[学会報告・日本疫学会2016]EPOCH-JAPAN,福島県県民健康調査,久山町研究,岩手県北地域コホート研究,JACC,NIPPON DATA,大迫研究,SESSA


第26回日本疫学会学術総会は,2016年1月21日(木)~23日(土)の3日間,鳥取県米子市の米子コンベンションセンターで開催された。ここでは,学会で発表された疫学研究の一部を紹介する。

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■ 目 次 ■ * タイトルをクリックすると,各項目にジャンプします
EPOCH-JAPAN 国内コホートのメタ解析研究でみた危険因子や死亡率のばらつき
福島県県民健康調査 避難生活を送る人では体重増加のリスクが大きい
久山町研究 糖尿病者では脳(とくに海馬)の萎縮が進行しやすい
岩手県北地域
  コホート研究
腎機能が低下した女性では,要介護認定のリスクが高い
JACC 朝食をとらない人では全死亡リスクが高い
JACC トリグリセリド高値は,他の血清脂質値とは独立した心筋梗塞死亡の危険因子
NIPPON DATA90 Ca摂取量が多い人では,10年後のADL低下リスクが小さい
NIPPON DATA2010 蛋白質摂取量が多い人ほど,正常範囲内でeGFRが低い傾向
大迫研究 初経が早かった女性では脳卒中発症リスクが高い
SESSA 冠動脈・大動脈・頚動脈・末梢血管における潜在性動脈硬化の程度は,生涯喫煙量の多い喫煙者ほど大きく,早期に禁煙した禁煙者ほど小さい
SESSA 男性の睡眠時間の長さは,潜在性動脈硬化の程度とは関連せず
icon 編集委員の注目演題 磯博康氏(大阪大学)

[EPOCH-JAPAN] 国内コホートのメタ解析研究でみた危険因子や死亡率のばらつき

発表者: 東邦大学・村上 義孝 氏 (1月23日,ポスター)
  目的: 国内の疫学コホートを集めたメタ解析研究の一環として,統計学的調整を行ったうえで各コホートにおける危険因子の値やアウトカムとしての心血管疾患(CVD)死亡率を比較し,そのばらつきについて検討。
  コホート・手法: EPOCH-JAPANの14コホート10万5945人。(EPOCH-JAPANへ
  結果: [死亡率]各コホートのCVD死亡率(/10万人・年,年齢調整)は,男性で最小170.4~最大1521.5(平均703.8),女性では40.1~889.5(325.7)と,大きなばらつきがみとめられた。脳卒中死亡率,冠動脈疾患死亡率についても同様の結果であった。ばらつきの要因について検討した結果,ベースライン調査年が早いコホートほど,また追跡期間が長いコホートほどCVD死亡率が高くなっていた。[危険因子]収縮期血圧(mmHg,年齢調整)は男性で最小130.4~最大142.3(平均134.4)で,女性では126.4~139.2(131.2)と,おおむね130~140 mmHgの範囲におさまっていた。BMI(おおむね22~24 kg/m²),総コレステロール(おおむね男性180~200 mg/dL,女性200~220 mg/dL)についても同様の結果であったが,喫煙率については,各コホートでの定義の違い(禁煙者の扱いなど)の影響もみられた。
村上 義孝氏 村上義孝氏のコメント
今回は,EPOCH-JAPANのなかで危険因子の値やCVD死亡率にどのくらいの地域差がみられるかを検討するため,統計学的な調整によってその他の要因をなるべく「そろえた」状態で各コホート間の比較を行いました。危険因子については,全体的にあまり大きなコホート間差はみられないという結果でしたが,CVD死亡率の絶対値にはコホート間で大きな差がみられました。その要因を探るべく,まずはベースライン調査年との関連を検討してみると,新しいコホートほどCVD死亡率が低くなっていました。これは,高血圧や脂質異常症,糖尿病などの治療率が改善してきたことや,日本人の年齢調整死亡率が一貫して低下し続けていることを反映しているとも考えられます。また,追跡期間との関連については,ベースライン調査年との関連のいわば「裏返し」のような結果となっていますが,追跡期間が長いコホートの多くが1980年代という比較的早い時期に開始されたものであり,これも時代の影響といえます。メタ解析を行ううえでのこうした時代の影響について,今回の検討だけではまだはっきりしたことはいえませんが,次の段階として,危険因子とアウトカムとの関連の強さ(ハザード比)が,時代効果の調整後にコホート間でどのくらい異なるかについて,比較・検討を進めていきたいと考えています。


