[学会報告・日本循環器学会 2009] ERA JUMP,新潟予防医学研究,高島循環器疾患発症登録研究,田主丸研究,宇久町研究

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会場写真

第73回日本循環器学会総会・学術集会(JCS2009)は,大阪国際会議場および周辺の3会場で,2009年3月20日(金)~22日(日)の3日間にわたって行われた。

以下に,JCS2009で発表された疫学研究の一部を紹介する。


■ 目 次 ■ * タイトルをクリックすると,各項目にジャンプします
ERA JUMP 炎症マーカーと無症候性動脈硬化との関連はみられず
新潟予防医学研究 腎機能低下は心房細動発症と,心房細動は腎機能低下発症とそれぞれ有意に関連
高島循環器疾患発症登録研究 脳卒中は朝7時前後に多い
高島循環器疾患発症登録研究 気温と急性心筋梗塞の発症は逆相関
田主丸研究 肝細胞増殖因子(HGF)は全死亡の予測因子
田主丸研究 LDL-C/HDL-C比は無症候性動脈硬化と有意に関連
田主丸研究 血清アルドステロンはメタボリックシンドロームの各要素と有意に相関
宇久町研究 血中Vaspin濃度はインスリン抵抗性と関連する
宇久町研究 可溶性RAGEは炎症マーカーのHMGB-1と逆相関する

[ERA JUMP] 炎症マーカーと無症候性動脈硬化との関連はみられず

発表者: 滋賀医科大学・長澤 晋哉 氏 (3月22日(日),ポスター)
  目的: 炎症マーカー(CRP,フィブリノーゲン)と無症候性動脈硬化(頸動脈内膜-中膜肥厚度[IMT]および冠動脈カルシウム[CAC])との関連について,日本在住の日本人,ハワイ在住の日系人,米国在住の白人で比較検討。
  コホート: ERA JUMPに参加した40~49歳の男性904人(日本人310人,日系人296人,白人298人)。 (ERA JUMPのトップページへ移動
  結果: CRPとフィブリノーゲンは日本人,日系人,白人のいずれにおいてもIMTおよびCACと正の相関または相関傾向を示していた。ただしBMIで補正すると有意性は失われたことから,肥満の強い関与が示唆された。
 長澤晋哉氏のコメント
CRPをはじめとした炎症マーカーは冠動脈疾患など動脈硬化性疾患の予測因子として確立されてきましたが,それに一石を投じる結果となりました。その一方で,動脈硬化における肥満の重要性が再確認できました。CACやIMTは比較的安定した動脈硬化を反映しますが,炎症マーカーはそれとは違うプラーク破裂や血栓形成に関与する可能性も考えられます。


[新潟予防医学研究] 腎機能低下は心房細動発症と,心房細動は腎機能低下発症とそれぞれ有意に関連

発表者: 新潟大学・渡部 裕 氏 (3月21日(土),ポスター)
  目的: 心房細動と腎機能低下との関連を両方向から検討。
  コホート: 新潟予防医学研究(The Niigata Preventive Medicine Study)の1996~1998年の健診受診者約23万6千人を5.9年間追跡。
  結果: 心房細動は腎機能低下発症と,腎機能低下は心房細動発症とそれぞれ有意に関連していた。


[高島循環器疾患発症登録研究] 脳卒中は朝7時前後に多い

発表者: 滋賀医科大学・Nahid Rumana 氏 (3月20日(金),口演)
  目的: 1日のなかで脳卒中を発症しやすい時間があるかどうかを検討。
  コホート: 高島循環器疾患発症登録のうち,脳卒中登録(Takashima Stroke Registry)の1561人。(高島循環器疾患登録研究のトップページへ移動
  結果: 脳卒中の発症パターンは有意な日内変動を示しており,発症のピークは既知の危険因子の有無にかかわらず朝の7時前後であった。


[高島循環器疾患発症登録研究] 気温と急性心筋梗塞の発症は逆相関

発表者: 滋賀医科大学・Tannvir Chowdhury Turin 氏 (3月22日(日),ポスター)
  目的: 気温と急性心筋梗塞(AMI)発症率との関連を検討。
  コホート: 高島循環器疾患発症登録のうち,心筋梗塞登録(Takashima AMI registry)の379人。(高島循環器疾患登録研究のトップページへ移動
  結果: AMI発症率と当日の気温には有意な逆相関がみとめられた。この結果は,1日前の気温を用いた検討でも同様だった。


