[学会報告・日本高血圧学会2014] 日高コホート研究,久山町研究,IDHOCO,日中労災過労死研究,NIPPON DATA2010,大迫研究,吹田研究,亘理町研究

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第37回日本高血圧学会総会は,2014年10月17日(金)~19日(日)の3日間,横浜にて開催された。ここでは,学会で発表された疫学研究の一部を紹介する。


■ 目 次 ■ * タイトルをクリックすると,各項目にジャンプします
日高コホート研究 年齢と蛋白尿は要介護発生のリスクと関連
久山町研究 家庭血圧の日間変動性は,頸動脈硬化の進展と関連
IDHOCO 脳心血管イベントリスク予測のための家庭血圧カットオフ値に,男女差・年齢差はみられず
日中労災過労死研究 中国人勤務者において,仕事の裁量権が低いことは低HDL-C血症と関連
NIPPON DATA2010 推算24時間尿中ナトリウム・カリウム排泄量に関連する要因
NIPPON DATA2010 成人の約半数および降圧薬服用者の約8割が,1年以内に家庭血圧を測定
大迫研究 家庭血圧の日間変動性は,血圧とは独立してCKDと関連
吹田研究 BMI,腹囲,ウエスト/身長比の高血圧発症リスク予測能は同等
亘理町研究 仮設住宅居住者は,自宅居住者よりBMIが高く,自覚的なストレス,運動量減少,飲酒量や喫煙量の増加が顕著

[日高コホート研究] 年齢と蛋白尿は要介護発生のリスクと関連

発表者: 豊岡病院日高医療センター・田中 愼一郎 氏 (10月17日,一般口演)
  目的: 一般住民を対象としたコホート研究において,高血圧や腎機能をはじめとした心血管疾患危険因子と要介護状態発生リスクとの関連を前向きに検討。
  コホート・手法: 日高コホート研究。1993年に兵庫県日高町の循環器疾患予防健診を受診した,介護を要さない65歳以上の1002人を2005年末まで追跡し,要介護状態(厚生労働省の要介護認定における「要介護1」~「要介護5」)発生の有無を調査。
  結果: 要介護状態発生の相対危険度(年齢調整)との有意な正の関連を示していたのは,年齢および尿蛋白で,少量のアルコール摂取(25 g/日以下)は有意な負の関連を示しており,これらの結果は主要な心血管危険因子による多変量調整後も同様であった。高血圧や糖尿病については,要介護状態発生リスクとの有意な関連はみられなかった。
田中 愼一郎氏 田中 愼一郎氏のコメント
高齢化社会を迎えた日本において,要介護状態に陥る高齢者をいかに少なくするかはこれからの重要な課題です。しかし,これまで要介護状態発生にどのような因子が関与するかを前向きに検討した報告はあまりありませんでした。今回われわれは,従来から言われている心血管疾患危険因子よりも,蛋白尿の存在のほうが,介護状態発生により密接に関わっていることを示しました。今後,蛋白尿を有する方に対して,介護予防を目的とした治療介入を考慮する必要があるかもしれません。


[久山町研究] 家庭血圧の日間変動性は,頸動脈硬化の進展と関連

発表者: 九州歯科大学・福原 正代 氏 (10月17日,一般口演)
  目的: 家庭血圧の日間変動性と頸動脈硬化の進展度との関連を検討。
  コホート・手法: 久山町研究の2007~'08年の健診を受診した40歳以上の2915人(断面解析)。朝の家庭収縮期血圧(SBP)値の日間変動性を標準偏差(SD)および変動係数(CV)を用いて評価し,頸動脈硬化の進展度(平均内膜-中膜厚[IMT],最大IMT,IMT肥厚[最大IMT>1.0 mm]および狭窄の有無)を評価した。
  結果: 朝SBPのSDの最大四分位では,最小四分位に比して平均IMTおよび最大IMTが有意に高値で,この結果はSBP値を含めた多変量調整を行っても同様であった。朝SBPのSDが最大の四分位では,IMT肥厚および頸動脈狭窄の相対危険度(性・年齢調整)はいずれも有意に高かったが,多変量調整を行うと有意差は消失した。変動性指標としてSDのかわりにCVを用いた解析でも,同様の結果であった。以上のように,家庭血圧値の日間変動性は,血圧値とは独立して頸動脈硬化の進展と関連していることが示された。