[福島県県民健康調査] 避難生活を送る人では体重増加のリスクが大きい

発表者: 福島県立医科大学・大平 哲也 氏 (1月23日,ポスター)
  目的: 東日本大震災および福島第一原子力発電所(原発)事故後の避難生活が,体重変化や肥満リスクに与える影響について,震災前のデータも用いて前向きに検討。
  コホート・手法: 原発事故後に避難区域に指定された福島県の13市町村(田村市,南相馬市,川俣町,広野町,楢葉町,富岡町,川内村,大熊町,双葉町,浪江町,葛尾村,飯舘村,伊達市),ならびに避難区域とはならなかった会津地方の3市町村(喜多方市,南会津町,只見町)において,震災前の2008~2010年に特定健診または後期高齢者健診を1回以上受診していた40~89歳の一般住民53925人のうち,震災後の2011年または2012年の追跡健診を受診した35532人を解析対象とした(平均追跡期間1.5年)。2011年末の時点での避難状況によって,対象者を3つのカテゴリー(避難者/非避難者[避難区域での居住を継続]/非避難者[非避難区域での居住を継続])に分類した。
  結果: 避難者では,震災前から震災後にかけての体重増加度,およびBMI増加度が,非避難者(避難区域)と非避難者(非避難区域)のどちらに対しても有意に大きく,肥満(BMI>25 kg/m²)の割合も,震災前から震災後にかけて有意に増加していた。震災後の肥満の多変量調整ハザード比は,避難者では有意に高かったが,非避難者(避難区域)では有意差なし(vs. 非避難者[非避難区域])。
大平 哲也氏 大平哲也氏のコメント
県民健康調査は,東日本大震災後の住民の健康状態を把握するために福島県が行っている調査です。とくに避難者の方々は,自宅から遠く離れた仮設住宅で避難生活を送ることで,それまでの生活習慣を「変えざるをえない」状況にあるため,その健康への影響に注意し,必要に応じた対策を行っていくことも目的の1つです。ただ,震災後に始まった調査であることから,今回は各市町村との協定を締結して震災前のデータを提供していただくことによって,はじめて縦断的な検討が可能になりました。避難者の体重増加は非避難者にくらべて顕著という結果でしたが,このほかにも,避難者では高血圧や脂質異常症,糖尿病が増えているというデータが得られています。心筋梗塞や脳卒中の増加につながることも懸念されるため,これから,現在準備中である福島県循環器疾患発症登録事業とのデータ統合による検討を進める予定です。また,県民健康調査には被ばく線量やこころの健康度の調査も含まれており,うつ病がほかの被災地にくらべても多いことが示されています。症状を訴える高齢者が多いことや,放射線への不安が強いほどうつや心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状が強いことも特徴的です。震災そのものの被害に加え,さらに原発事故によって慣れ親しんだ故郷を離れなければならないことのつらさや,放射線被害に対する不安やストレスの大きさが実感されます。
<参考: http://fukushima-mimamori.jp/outline/