[田主丸研究] 肝細胞増殖因子(HGF)は全死亡の予測因子

発表者: 久留米大学・大塚 麻樹 氏 (3月20日(金),ポスター)
  目的: 血清中の肝細胞増殖因子(HGF)と全死亡との関連を検討。
  コホート: 1999年に健診を受けた田主丸(たぬしまる)コホートの1474人(40歳以上)を10年間追跡。 (Seven Countries Studyのトップページへ移動
  結果: HGF高値は全死亡および癌死亡と有意で強い関連を示しており,全死亡の予知因子としてきわめて有用と考えられた。
大塚麻樹氏  大塚麻樹氏のコメント
HGFについての疫学的検討はあまり発展していないのが現状です。今回の我々の結果は,血清HGF濃度についての大規模縦断研究としてはおそらく国内外で最初の報告ではないでしょうか。この結果はこれからの予防医学の発展に寄与できるのではないかと考えております。我々は今後も長期的な追跡調査を行い,癌死亡だけでなく脳心血管疾患死との関連もさらに詳細に検討していきたいと考えております。
★ 肝細胞増殖因子(HGF: hepatocyte growth factor)とは,分子量85kDaの蛋白質で,1984年に肝臓の一部を切除したラットの血中に肝再生活性因子としてみとめられた。血管内皮および平滑筋細胞においてもHGF受容体が発現していることから,血管内皮障害を介した動脈硬化との関連が示唆されている。また癌細胞の増殖促進作用も確認されており,癌疾患との関連も報告されている。


[田主丸研究] LDL-C/HDL-C比はIMTと有意に関連

発表者: 久留米大学・榎本 美佳 氏 (3月21日(土),口演)
  目的: LDL-C/HDL-C比と頸動脈内膜-中膜肥厚度(IMT)の増加率の関連を検討。
  コホート: 1999年に健診を受けた田主丸コホートの1920人(40歳以上)を8年間追跡。 (Seven Countries Studyのトップページへ移動
  結果: LDL-C/HDL-C比は,多変量調整後も8年間のIMT増加率と有意に関連していた。


[田主丸研究] 血清アルドステロンはメタボリックシンドロームの各要素と有意に関連

発表者: 久留米大学・熊谷 英太 氏 (3月21日(日),ポスター)
  目的: 血清アルドステロン濃度とメタボリックシンドローム構成要素との関連を検討。
  コホート: 1999年に健診を受けた田主丸コホートの1235人(40歳以上)。 (Seven Countries Studyのトップページへ移動
  結果: アルドステロン濃度は,腹囲,トリグリセリド,空腹時血糖と有意な正の関連を示し,インスリン抵抗性とも有意な関連を示した。


[宇久町研究] 血中Vaspin濃度はインスリン抵抗性と関連する

発表者: 久留米大学・江崎 英司 氏 (3月22日(日),口演)
  目的: Vaspinの測定意義を調べるために, Vaspinとインスリン抵抗性の関連を一般住民において検討。
  コホート: 宇久町(うくまち)コホート(長崎県佐世保市)の201人。
  結果: インスリン抵抗性の指標となるHOMA-IR(homeostasis model assessment of insulin resistance)とVaspinは多変量調整後も有意な正の相関を示した。
★ Vaspin(visceral adipose tissue-derived serin protease inhibitor)とはアディポサイトカインの1つで,内臓脂肪蓄積型肥満をきたし2型糖尿病・高血圧・脂質異常を発症する動物モデルの内臓脂肪組織から分離・同定された。インスリン抵抗性への関与が示唆されている。


[宇久町研究] 可溶性RAGEは炎症マーカーのHMGB-1と逆相関する

発表者: 久留米大学・深水 亜子 氏 (3月22日(日),ポスター)
  目的: 血中sRAGE値と炎症マーカーである血中HMGB-1値との関連を検討。
  コホート: 宇久町コホート(長崎県佐世保市)の626人。
  結果: sRAGE値は,多変量調整後もHMGB-1値との有意な逆相関を示した。
深水亜子氏  深水亜子氏のコメント
本研究は,これまで炎症性メディエータとして知られた血清HMGB-1が,一般住民においてsRAGEと強い負の関連があることを示した初めての研究である。このことは,血清HMGB-1が無症候性炎症反応の潜在的なバイオマーカーであるとともに,sRAGEが血中のHMGB-1を捕らえ,除去する作用をもつ可能性を示唆し得る結果であると考える。今後,縦断研究を行いsRAGEやHMGB-1と心血管イベント発症との関連などについても検討していきたいと考える。
★ HMGB-1(high mobility group box 1)とは,非ヒストン性の核蛋白の1つで,感染性/非感染性の炎症性疾患のメディエータとして注目されている。
★ sRAGE(soluble form of advanced glycation end product receptor)は,糖尿病状態で加速度的に形成・蓄積される後期糖化反応生成物(AGE: advanced glycation product)の可溶性の受容体として知られるが,同時にHMGB1の受容体であることも明らかとなっている。AGEやHMGB1の刺激によりRAGEが細胞の酸化ストレスを増強させ,炎症を亢進させることが示唆されている。



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