[学会報告・日本循環器学会 2008] 田主丸研究,宇久町研究,高島循環器疾患発症登録研究

会場写真

第72回日本循環器学会総会・学術集会(JCS2008)は,福岡国際会議場および周辺の3会場で,2008年3月28日(金)~30日(日)の3日間にわたって行われた。

以下に,JCS2008で発表された疫学研究の一部を紹介する。また,30日(日)の予防医学/疫学/教育ポスターセッションにて座長をつとめた久留米大学の足達寿氏に,会場でお話をうかがった。


[田主丸コホート] フォン・ビルブランド因子(vWF)と高感度CRPは全死亡と関連

発表者: 久留米大学・榎本美佳氏 (3月28日(金),口演)
  目的: 炎症マーカー(白血球数,ヘマトクリット,CRP,高感度CRP,フィブリノゲン,フォン・ビルブランド因子(vWF))と全死亡との関連を検討。
  コホート: 田主丸コホートの1920人を8年間追跡
  結果: 全死亡と有意に関連していたのは,CRP,高感度CRPおよびvWF。
★ フォン・ビルブランド因子(vWF)とは,血小板凝集に重要な役割を果たす巨大血漿蛋白質。動脈血栓形成との関連が疑われている。

[宇久町コホート] グレリンはインスリン抵抗性と逆相関

発表者: 久留米大学・南條泰輝氏 (3月28日(金),ポスター)
  目的: 血漿グレリンとインスリン抵抗性の関連の検討。
  コホート: 宇久町コホートの638人
  結果: 血漿グレリンはインスリン抵抗性と有意な負の相関,HDL-Cと有意な正の相関を示した。
★ グレリンとは,摂食促進機能や成長ホルモンの分泌促進を有するペプチド。1999年に日本の児島,寒川らによってラットおよびヒトの胃から発見・同定された。循環器系やエネルギー代謝にも機能し,心機能改善にはたらくことが明らかになったほか,肥満者においてはグレリンの分泌が減少することが報告されている。
佐世保市宇久町地図

[宇久町コホート] MCP-1は動脈硬化および腎機能低下と関連

発表者: 久留米大学・深水亜子氏 (3月30日(日),ポスター)
  目的: 血中MCP-1レベルと動脈硬化および腎機能との関連を検討。
  コホート: 宇久町コホートの843人(横断研究)
  結果: MCP-1は,内膜中膜肥厚(IMT)および糸球体濾過量(GFR)の低下と有意に関連していた。
★ MCP-1(Monocyte chemoattractant protein 1)は,ケモカイン(遊走活性を有するサイトカインの一群)に属し,炎症部位への単球の遊走をうながす。臨床研究から,動脈硬化をもつ人では血中MCP-1高値を示すことが知られている。

icon 新しい危険因子を探索する楽しみ
足達 寿氏

 
足達 寿氏(久留米大学): 2008年3月30日,福岡マリンメッセのポスターセッション会場にて

久留米大学では,現在,Seven Countries Studyの日本コホートの1つだった福岡県久留米市の田主丸に加え,長崎県の宇久島でも健診を行い,疫学研究を進めています。今回の日本循環器学会では,田主丸コホートからフォン・ビルブランド因子(vWF),宇久町コホートからグレリン,およびMCP-1について検討した結果を報告しました。いずれも,日本人を対象とした疫学では初めての検討だと思います。

 これら新しいマーカーには,測定のための採血量が多くなったり,分析費用が高くなったりといった問題点もあります。しかし,いざ一般住民の方を対象に測定してみると,予想とは異なるおもしろい結果が出てくることもあるので,それは非常に楽しみです。いくつかのマーカーは,田主丸コホートの次回大規模健診(2009年度に実施予定)にも取り入れられればと考えています。


[高島循環器疾患発症登録研究] 心筋梗塞は午前中と夜7時以降に多い

発表者: 滋賀医科大学・Nahid Rumana氏 (3月29日(土),ポスター)
  目的: 1日のなかで心筋梗塞発症を発症しやすい時間(diurnal peak)があるかどうかを検討。
  コホート: 1988~2002年に心筋梗塞を発症し,その発症時刻がわかっている滋賀県高島市の273人(高島循環器疾患発症登録研究)
  結果: 発症時間のピークは2つみられた(朝7時~正午,夜の19~24時)。この傾向は,既知の危険因子(年齢,喫煙,高血圧既往など)とは独立していた。



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