[IDHOCO] 脳心血管イベントリスク予測のための家庭血圧カットオフ値に,男女差・年齢差はみられず

発表者: 帝京大学・野村 恭子 氏 (10月19日,一般口演)
  目的: 大規模国際共同研究データを用いて,脳心血管疾患(CVD)イベントリスク予測のための家庭血圧のカットオフ値を性・年齢ごとに検討。
  コホート・手法: 家庭血圧と心血管予後に関する国際共同データベース(International Database of HOme blood pressure in relation to Cardiovascular Outcomes[IDHOCO]: 日本を含む6か国の7コホート8912人を対象としたメタ解析研究)。このうちデータ収集中の2コホートおよび降圧薬服用者を除外した,5コホートの5018人(うち日本人49.6%)を8.3年(中央値)追跡。性・年齢層(60歳未満/以上)ごとに,外来血圧による既定のカットオフ値(収縮期血圧[SBP]: 120,130,140,160 mmHg,拡張期血圧[DBP]: 80,85,90,100 mmHg)に対応した10年間のCVDイベント発生リスクを推定し,このリスクに対応する家庭血圧のカットオフ値をブートストラップ法により算出した。
  結果: 外来血圧による既定のカットオフ値に対応する家庭血圧のカットオフ値を,男女および60歳未満・以上のあいだで比較した結果,有意差はみられなかった(外来SBP 140 mmHgおよび外来DBP 80 mmHgについては,年齢層による有意差あり)。検証のために,家庭血圧による既定のカットオフ値(SBP: 125,130,135 mmHg,DBP: 80,85 mmHg)にそれぞれ対応する外来血圧のカットオフ値について検討したところ,結果は同様で,男女および60歳未満・以上のあいだで有意差はみられなかった。以上のように,家庭血圧のカットオフ値に性・年齢による大きな違いがみられなかったという結果は,わが国の『高血圧治療ガイドライン2014』が提唱する種々の血圧基準値(高血圧診断基準や降圧治療開始基準,降圧目標値)が男女共通であることを支持するものといえる。
野村 恭子氏 野村 恭子氏のコメント
今回は総心血管イベントをアウトカムにした場合の結果のみを紹介しましたが,その内訳である心血管イベントならびに脳血管イベントのいずれについても,男女および60歳未満・以上のあいだで,血圧カットオフ値にほぼ有意差はないという同様の結果が得られています。年齢の影響についてみると,外来SBP 140 mmHgおよび外来DBP 80 mmHgに対応する家庭血圧カットオフ値には年齢層による有意差がみられ,60歳未満にくらべて60歳以上の家庭血圧カットオフ値は高い傾向でしたが,その影響は非常に小さいものであると考えられます。今回の結果はベースライン時の降圧薬非服用者を対象としたものであり,降圧薬服用者の場合は男女差・年齢差がみられるかどうか,さらなる検討が必要であると考えています。
文献情報文献情報 Nomura K, et al; International Database of Home Blood Pressure in Relation to Cardiovascular Outcome (IDHOCO) Investigators. Thresholds for conventional and home blood pressure by sex and age in 5018 participants from 5 populations. Hypertension. 2014; 64: 695-701.pubmed