[久山町研究] 糖尿病者では脳(とくに海馬)の萎縮が進行しやすい

発表者: 九州大学・平林 直樹 氏 (1月22日,口演 *最優秀演題賞受賞)
  目的: 海馬萎縮を特徴とするアルツハイマー病の危険因子としての糖尿病に着目し,糖尿病と頭部MRI検査における脳萎縮や海馬萎縮との関連を検討。
  コホート・手法: 久山町研究。2012年に頭部MRIと循環器健診を受診した65歳以上の1238人(横断研究)。脳画像解析ソフトを用いて,全脳容積(total brain volume: TBV),頭蓋内容積(intracranial volume: ICV),海馬容積(hippocampal volume: HV)を測定し,脳萎縮の指標としてTBV/ICV比,海馬萎縮の指標としてHV/ICV比,海馬優位の脳萎縮の指標としてHV/TBV比を評価した。(久山町研究へ
  結果: 糖尿病群では非糖尿病群にくらべてTBV/ICV比,HV/ICV比,HV/TBV比のいずれも有意に小さく,糖尿病者では脳萎縮,とくに海馬萎縮が進行しやすいと考えられた。また,非糖尿病群とくらべ,糖尿病の罹病期間が長いほど,これらの指標はいずれも有意に小さかった。さらに,1988年と2012年の健診を両方とも受診した849人を対象として糖尿病の診断時期別の解析を行うと,中年期(1988年時に41~64歳)から糖尿病と診断されていた群では,非糖尿病群および老年期(2012年時に65~88歳)に糖尿病と診断された群にくらべて海馬萎縮に関する2つの指標(HV/ICV比とHV/TBV比)が有意に低値であった。
平林 直樹氏 平林直樹氏のコメント
これまでに久山町研究から,高齢者を対象とした検討において,糖尿病がアルツハイマー病の危険因子であること,また,剖検脳を用いた病理学的検討により,高血糖が老人斑形成と関連することを報告してきました。今回の研究は,糖尿病とアルツハイマー病の関連のメカニズムを明らかにするうえで有用な知見だと考えられます。


[岩手県北地域コホート研究] 腎機能が低下した女性では,要介護認定のリスクが高い

発表者: 岩手医科大学・米倉 佑貴 氏 (1月23日,ポスター)
  目的: 腎機能と要介護認定の発生リスクとの関連を検討。
  コホート・手法: 岩手県北地域コホート研究の65歳以上の11101人を平均5.3年間追跡。
腎機能低下の定義は,推算糸球体濾過量(eGFR)<60 mL/min/1.73 m²,慢性腎臓病(CKD)の定義は腎機能低下または尿中アルブミン/クレアチニン比≧30とした。(岩手県北地域コホート研究へ
  結果: 女性では,腎機能低下,およびCKDのいずれについても,それぞれ正常および非CKDに比して要介護認定(「要支援1」以上)の多変量調整ハザード比が有意に高かった。男性では,腎機能と要介護認定リスクとの有意な関連はみとめられなかった。
米倉 佑貴氏 米倉佑貴氏のコメント
これまでに,心血管疾患を発症すると要介護のリスクが高まることが示されており,日本人ではとくに脳卒中が要介護のリスクを高める点が懸念されます。そこで,心血管疾患の危険因子としての腎機能と要介護認定リスクとの関連を検討した結果,女性でのみ腎機能低下と要介護認定リスクとの関連がみられました。この背景として,CKDから腎機能低下がさらに進行し,透析を経て直接的に要介護となったケースもあれば,CKDに引き続いて心血管疾患や認知症,骨粗鬆症などの整形外科疾患が発症し,それが原因となって間接的に要介護に至ったケースもあると考えられますが,CKDに引き続いて発症する疾患には男女差があるのかもしれません。また,要介護状態を経ずに死亡する可能性の高い疾患もあるため,これから追跡期間をさらに延長するとともに,エンドポイントとして要介護と死亡の両方を含めた検討を行うと,異なる結果が得られる可能性があります。岩手県北地域コホート研究では,対象地域の各自治体との良好な協力関係を築くことができているため,今後,認知症や要介護度を含め,提供していただいたさまざまなデータを有効活用し,よりくわしく検討していきたいと考えています。


