[学会報告・日本疫学会2013] CIRCS,久山町研究,JACC,JALS

第23回日本疫学会学術総会は, 2013年1月24日(木)~26日(土)の3日間,大阪にて開催された。ここでは,学会の一般口演セッションで発表された疫学研究の一部を紹介する。

会場写真

[CIRCS] 1990年代の心房細動の危険因子は,年齢,飲酒,高血糖,高度肥満

発表者: 大阪大学・佐野 文彦 氏 (1月25日(金))
  目的: 心房細動の危険因子とその経年的な変遷について,日本人を対象として検討。
  コホート・手法: CIRCSの秋田・大阪・高知コホートにおいて,1981~1985年に健診を初回受診した30~80歳の男女9094人(1980年代コホート),および1991~1995年に健診を初回受診した30~80歳の男女8602人(1990年代コホート)を,それぞれ1990年および2000年まで追跡した。心房細動の診断は,健診受診日の心電図診断により行った。 (CIRCSへ
  結果: 対象背景として,男女とも,1980年代から1990年代にかけて高血圧および高血糖の割合が低下している一方で,総コレステロール高値(≧220 mg/dL)および高度肥満(BMI≧30 kg/m²)の割合は増加していた。1990年代の心房細動有病率は6.29/1000人・年であり,1980年代(1.92/1000人・年)の3.27倍であった。多変量解析によると,心房細動の危険因子は,1980年代には年齢および多量飲酒(エタノール換算で46 g以上)であったが,1990年代には,これらに加え,高血糖,および高度肥満(BMI≧30 kg/m²)が有意な危険因子であった。これらの結果には,近年の生活習慣の変化が影響していると考えられる。


[久山町研究] 糖代謝異常が心血管疾患死亡リスクに与える影響は時代とともに減弱

発表者: 九州大学・志方 健太郎 氏 (1月25日(金))
  目的: 糖尿病を含む糖代謝異常が死因別死亡リスクに与える影響の時代的な推移を検討。
  コホート・手法: 久山町研究の第1,第2,第3集団(それぞれ1961年,1974年,1988年)。糖代謝異常の定義は,第1集団: 尿糖陽性者に対し,飽食試験にて食後2時間血糖値≧140 mg/dL,または100 g経口糖負荷試験にて1時間値≧200 mg/dLかつ2時間値≧150 mg/dL,第2集団: 空腹時血糖値≧115 mg/dL,食後2時間以降血糖値≧140 mg/dL,糖尿病既往,糖尿病治療中または第1集団における糖代謝異常(生存者),第3集団: 空腹時血糖値≧110 mg/dL,随時血糖値≧200 mg/dL,75 g経口糖負荷試験にて負荷後2時間血糖値≧140 mg/dLまたは糖尿病治療中とした。 (久山町研究へ
  結果: 対象背景として,第1~第3集団にかけ,年齢,糖代謝異常の割合,降圧薬服用率,肥満の割合,高脂血症の割合が有意に増加し,血圧,現在喫煙率が有意に低下していた。総死亡については,第2集団においてのみ,糖代謝異常が有意な危険因子となった。心血管疾患死亡については,第1~第3集団のすべてで糖代謝異常が有意な危険因子となったが,相対危険は第1~第2集団にかけて増強したのちに第3集団で減弱していた。悪性腫瘍死亡については,第2・第3集団において糖代謝異常が有意な危険因子となった。その他の死亡については,第2集団においてのみ,糖代謝異常が有意な危険因子となった。糖尿病や高血圧の治療が普及したことで糖代謝異常の心血管疾患死亡やその他の死亡に対する影響が時代とともに減弱したため,第2集団以降より悪性腫瘍死亡との関連が明確になってきたと考えられる。
志方健太郎氏 志方健太郎氏のコメント
近年,糖尿病を含む糖代謝異常が悪性腫瘍の危険因子となることが報告されていますが,1990年以前にはそのような報告はほとんどありませんでした。久山町研究では時代の異なる集団を1961年から長期間にわたって追跡しているため,この関連の時代的推移を検討することが可能です。検討の結果,糖代謝異常は1974年から追跡を開始した第2集団以降で,悪性腫瘍死亡の有意な危険因子となることが示されました。1960年代の糖代謝異常者は,悪性腫瘍に罹患する前に心血管病で早期死亡することが多かったために,糖代謝異常が悪性腫瘍死亡の危険因子にならなかった可能性が示唆されます。