[日中労災過労死共同研究] 中国人勤務者において,仕事の裁量権が低いことは低HDL-C血症と関連

発表者: 東北労災病院/東北大学・村椿 智彦 氏 (10月18日,一般口演)
  目的: 中国人勤務者における職業性ストレスと低HDL-C血症の関連を検討。
  コホート・手法: 日中労災過労死共同研究。上海市同済大学病院およびその関連施設で健診を受けた中国人勤務者2219人(平均年齢44.0歳,男性64%)(断面解析)。職業性ストレスについては,米国国立労働安全衛生研究所(NIOSH)の職業性ストレス調査票*を用い,仕事の裁量権・社会的支援・技能活用(いずれも度合いが大きいほどストレス小),仕事の要求度・労働負荷(いずれも度合いが大きいほどストレス大)の5つの尺度について,それぞれ複数の質問項目によるスコアを算出し,その三分位によって「低い/中程度/高い」の3カテゴリーに対象者を分類した。
* http://www.cdc.gov/niosh/topics/workorg/detail088.html
  結果: 男性で,低HDL-C血症と有意な正の関連を示していたのはBMI(+1 kg/m2)および裁量権「低い」(vs. 高い)で,有意な負の関連を示したのは多量飲酒あり(40 mL/日以上)(vs. なし)。女性では,低HDL-C血症と有意な正の関連を示したのはBMI(+1 kg/m2),裁量権「低い」(vs. 高い),および労働負荷「中程度」(vs. 低い)で,有意な負の関連を示したのは食事量が「健康上の理由から腹八分目」であること(vs. 常に腹八分目)だった。とくに,裁量権「低い」(vs. 高い)は,男女ともに,多変量調整(年齢,BMI,喫煙,飲酒,運動習慣,歩行時間,睡眠時間,食事量)後も低HDL-C血症との有意な正の関連を示していた。以上のように,中国人勤務者において,男女を問わず,仕事の裁量権が低いことと低HDL-C血症との関連が示された。
村椿智彦氏 村椿智彦氏のコメント
本研究では,質的職業ストレスと低HDL-C血症の密接な関連を初めて示すことができました。今回の結果から,低HDL-C血症へのアプローチとして,ストレスマネジメントのような非薬物介入が有効である可能性が示唆されます。今回は中国人における検討ですが,昨今,日本企業の中国進出が顕著であり,本結果は中国で働く日本人にとっても重要な意味をもつと考えられます。今後,日本人での検討も進めていきたいと考えています。


[NIPPON DATA2010] 推算24時間尿中ナトリウム・カリウム排泄量に関連する要因

発表者: 滋賀医科大学・宮川 尚子 氏 (10月18日,Top 10演題)
  目的: 随時尿排泄量から推算した24時間の尿中のナトリウム(Na)排泄量およびカリウム(K)排泄量とその関連要因を,地域的な偏りのない国民代表集団を対象として検討。
  コホート・手法: NIPPON DATA2010(全国300地区における2010年の国民健康・栄養調査に参加し,血液検査を受けた人を対象に実施された「循環器病の予防に関する調査」)の,尿検査などのデータに不備のない20歳以上の2761人(断面解析)。随時尿中のNaおよびK排泄量から,田中らの式pubmedによりそれぞれの24時間排泄量を推算し,性別に背景因子間で比較した。
  結果: 高齢層でNa排泄量が少ない傾向,ならびに肥満者でNa排泄量,K排泄量が多い傾向がみられた。年齢とBMIを調整した検討において,男性では,喫煙者はNa排泄量,Na/K比が高く,反対にK排泄量が少なく,また中等度・強度の身体活動時間が長いほどNa排泄量およびNa/K比が高い傾向を認めた。女性では,既婚者または同居者のある者は,Na/K比が高い傾向を認めた。また,男女ともに教育期間の長いほうがNa/K比が低い傾向を認めるなど,背景因子により,Na排泄量,K排泄量,およびNa/K比の特徴が異なっていた。
宮川尚子氏 宮川尚子氏のコメント
ナトリウムの過剰摂取,カリウムの摂取不足の是正は,高血圧予防のための修正可能な生活習慣の一つですが,これらには社会的要因を含む多くの要因が影響する可能性が示されました。今後,さらに解析を進めることで,食習慣改善に向けた,対象を絞ったアプローチを実施するための知見を追加したいと思います。