[JACC] 朝食をとらない人では全死亡リスクが高い

発表者: 鳥取大学・横山 弥枝 氏 (1月22日,ポスター)
  目的: 朝食をとらないことと全死亡および死因別死亡リスクとの関連を検討。
  コホート・手法: JACC。40~79歳の83410人を19.4年間(中央値)追跡。(JACCへ
  結果: 朝食をとらない人では,とる人にくらべ,男女とも全死亡の多変量調整ハザード比が有意に高かった。死因別にみると,癌死亡については朝食との関連はみられなかったが,心血管疾患死亡については,男性でのみ,朝食をとらない人のリスクが有意に高くなっていた。
横山 弥枝氏 横山弥枝氏のコメント
食事は昔からその内容や組み合わせ,量などが重要といわれていますが,最近では動物実験などにより,食事をいつ摂るかというタイミングも重要であることがわかりはじめました。しかしヒトでの研究報告はほとんどないことから,今回,疫学研究のデータを用いて検討を行った結果,予想どおり,朝食欠食による死亡リスクの増加がみとめられました。そのメカニズムとして,朝食を欠食することで概日リズムの乱れを招き,それが肥満や生活習慣病につながり,将来的に死亡リスクに影響することが考えられます。日本人の朝食欠食率は年々増加していることから,とくに,将来を担う子どもたちや欠食率が一番高い20~30代の若者には,できるだけバランスのよい朝食をしっかりとっていただきたいと思います。


[JACC] トリグリセリド高値は,他の血清脂質値とは独立した心筋梗塞死亡の危険因子

発表者: 筑波大学・門野 彩花 氏 (1月23日,ポスター)
  目的: トリグリセリド高値が心筋梗塞死亡の独立した危険因子であるかどうかを検討。
  コホート・手法: JACC。随時採血でのトリグリセリドのデータを有する40~79歳の12400人を19.2年間(中央値)追跡。(JACCへ
  結果: トリグリセリドが高いほど,心筋梗塞死亡のハザード比(総コレステロール,HDL-Cを含めた多変量調整)が高くなる関連がみられた。臨床的な区分を用いた解析では,100~149 mg/dL,および150 mg/dL以上のいずれにおいても,100 mg/dL未満に比してリスクが有意に高くなっていた。層別解析を行うと,女性より男性,高齢者(65~79歳)より若年者(40~64歳)において,より強い関連がみられた。
門野 彩花氏 門野彩花氏のコメント
トリグリセリドと心筋梗塞については,他の血清脂質にくらべてエビデンスが少なく,またこれまでに,他の血清脂質で調整すると関連が弱められるとの報告がありました。しかし,日本人を対象とした大規模コホートにおける今回の検討では,総コレステロールやHDL-Cで調整を行ったうえでも,トリグリセリドと心筋梗塞死亡リスクとの独立した正の関連がみられました。また,150 mg/dL以上だけでなく,100~149 mg/dLのカテゴリーでも心筋梗塞死亡リスクが有意に高くなっていました。トリグリセリドは食事や飲酒の影響によっても変動することから,生活習慣の改善を含めた管理が望まれます。


