[2007年文献] 7年間の糖尿病発症予測モデル,およびリスク計算式を作成(The Framingham Offspring Study)

Wilson PW, et al: Prediction of Incident Diabetes Mellitus in Middle-aged Adults: The Framingham Offspring Study. Arch Intern Med. 2007; 167: 1068-74.pubmed

目的
研究が進んでいる循環器分野にならい,糖尿病についても発症予測モデルの研究が進められている。そこで本報では,7年間の追跡結果から2型糖尿病発症状況を調べ,その結果をもとに2型糖尿病の発症予測モデル,およびリスク計算式を作成した。
コホート
Framingham Offspring Study(Framingham Heart Studyオリジナルコホートの子供およびその配偶者5124人を1971年から追跡)。
第5回の検査(4年ごとに実施)を受けた人のうち,すでに2型糖尿病既往があった人(3.2 %),および75 g経口ブドウ糖負荷試験により2型糖尿病と診断された人(4.7 %)を除外した3140人について,第7回目の検査まで平均7年間追跡した。

◆ベースライン時の参加者背景: 女性の割合: 53.9 %,非ヒスパニック系の白人の割合: 99 %,平均年齢: 54.0歳,両親またはそのいずれかの親の糖尿病既往: 17.0 %,BMI: 27.1 kg/m2,高血圧(130 / 85 mmHg以上または治療中): 44.2 %,HDL-C低値(男性 40 mg/dL未満,女性50 mg/dL未満): 36.9 %,トリグリセリド150 mg/dL以上: 31.8 %,腹囲高値(男性>102 cm・女性>88 cm): 33.6 %,空腹時血糖100~126 mg/dL: 27.0 %,食後2時間血糖140~200 mg/dL: 11.6 %。

本報では,ROC(receiver operating characteristic,受信者動作特性)解析を用い,各モデルについてAROC(area under the receiver operating characteristic curve,ROC曲線下面積)を指標として評価を行った。AROCが1に近いほど,そのモデルの予測精度が高いことになる。
結 果
2型糖尿病の新規発症は160人。
この発症率からさまざまな因子の糖尿病発症オッズ比を算出し,以下の9つのモデルを作成した。

◇ 簡易モデル(モデル1)
年齢,性別,親の糖尿病既往およびBMIという,多くの人が日常生活の中で自覚・認識している要素を変数として含めたモデル。
モデル1のAROCは0.724だった。
各変数の糖尿病発症オッズ比で,有意なリスク増加がみられたものは以下のとおり。
   ・ 年齢: 50~64歳,65歳以上 (vs. 50歳未満)
   ・ 両親またはいずれかの親の糖尿病既往 (vs. 両親に既往なし)
   ・ BMI 25.0~29.9 kg/m2,30.0 kg/m2以上 (vs. 25.0 kg/m2未満)

◇ シンプルな臨床モデル(モデル2,モデル3,モデル4,モデル5)
モデル1に加え,血圧や血糖,血中脂質など,一般的な臨床検査で得られる因子を変数として含めたモデル。肥満の指標として,モデル2ではBMI(25.0~29.9 kg/m2,30.0 kg/m2以上),モデル3では腹囲(男性102 cm超,女性88 cm超),モデル4ではBMIと腹囲の両方を用いた。
BMIを肥満の指標としたモデル2ではBMI高値が,腹囲を肥満の指標としたモデル3では腹囲高値がそれぞれ糖尿病の有意な予測因子だったものの,両方を含めたモデル4ではどちらも有意な予測因子ではなかった。
AROCはモデル2で0.852,モデル3で0.850,モデル4で0.852と,どのモデルでも高い予測精度を示した。この結果は,肥満の指標としてBMIと腹囲のいずれを用いても,糖尿病の発症を予測する上で大きな違いがないことを示唆している。

各変数の糖尿病発症オッズ比で,モデル3,4,5のいずれにおいても有意差のあったものは以下のとおり。
   ・ 両親またはいずれかの親の糖尿病既往(vs. 両親に既往なし)
   ・ 高血圧(vs. 正常血圧)
   ・ HDL-C低値(vs. 高値)
   ・ トリグリセリド高値(vs. 低値)
   ・ 空腹時血糖 100~126 mg/dL(vs. 100 mg/dL未満)

また,これらの因子を連続変数として扱ったモデル5では,AROCが0.881と,さらに高い予測精度を示した。

◇ 複雑な臨床モデル(モデル6,7,8,9)
シンプルな臨床モデルに,さらに詳しい臨床検査で得られるインスリン抵抗性関連因子を変数として含めたモデル。
モデル6には耐糖能異常,空腹時高血糖,およびCRP高値,モデル7にはGuttのインスリン感受性指標,モデル8にはHOMA(homeostasis model assessment)-インスリン抵抗性指標およびHOMA-β細胞機能をそれぞれ加えた。
これらのインスリン抵抗性関連因子は,いずれも糖尿病の発症と有意に関連していた。
しかし,モデル6のAROCは0.854,モデル7は0.850,モデル8は0.851と,これらのインスリン抵抗性関連因子を加えても予測精度の大幅な上昇はみられなかった。

さらに,これまで用いたすべての変数,およびホルモン療法の有無,喫煙,飲酒,アスピリンまたは非ステロイド性抗炎症薬服用の有無,ヘモグロビンA1cを含めて「生物学的最良モデル」(モデル9)を作成したところ,AROCは0.869で,糖尿病と有意な関連を示した因子は以下のとおりだった。
   ・ 年齢: 50~65歳,65歳以上(vs. 50歳未満)
   ・ HDL-C低値(vs. 高値)
   ・ 空腹時血糖 100~126 mg/dL(vs. 100 mg/dL未満)
   ・ HOMA-インスリン抵抗性指標
   ・ Guttのインスリン感受性指標

この「生物学的最良モデル」について,ジャックナイフ法により評価を行った。参加者の90 %を無作為抽出し,抽出したサンプルで7年間の糖尿病発症リスクを正しく予測できるかどうかを検討するプロセスを10回繰り返した結果,AROCは0.73から0.91の範囲の値を示し,このモデルの診断精度が高いことを裏付けた。

◇ リスク計算式
また,シンプルな臨床モデルをもとに,空腹時高血糖を10点,BMI 30 kg/m2以上を5点などとし,合計点数ごとに8年後の糖尿病発症リスクを%で算出するリスク計算式を作成した。その結果,糖尿病発症リスクが3 %未満である人が参加者全体の63.8 %,発症リスク3 %以上10 %未満の人が全体の20.7 %,発症リスクが10 %以上の人が全体の15.6 %となった。このリスク計算式のAROCは0.850。

◇ 結論
以上のように,中年白人において2型糖尿病発症のリスクをより正確に評価するためには,年齢や性別,肥満の有無に加えて,一般的な代謝関連の検査値を含める必要がある。ただし,HOMA-IRなど,より詳細なインスリン抵抗性関連因子の情報は発症リスクの予測に必須とはいえない。


監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康

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