[NIPPON DATA2010] 成人の約半数および降圧薬服用者の約8割が,1年以内に家庭血圧を測定

発表者: 帝京大学・石黒 彩 氏 (10月17日,一般口演)
  目的: わが国の家庭血圧測定の普及状況とその関連要因を検討。
  コホート・手法: NIPPON DATA2010(全国300地区における2010年の国民健康・栄養調査に参加し,血液検査を受けた人を対象に実施された「循環器病の予防に関する調査」)の,家庭血圧測定に関する回答が得られた20歳以上の2872人(断面解析)。過去1年間の家庭血圧測定の有無と頻度(月2回以上/月1回以下)を調査した。高血圧の原因に関する知識については,5つの正解(肥満,運動不足,塩分のとりすぎ,野菜・果物の不足,お酒の飲みすぎ)をいくつ選び出せたか(最大5項目)により評価。
  結果: 対象者の27.6%が降圧薬を服用。過去1年間の家庭血圧測定「あり」の割合は49.9%(降圧薬服用者では79.2%,非服用者では38.7%),測定頻度「月2回以上」は30.9%。測定「あり」のオッズ比が有意に高かった背景因子は,年齢(+10歳),既婚(vs. 独身かつ独居),収縮期血圧値(+10 mmHg),拡張期血圧値(+5 mmHg),高血圧の原因に関する知識(+1項目),降圧薬服用(vs. 非服用),および健康関連の記事や番組への関心あり(vs. なし)であった。測定頻度「月2回以上」についても,ほぼ同じ項目との有意な関連がみられた。降圧薬服用者(27.6%)における解析では,家庭血圧測定「あり」と有意に関連していたのは高血圧の原因に関する知識(+1項目)のみであった。
石黒 彩氏 石黒 彩氏のコメント
今回の結果から,家庭血圧測定はわが国で一般的なツールとなっているものと考えられました。とくに降圧薬服用者の約8割が1年以内に家庭血圧を測定していたことから,高血圧治療過程での家庭血圧の普及が示唆されました。しかし,一方で降圧薬服用者の約2割は1年以内に一度も測定していないという状況があり,家庭血圧測定の普及のためには,降圧薬服用者のみの解析で唯一関連がみとめられた項目である,高血圧の原因についての知識の正確さが重要であると考えられました。今後は,社会経済状況・職業・地域特性などの社会的要因,個人の生活習慣や身体的要因などとの関連についてさらなる研究を行い,家庭血圧測定のより一層の普及のために,具体的な方法を検討したいと考えています。


[大迫研究] 家庭血圧の日間変動性は,血圧とは独立してCKDと関連

発表者: 福島県立医科大学・寺脇 博之 氏 (10月17日,高得点演題)
  目的: 家庭血圧の日間変動性と慢性腎臓病(CKD)および心血管イベント発生リスクとの関連を検討。
  コホート・手法: 大迫研究の35歳以上の1383人。家庭血圧値(早朝と就寝前の収縮期血圧[SBP]・拡張期血圧[DBP])の日間変動性を,標準偏差(SD),変動係数(CV),ならびに平均値とは独立した変動性(variance independent of mean: VIM)の3つの指標でそれぞれ評価。(大迫研究へ
  結果: [CKDとの関連(断面解析)]他の日間変動性指標にくらべ,腎機能との関連が強かったのは早朝SBPのSDおよび早朝SBPのCVだったことから,早朝SBPを用いた場合の日間変動性の各指標と腎機能低下(eGFR<60 mL/min/1.73 m2)および蛋白尿との関連を比較。いずれのアウトカムについても,VIMの受信者動作特性曲下面積(AROC)は参照線(0.5)に対して有意に高値,かつCVにも優っていた。腎機能低下と蛋白尿の有無を組み合わせた4カテゴリー間で早朝SBPの日間変動性を比較すると,腎機能低下+蛋白尿陽性の人ではSDおよびVIMがいずれも有意に高くなっていた(vs. 正常+陰性)。[心血管イベントとの関連(縦断解析: 平均7.94年追跡)]早朝SBPのSDが平均値(8.62 mmHg)超の人では,心血管イベント(死亡+心疾患発症+脳卒中発症)のハザード比が約1.5倍と有意に高く(vs. 平均値以下),eGFRと蛋白尿の有無で調整しても結果は同様であった。早朝SBPのVIMを用いた解析でも同様の傾向であったが,有意差はみられず。以上の結果から,心血管イベント発生リスクに対する影響は,血圧日間変動性より血圧値そのもののほうが大きいと考えられた。
寺脇博之氏 寺脇博之氏のコメント
今回は,VIMという血圧値とは独立した指標も含めて,血圧変動性とCKDや心血管イベントリスク発生との関連を検討しました。結果のなかでとくに重要なのは,(1)家庭血圧の日間変動性とCKDのあいだには,強くはないが有意な関連がみられ,この関連は血圧値そのものとは独立していたこと,(2)一方,心血管イベントとの関連を縦断的にみると,日間変動性よりも血圧値そのものの影響のほうが大きいと考えられたことです。したがって,臨床では血圧値自体をもっとも重視すべきであるということに今後も変わりはありませんが,そのうえで家庭血圧の変動性にも目を向けることによって,さらなる予後改善が可能になるかもしれません。血圧変動性にはほかにも日内変動やvisit-to-visitなどがありますが,これらが反映するものはそれぞれ本質的に異なっているように思います。今回中心的に検討した早朝SBPは,家庭で起床直後に測定され,就寝中も含めた1日全体の血圧値を強く反映することが知られていますが,こうした「その人の定常状態」ともいえる値が毎日大きく変動してしまう,すなわち日間変動性が大きいということが,CKDのように体内のホメオスタシスが十分に制御されていない状態の指標になるという今回の結果は,とくに腎臓内科医の立場から直感的に納得しやすいものであったといえます。