[NIPPON DATA90] Ca摂取量が多い人では,10年後のADL低下リスクが小さい

発表者: 東北大学・小暮 真奈 氏 (1月22日,口演)
  目的: カルシウム(Ca)摂取量と日常生活動作(ADL)低下の発生リスクとの関連を検討。
  コホート・手法: NIPPON DATA90のデータを用いたコホート内症例対照研究。ベースラインから5年後(1995年),10年後(2000年),約15年後(2006年),および約20年後(2012年)の各時点で65歳以上の生存者に実施されたADL調査の結果に基づき,ADL低下者と,性・年齢(±5歳)をマッチさせたADL維持者(対照)を1:1で抽出(それぞれ99ペア,132ペア,170ペア,252ペア)。ADLについては,訪問による本人への聞き取り調査において,食事,入浴,着替え,排泄,屋内移動のいずれか1つ以上を自立して行えないと回答した場合に「低下」とした。Ca摂取量については,1990年の国民健康・栄養調査による世帯単位でのCa摂取量データを,性・年齢を考慮して案分することで推算し,残渣法を用いてエネルギーを補正したCa摂取量を算出した。Ca摂取量の三分位によるカテゴリーを用い,摂取量がもっとも少ない群を基準とした場合のADL低下のオッズ比を条件付ロジスティック回帰分析で推定するとともに,ブートストラップ法により無作為抽出を1000回繰り返し,点推定値の95%信頼区間を推定した。(NIPPON DATAへ
  結果: ベースラインのCa摂取量は,5年後,約15年後および約20年後のADLとは関連していなかったが,10年後の調査では,Ca摂取量が多いほどADL低下の多変量調整オッズ比が低くなる有意な傾向がみとめられた。
小暮 真奈氏 小暮真奈氏のコメント
本研究の長所として,性・年齢の影響を完全にコントロールするために性・年齢のマッチングを行っていることや,マッチングに偶然の影響が介在するのを防ぐためにブートストラップ法を用いて検討している点があげられます。今回の解析で5年後,および約15年後以降で有意な差がみとめられなかった理由として,Ca摂取の効果をみるにはベースラインから約5年という期間は短すぎた可能性や,また逆に観察期間が長期にわたると生活習慣が徐々に変容していくことの影響が避けられず,ベースライン時の生活習慣の影響が薄まってしまった可能性が考えられます。


[NIPPON DATA2010] 蛋白質摂取量が多い人ほど,正常範囲内でeGFRが低い傾向

発表者: 慶應義塾大学・平田 匠 氏 (1月22日,ポスター)
  目的: 蛋白質摂取量と腎機能との関連について,国民健康・栄養調査の結果から個人の摂取量を直接推算できるNIPPON DATA2010のデータを用いて検討。
  コホート・手法: NIPPON DATA2010(全国300地区における2010年の国民健康・栄養調査に参加し,血液検査を受けた人を対象に実施された「循環器病の予防に関する調査」)における30歳以上で腎臓病の既往がない2498名(男性1034名、女性1464名)を対象とした断面研究。対象者個人の食事秤量記録をもとに,1日あたりの総摂取エネルギーに占める蛋白質(総蛋白質,動物性蛋白質および植物性蛋白質)の割合を算出し,推算糸球体濾過量(eGFR)との関連を多変量解析で検討。
  結果: 男女とも,年齢層が高くなるほど総蛋白質および植物性蛋白質の摂取量が増加していた。また,男女とも,総蛋白質,動物性蛋白質,および植物性蛋白質の摂取量が多いほど,多変量調整eGFR値が有意に低くなる傾向がみとめられた(男性の動物性蛋白質摂取量を除く)。ただし,いずれのカテゴリーにおいてもeGFR値は75 mL/min/1.73 m2以上を示しており,おおむね正常範囲内での関連となった。
平田匠氏のコメント
先行研究(NIPPON DATA90pubmed)とは逆の結果が得られたことは予想外でしたが,蛋白質摂取量について,NIPPON DATA90では世帯単位での栄養調査の結果から個人の性・年齢を考慮して推算していたのに対し,NIPPON DATA2010では個人の栄養調査の結果から直接算出しています。したがって今回の結果には,より信頼性の高い栄養調査に基づいた,現代の日本人の実態を示す基礎的なデータとしての意義があります。蛋白質摂取量と腎機能との負の関連はあくまで正常範囲内でのものであり,年齢による影響が完全に否定できませんので,今後は年齢による層別解析が必要となります。また今回の結果は断面解析によるものであり,因果関係については今後縦断解析を行って検討する必要があります。