[久山町研究] 日常生活動作(ADL)障害の増加の原因は認知症割合の増加

発表者: 九州大学・吉田 大悟 氏 (1月25日(金))
  目的: 日常生活動作(ADL)障害の頻度とその原因疾患について,一般住民の高齢者を対象として20年間の時代的推移を検討。
  コホート・手法: 久山町研究の参加者のうち,65歳以上の高齢者を対象として1985年,1992年,1998年,2005年に実施された高齢者健康調査の受診者におけるADL障害の頻度と原因疾患を比較した。ADLの評価にはKatz Indexのうち5項目(食事,入浴,着衣,ベッドからイスへの移動,排泄のコントロール)を用い,1項目以上に介助が必要な状態をADL障害と定義した(4項目以上: 重度ADL障害)。 (久山町研究へ
  結果: ADL障害の頻度(性別・年齢調整)は,1985年9.9%,1992年8.9%,1998年12.3%,2005年13.1%と有意に増加しており,男女別,および年齢層(65~74歳/75~84歳/85歳以上)別にみても同様であった。ADL障害の原因疾患の内訳をみると,いずれの年代でも認知症がもっとも多かった。重度ADL障害についてみると,やはり認知症がもっとも多く,時代とともに有意な増加を示していた。ADL障害をもつ人の5年生存率は,1985年から1998年にかけて有意に増加していたが,1998年から2005年にかけては横ばいであった。超高齢社会を迎えたわが国において,ADL障害を予防するためには認知症対策が大きな課題であることが示唆された。
吉田大悟氏 吉田大悟氏のコメント
久山町研究では,1985年より7年ごとに日常生活動作(ADL)障害や認知症の実態把握を目的とした高齢者調査を実施しています。これにより,ADL障害の頻度やその原因疾患の時代的推移を検討することが可能です。今回の結果から,ADL障害の原因疾患として認知症がもっとも多く,とくに寝たきりなどを含む重度ADL障害の原因として,1980年代から2000年代にかけて増加していることが示されました。健康寿命の延伸を目指すうえでADL障害の予防を行うことは大変重要ですが,本研究の結果から,従来報告されている脳卒中や整形外科的疾患に加えて,近年有病率が増加し続けている認知症の予防対策が今後の大きな課題であると考えられます。


[JACC] 女性では,脂質の摂取量と全死亡リスクが負の相関

発表者: 名古屋大学・若井 建志 氏 (1月25日(金))
  目的: 厚生労働省による「日本人の食事摂取基準」における脂質の適正な摂取量は,国民健康・栄養調査における分布から便宜的に決められているにすぎない。そこで,大規模コホート研究により,脂質摂取量と全死亡リスクとの関連を検討した。
  コホート・手法: JACC Study参加者のうち,食物摂取頻度調査により脂質摂取量の推定が可能であった40~79歳の58672人を平均16.5年間追跡。 (JACCへ
  結果: 男女とも総脂質摂取量の多い人では,野菜・果物の摂取量が多く,教育年数が長く,BMIが低く,喫煙者が少ない傾向がみられた。男性では総脂質摂取量は年齢と正の相関,女性では負の相関を示した。脂質摂取量と全死亡リスクとの関連をみると,男性では,総脂質,飽和脂肪酸,一価不飽和脂肪酸のいずれについても有意な関連はみられず,多価不飽和脂肪酸については摂取量と死亡リスクが正に関連する傾向がみられた(P=0.074)。女性では,総脂質,飽和脂肪酸,一価不飽和脂肪酸,多価不飽和脂肪酸のいずれについても,摂取量が多いほど死亡リスク(多変量調整)が低下する有意な関連がみとめられた(すべてP<0.05)。女性の全死亡ハザード比がもっとも低くなる総脂質摂取量(%エネルギー)は,現在,「日本人の食事摂取基準(2010年版)」で30歳以上の脂質摂取目標量として掲げられている20~25%よりも高い,27%と推算された。


[JALS] 身体活動によるエネルギー消費量が多いほど,総死亡リスクが低下

発表者: JALS事務局・原田 亜紀子 氏 (1月26日(土))
  目的: 日本人を対象に,家事など比較的低強度の日常活動を含む身体活動の,総死亡リスクに対する影響を検討。
  コホート・手法: JALS統合研究の参加者のうち,身体活動に関するデータが得られており,心血管疾患既往やデータ不備のない32819人を5.7年間(中央値)追跡。身体活動については,研究用に開発した質問票であるJALSPAQを用い,家事活動(炊事,洗濯,掃除,育児・介護)を含む1日の総エネルギー消費量および活動時間を調査した。 (JALSへ
  結果: 平均年齢は57.7歳,男性の割合は41.7%で,総エネルギー消費量が多いカテゴリーほど年齢が低く,血圧およびBMIが低い傾向がみとめられた。男女とも,総エネルギー消費量(METs時間/日)が多いカテゴリーほど,総死亡リスクが低いという有意な関連がみとめられた。活動種類ごとにみると,「家事」については,男性では実施時間と総死亡リスクとの関連はみられなかったが,女性では,1日あたり2~3時間実施する人のカテゴリーで有意なリスク低下がみとめられた。「運動」については,男女とも活動量が多いと総死亡リスクが低下する傾向がみられたが有意ではなかった。「移動(歩行・自転車)」については,男性では実施時間と総死亡リスクとの関連はみられなかったが,女性では1日あたり10~30分,および30~60分のカテゴリーで有意なリスク低下がみとめられた。
原田亜紀子氏 原田亜紀子氏のコメント
比較的低強度の身体活動が総死亡の重要な予後予測因子であることは,これまでの本邦の研究からも示されていますが,今回,2000年代に研究を開始したJALSの集団においても同様の結果が確認されました。とくに女性において,家事活動,歩行・自転車などの日常身体活動の重要性が示されたことは,特筆すべき点であると考えております。身体活動の効果を検討するうえで,今後,死因別の検討や発症との関連の検討も進めていく必要があります。とくに,身体活動の総量だけではなく,活動の種類や強度,実施の頻度,1回あたりの実施時間も考慮した検討を引き続き行っていく予定でおります。




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