(SBP)と対数変換した脳卒中発症の調整ハザード比(年齢,性別,コホートで調整)との関連を検討した結果,すべての年齢層でSBPが高いほど脳卒中リスクが高くなる線形の関連がみられ,リスクの増加は115 mmHgからみとめられた。
SBPが10 mmHg低下した場合の脳卒中発症リスクの低下率は,<60歳で54%(95%信頼区間53-56%),60~69歳で36%(34-38%),≧70歳で25%(22-28%)と,年齢が低いほど血圧とリスクとの関連が強くなっていた。

脳卒中病型ごとにみると,虚血性脳卒中,出血性脳卒中,その他のいずれに関しても,SBP 10 mmHgの低下は発症リスクの有意な低下と関連していたが,なかでも出血性脳卒中と血圧との関連が強かった(とくに若い年齢層)。

また,SBPと脳卒中発症リスクとの関連は,アジアのほうがオーストララシア(オーストラリア,ニュージーランド)よりも強かった。SBP 10 mmHg低下にともなう脳卒中発症リスクの低下率は,アジア41%(95%信頼区間40-42%),オーストララシア30%(22-37%)。

以上の結果は,脂質や喫煙,飲酒,心血管疾患既往の詳細なデータを有するコホートを対象に,これらの因子による調整を行っても同様であった。
また,通常拡張期血圧(DBP)について行った解析でも,DBPが高いほど脳卒中リスクが高くなる線形の関連がみられ,リスクの増加は70 mmHgからみとめられた。
DBPが5 mmHg低下した場合の脳卒中発症リスクの低下率は,<60歳で50%(95%信頼区間47-51%),60~69歳で38%(33-40%),≧70歳で19%(14-22%)だった。

◇ 血圧と虚血性心疾患発症リスク
虚血性心疾患を発症したのは3047人。

SBPと,対数変換した虚血性心疾患(致死的,非致死的の両方を含む)発症の調整ハザード比(年齢,性別,コホートで調整)との関連を検討した結果,SBPが高いほど虚血性心疾患発症リスクが高くなる線形の関連がみられ,リスクの増加は115 mmHgからみとめられた。
血圧と虚血性心疾患リスクとの関連は,脳卒中と同様に,年齢が低いほど強かった。SBP 10 mmHg低下にともなう脳卒中発症リスクの低下率は,<60歳で46%(95%信頼区間43-49%),60~69歳で24%(21-28%),≧70歳で16%(13-20%で,DBP 5 mmHg低下にともなう低下率はそれぞれ41%(34-44%),21%(13-26%),11%(3-15%)。

SBPと虚血性心疾患リスクとの関連は,アジアとオーストララシアで同様だった。

以上の結果は,脂質や喫煙,飲酒,心血管疾患既往の詳細なデータを有するコホートを対象に,これらの因子による調整を行っても同様であった。

◇ 血圧と心血管疾患死亡
心血管疾患死亡は6899人。
うち29%(1922人)が,脳卒中・虚血性心疾患以外の原因により死亡した(心不全,肺循環疾患,高血圧性疾患など)。

SBPは心不全死亡(10 mmHg低下するごとにリスク17%低下),高血圧性心疾患死亡(40%低下)と有意な関連を示していたが,肺循環疾患との関連はみられなかった。

SBP 10 mmHg低下にともなう心血管疾患死亡リスクの低下率は,アジアで30%(95%信頼区間29-31%),オーストララシアで28%(17-38%)と同等だった(P=0.6)。


◇ 結論
血圧と心血管疾患リスクとの関連を検討するために,アジア・太平洋地域の37の前向きコホート研究のメタ解析を実施した。その結果,血圧は脳卒中発症リスク,虚血性心疾患発症リスク,心血管疾患死亡リスクのいずれとも顕著な対数線形の関連を示していた。リスクの増加はいずれも収縮期血圧115 mmHgからみとめられ,60歳未満では収縮期血圧10 mmHgの低下にともなって脳卒中リスクが半減することが示された。血圧と心血管イベントとの関連は,アジアのほうがオーストララシアにくらべて強い傾向を示していた。


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