[大迫研究] 初経が早かった女性では脳卒中発症リスクが高い

発表者: 帝京大学・村上 慶子 氏 (1月22日,ポスター)
  目的: 閉経後女性を対象に,初経・閉経年齢,および初経から閉経までの年数と脳卒中発症リスクとの関連を検討。
  コホート・手法: 大迫研究。1998年に自己記入式質問票調査に回答した60歳以上の閉経後女性740人を12.8年間追跡(中央値)。(大迫研究へ
  結果: 初経年齢が13歳以下だった人では,16歳だった人にくらべて脳卒中発症の多変量調整ハザード比が有意に高かった。閉経年齢,および初経から閉経までの年数については,いずれも脳卒中発症リスクとの関連はみられなかった。
村上 慶子氏 村上慶子氏のコメント
近年,脳卒中の予防対策において女性に特有のリスク要因に着目する必要性が指摘されていますが,初経・閉経年齢と脳卒中発症との関連を検討した研究はきわめて少なく,結果も一貫していませんでした。そこで大迫研究のデータを用いて検討したところ,初経が早かった女性では脳卒中発症リスクが高かったという結果が得られました。初経年齢は遺伝・栄養・社会経済状況など,さまざまな要因の影響を受けるため,早い初経のどのような側面が脳卒中発症に関連するのかを検討し,修正可能な要因に早期介入することが,脳卒中リスク減少に役立つと考えられます。本研究では平均の初経年齢は15歳でしたが,現在の日本人女児では約12歳です。そのため,疾患リスクの高まる初経年齢のカットオフ値が,世代などにより異なる可能性があることには注意が必要です。


[SESSA] 冠動脈・大動脈・頚動脈・末梢血管における潜在性動脈硬化の程度は,生涯喫煙量の多い喫煙者ほど大きく,早期に禁煙した禁煙者ほど小さい

発表者: 滋賀医科大学・久松 隆史 氏 (1月22日,ポスター)
  目的: 生涯喫煙量や禁煙期間を含めた詳細な喫煙習慣と,心臓,大動脈,頸動脈および末梢血管における潜在性動脈硬化との関連を横断的に検討。
  コホート・手法: 滋賀動脈硬化疫学研究(SESSA): 滋賀県草津市一般住民より無作為に抽出された,心血管疾患のない健常な40~79歳の男性1019人。潜在性動脈硬化の定量的評価に用いた指標は,冠動脈(CTで評価): 冠動脈石灰化スコア(CAC: >0を石灰化ありとした),大動脈(CTで評価): 大動脈石灰化スコア(AoAC: >0を石灰化ありとした),頸動脈(エコーで評価): 内膜-中膜肥厚度(IMT),末梢血管: 足関節/上腕血圧比(ABI)。
  結果: 冠動脈・大動脈石灰化のオッズ比の増加度,IMT,ABIの低下度はいずれも,喫煙未経験者に比して禁煙者<現在喫煙者の順で大きくなっていた。現在喫煙者における生涯喫煙量(pack-year)の三分位のカテゴリーを用いた解析では,生涯喫煙量が多いほど,喫煙未経験者に比して,冠動脈・大動脈石灰化のオッズ比,およびIMTが増加し,ABIが低下する有意な傾向がみられた。また,禁煙者における禁煙期間の三分位のカテゴリーを用いた解析では,現在喫煙者に比し,禁煙期間が長くなるほど,冠動脈・大動脈石灰化のオッズ比,およびIMTが小さく,ABIが大きくなる有意な傾向がみとめられた。
久松 隆史氏 久松隆史氏のコメント
喫煙習慣と動脈硬化との関連については,これまでにも種々の疫学研究から示されてきましたが,今回の検討のポイントは,喫煙習慣の評価において,pack-yearでみた生涯喫煙量や禁煙者の禁煙期間という,定量的,かつ縦断的な要素を含む尺度を用いたことです。その結果,潜在性動脈硬化の度合いは,やはり生涯喫煙量の多い喫煙者ほど大きく,早期に禁煙した禁煙者ほど小さいことが示され,これは首・心臓・大動脈・足のいずれの部位の指標でみても同様でした。これらの指標は,部位が異なるだけでなく,IMTは血管内膜・中膜の肥厚,冠動脈・大動脈石灰化スコアは血管の石灰化,ABIは血流の障害と,それぞれ異なるタイプの動脈硬化を反映しています。したがって,じつはこれらに対する喫煙の影響は少し違うのではないかと予想していたのですが,結果的に,喫煙は全部位のあらゆるタイプの動脈硬化に悪影響を及ぼすという非常に明快なデータが得られました。喫煙者の方に対し,長期間にわたって喫煙し続けることのリスクや早期に禁煙することのメリットを裏付ける,公衆衛生学的にも意義深いメッセージになるのではないかと思います。