[吹田研究] BMI,腹囲,ウエスト/身長比の高血圧発症リスク予測能は同等

発表者: 国立循環器病研究センター・中井 陸運 氏 (10月17日,一般口演)
  目的: 都市部一般住民を対象に,4つの肥満指標(BMI,ウエスト周囲長,ウエスト/ヒップ比,ウエスト/身長比)と高血圧発症リスクとの関連を検討。
  コホート・手法: 吹田研究。1989~94年にベースライン健診を受診した30~84歳の非高血圧者3564人を平均7.2年間追跡(吹田研究へ)。
  結果: 4つの肥満指標のいずれについても,1 SDの増加は,男女とも高血圧発症のハザード比と有意に関連していた。一様性検定(対応あり)により,BMIを対照として各肥満指標の高血圧発症リスク予測能を比較すると,ウエスト周囲長およびウエスト/身長比の予測能はそれぞれBMIと同等であったが,ウエスト/ヒップ比の予測能は有意に低かった。
中井陸運氏 中井陸運氏のコメント
今回検討した4つの肥満指標は,いずれも高血圧発症リスクの有意な予測因子であることが示されました。高血圧発症リスク予測能の比較では,BMI,ウエスト周囲長,ウエスト/身長比の3つは統計学的に同等であったものの,ウエスト/ヒップ比だけ少し劣っていたという結果です。これは海外における先行研究(Obesity. 2008; 16: 1622-35.pubmed)とも一致する結果でした。BMIだけでなく,腹囲やウエスト/身長比を用いても同じように高血圧発症リスク予測が可能であるという今回の結果から,臨床現場では,利便性などに応じてこれらの指標を使い分けることが可能と考えられます。


[亘理町研究] 仮設住宅居住者は,自宅居住者よりBMIが高く,自覚的なストレス,運動量減少,飲酒量や喫煙量の増加が顕著

発表者: 東北労災病院・金野 敏 氏 (10月18日,一般口演)
  目的: 東日本大震災の被災地において,2013年度の健康状態を仮設住宅居住者と自宅居住者で比較するとともに,2011年以降の健診データを用いてその関連要因を検討。
  コホート・手法: 亘理町研究。宮城県亘理町の一般住民のうち,(1)2013年度に特定健診を受診し,生活習慣と居住形態に関するアンケート調査に回答した2921人(仮設住宅居住者263人,自宅居住者2385人),ならびに(2)(1)のうち2011~13年度の3年連続で特定健診を受診した1182人(仮設住宅居住者104人,自宅居住者1016人)。なお2011年度の健診は3月11日の震災後に実施された。
  結果: [2013年時の健康状態]仮設住宅居住者で,自宅居住者にくらべ有意に高い値を示していたのはBMI,自覚的なストレス量「多い」の割合,「震災前より運動量が減少した」の割合,「震災前より飲酒量が増加した」の割合,および「震災前より喫煙量が増加した」の割合で,有意に低い値を示していたのはHDL-C。[健康状態に関連する要因]2011~13年度にかけての健診データの変化をみると,仮設住宅居住者ではBMIの増加度が自宅居住者より有意に大きかった。血圧や脂質,血糖などの値には有意な差はみられなかったが,この背景として,2010年度(震災前)の特定健診のデータも有する対象者における2010~2013年度にかけての降圧薬・脂質異常症治療薬の服用率の変化をみると,いずれも自宅居住者に比して仮設住宅居住者で増加度が大きかったことが影響している可能性がある。
金野敏氏 金野敏氏のコメント
今回の研究では,仮説住宅の長期居住に伴う運動不足や飲酒量の増加などの生活習慣の悪化が,体重増加の要因となっている可能性が示唆されました。一方で,自宅居住者に比して血圧や血糖,脂質などの数値的な増悪は認められず,関係する行政職員や医療関係者の方々の努力によって仮設住宅居住者の健康に対する適切な配慮がなされている様子が推測されました。仮設住宅居住に伴う生活習慣増悪の背景として,個人の住居そのものだけではなく,地域社会における生活や仕事の場がすべて震災によって失われてしまったことが影響している可能性があることから,仕事や地域社会の交流の再建も含めた復興計画のさらなる推進が必要と考えられます。




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