[2007年文献] 空腹時ではなく,非空腹時のトリグリセリドが心血管イベントの独立した危険因子である(Women’s Health Study)

Bansal S, et al: Fasting compared with nonfasting triglycerides and risk of cardiovascular events in women. JAMA. 2007; 298: 309-16.pubmed

目的
LDL-CやHDL-Cにくらべ,トリグリセリドの重要性についてはさまざまな議論がある。その1つに,トリグリセリドを測定するタイミングがある。心血管疾患を予測するうえで,食後と空腹時のどちらのトリグリセリド値を重要視すればよいのかは,いまだ明らかではない。そこで,食後および空腹時のトリグリセリド値と心血管イベントとの関連について検討を行った。
コホート
Women’s Health Study(45歳以上の女性を対象に,アスピリンおよびビタミンEの心血管疾患と癌の一次予防効果を検討した無作為化比較試験)の参加者39876人のうち,ベースライン時の血液検査データがない人を除いた27939人を平均11.4年間追跡。
ベースライン時の血液検査によるトリグリセリド値を解析に用いた。
最後の食事から血液検査までの時間により,全体を2群に分けた。食後8時間以上経過していた20118人を「空腹群」,食後8時間未満であった6391人を「非空腹群」とした。血液検査時に最後の食事からの経過時間が不明だった1430人は除外した。
結 果
トリグリセリドの中央値は,空腹群で115 mg/dL,非空腹群で133 mg/dL。
空腹群,非空腹群のいずれにおいても,トリグリセリドが高い人は,これ以外の心血管疾患危険因子をもつ割合が有意に高かった。
非空腹群では,空腹群に比べて若い人が多く,高血圧の割合やLDL-Cの値が低かったが,飲酒,身体活動,総コレステロール,HDL-C,BMI,高感度CRP,糖化ヘモグロビンなどでは両群間の差はみられなかった。

心血管イベント(非致死性心筋梗塞+脳梗塞+冠動脈血行再建+心血管疾患死亡)の発生は1001人(発生率: 3.46 / 1000人・年)。
内訳は,非致死性心筋梗塞276件,脳梗塞265件,冠動脈血行再建628件,心血管疾患死亡163件。

年齢,血圧,喫煙,およびホルモン補充療法による調整を行った解析モデル1では,空腹群,非空腹群のいずれにおいても,トリグリセリドは心血管イベントと有意に関連していた。
一方,さらに総コレステロールとHDL-Cによる調整を行った解析モデル2,およびインスリン抵抗性に関連する因子(糖尿病,BMI,高感度CRP)による調整を行った解析モデル3では,非空腹群におけるトリグリセリドと心血管イベントとの関連の有意性は変わらなかったが,空腹群においては有意な関連が失われた。
解析モデル3における両群のトリグリセリド値の三分位ごとの心血管イベントのハザード比(95 %信頼区間)は以下のとおり。
・ 空腹群 (P for trend=0.90)
     90 mg/dL以下: 1 
     91~147 mg/dL: 1.21 (0.96-1.52)
     148 mg/dL以上: 1.09 (0.85-1.41)
・ 非空腹群 (P for trend=0.006)
     104 mg/dL以下: 1
     105~170 mg/dL: 1.44 (0.90-2.29)
     171 mg/dL以上: 1.98 (1.21-3.25)
これらの結果は,トリグリセリド値の五分位ごとに検討した解析,およびトリグリセリド値を対数変換し連続変数として扱った解析のいずれにおいても同様であった。

食後の経過時間(2時間未満,2~4時間,4~8時間,8~12時間,12時間以上)ごとにトリグリセリドと心血管イベントの関連を比較した結果,食後2~4時間におけるトリグリセリド値がもっとも強い相関を示した。
各経過時間における,トリグリセリド値がもっとも高い三分位の心血管イベントのハザード比は以下のとおり(95 %信頼区間)。
     2時間未満: 0.59 (0.15-2.28)
     2~4時間: 4.48 (1.98-10.15,P<0.001)
     4~8時間: 1.50 (0.72-3.13)
     8~12時間: 1.31 (0.73-2.36)
     12時間以上: 1.04 (0.79-1.38)

ベースライン時のHDL-Cごとに同様の解析を行った結果,HDL-Cが正常(50 mg/dL以上)だった人においては,非空腹群のトリグリセリドのみが心血管イベントと有意に関連していた。
一方,HDL-C低値(50 mg/dL未満)を示した人においては,空腹群,非空腹群ともにトリグリセリドは心血管イベントと有意に関連していた。

◇ 結論
非空腹時トリグリセリドは心血管イベントの強い危険因子であったが,空腹時トリグリセリドは独立した危険因子ではなかった。また,トリグリセリドと心血管イベントとの関連は,食後2~4時間の場合にもっとも強かった。これらの結果は,これまでに明らかにされてきた,トリグリセリドの食後代謝の経時的変化に関する知見と一致するものである。これから実施される脂質低下薬の臨床試験においては,空腹時ではなく非空腹時のトリグリセリド値の採用が考慮されるべきであろう。


監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康

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