[SESSA] 男性の睡眠時間の長さは,潜在性動脈硬化の程度とは関連せず

発表者: 滋賀医科大学・鈴木 仙太朗 氏 (1月23日,ポスター)
  目的: 睡眠時間と,心臓および頸動脈の潜在性動脈硬化との関連を検討。
  コホート・手法: 滋賀動脈硬化疫学研究(SESSA): 滋賀県草津市一般住民より無作為に抽出された40~79歳の男性1093人(断面解析)。
  結果: 冠動脈石灰化あり(CTでみた冠動脈カルシウムスコア>10)の多変量調整オッズ比,および頸動脈内膜-中膜肥厚度(IMT)(多変量調整)のいずれについても,自己申告による睡眠時間のカテゴリー(<5.5時間/5.5~6.4時間/6.5~7.4時間/7.5~8.4時間/≧8.5時間)のあいだで有意な差はみられなかった。
鈴木 仙太朗氏 鈴木仙太朗氏のコメント
今回の男性における断面的な検討では,睡眠時間と潜在性動脈硬化とのあいだに有意な関係はみとめられませんでした。この背景として,睡眠時間の短い群には,睡眠時間が短くてもやっていける元気な人,なんらかの理由で寝られない人が含まれている可能性や,また睡眠時間の長い群にも,生活に余裕があり長く寝ていられる人や,病気により長く寝ざるをえない人が含まれている可能性があります。今後,解析手法を改良しながら,このような要因の影響についてさらなる検討を加えるとともに,追跡調査による縦断的な解析や,女性での解析も行いたいと考えています。
icon編集委員の注目演題
磯 博康氏

編集委員の磯博康氏(大阪大学大学院医学系研究科社会環境医学講座公衆衛生学)に,今回の学術総会での注目演題について聞きました。

 聴講できたなかで興味深かったものの1つは,「子供の健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」の一環として今回の学術総会の開催地・鳥取県米子市で行われた,大気汚染と妊婦のアレルギー症状に関する検討です[1]。対象者の自覚的な症状の調査が行われていますが,しっかりとデザイン・検討された研究だと思います。

[1] 口演: 大西一成氏(鳥取大学)「Health effects of cross-border forest fire pollution on allergic symptoms in pregnant women」(1月22日)
2012年春に起きたロシアとモンゴル国境付近の森林火災による大気汚染が,妊婦187人のアレルギー症状に与える短期的な影響を検討。バイオマス燃焼の指標である大気中のレボグルコサン(PM2.5の1つ)の濃度は,妊婦の自覚的アレルギー症状と有意に関連していた。

 また,2003年より休止された神経芽細胞腫のマススクリーニング検査について,休止にともなって懸念された死亡率の増加はみられなかったとする発表がありました[2]。こうした行政施策の疫学的な検証というのは,医療経済的な側面からも大変重要です。あらためてスクリーニング検査の費用対効果を考えてみると,たとえば血圧の測定が必要であることはこれまでのエビデンスから示されていますが,他の検査項目については,必ずしもエビデンスが確立されていないものもあります。今後,医療経済面も含めた検討が必要です。

[2] 口演: 品川貴郁氏(大阪大学)「神経芽細胞腫マススクリーニング検査の休止前後における罹患率・死亡率の動向分析」(1月22日)
マススクリーニング検査休止前後の小児神経芽細胞腫の罹患率と死亡率の推移から,休止の影響を検討。休止を境として罹患率には顕著な減少がみられたが,死亡率には明らかな変化はみられず。


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