[2007年文献] 従来の危険因子に複数のSNPからなる遺伝的リスクスコアを加えると,冠動脈疾患発症予測能が高まる(ARIC)

Morrison AC, et al: Prediction of coronary heart disease risk using a genetic risk score: the Atherosclerosis Risk in Communities Study. Am J Epidemiol. 2007; 166: 28-35.pubmed

目的
複数の一塩基多型(single nucleotide polymorphism:SNP)を「遺伝的リスクスコア(genetic risk score:GRS)」として集約し,従来の冠動脈疾患(CHD)の危険因子に加えた場合のCHD発症予測能が危険因子単独によるものよりも優れているかどうかを検証する。

背景
フラミンガム研究で,主要な危険因子(年齢,血圧,喫煙,総コレステロール,HDL-C,糖尿病の状態)によるリスクスコアが開発された。これらの従来の危険因子については,ARIC研究においても同様のリスクスコアが作成されている。
今日のゲノム解析技術の進歩により,CHD感受性遺伝子のSNPが数多く同定されてきたが,単一の遺伝子変異によるCHDへの寄与度は小さく,CHDは多遺伝子性疾患であることが支持されている。
本報は,複数のSNPの組み合わせを一つのGRSに集約することによりCHDリスクを予測するという新たな試みである。
コホート
Atherosclerosis Risk in Communities Study(ARIC)研究* の参加者15,792人のうち,脳梗塞,一過性虚血発作,脳卒中の症状あるいはCHD既往,またはその既往が不明なもの;ARICの黒人コホート(Jackson在住)と白人以外の人種;DNA使用制限のあるもの;心血管危険因子のデータ欠損のあるものを除外した13,907人。
* 1986~89年に米国の15,792人(45~64歳)を登録して開始されたアテローム性動脈硬化症に関する前向きコホート研究。

2001年12月31日まで観察。追跡期間(中央値)は13年。

方法
従来の危険因子
年齢,収縮期血圧,降圧薬使用,総コレステロール,HDL-C,性別,糖尿病,喫煙。これらの危険因子でARIC Cardiovascular Risk Score(ACRS)を構成。

遺伝子型決定
遺伝子型を調査するSNPは,CHDに関する複数の大規模ゲノム研究から得られた,87遺伝子における92SNPs,CHD関連研究の文献レビューにより得られた21の事前候補遺伝子における24SNPsとした。これらの遺伝子型を,アレル特異的リアルタイムPCR法にて同定。

統計解析
(1) CHDリスクの上昇と関連したSNPの選択
 候補SNPとCHD発症の関連を,年齢と性別で調整したCOX比例ハザードモデルを用い,人種ごとに評価。関連のP値が0.10以下のSNPを選択。
(2) GRSの算出
 選択されたSNPについて,そのアレルをホモ接合体でもつ場合を1,ヘテロ接合体でもつ場合を0,もたない場合を-1とし(この値をコーディングバリューとする),各参加者ごとに,全SNPのコーディングバリュー合計値を算出。この合計値をGRSとした。
(3) GRSと従来の危険因子を結合,ハザード比の算出
 GRSを人種ごとに,従来の危険因子を含むCOX比例ハザードモデルに含めた。
(4) 予測能の比較(GRS+ACRS vs ACRS)
 ACRSとGRSを合わせたリスクスコア(ACRS+GRS)およびACRSについてROC曲線の曲線下面積(area under the curve:AUC)を算出し,両者を比較した。
結 果
CHDの発症は1452例。

解析対象のSNP116個(92+24)のうち,Hardy-Weinberg平衡が確認されたのは,白人110個,黒人112個。これらのSNPのうち,GRSに含む条件に合致したSNPは,白人で11個,黒人で11個。白人の11個のSNPのうち,2個のSNP(rs428785とrs402007)はADAMTS1遺伝子上に存在し,99.7%の確率で連鎖不平衡が実証された。このためGRSにはrs402007のみを導入し,最終的にGRSに導入したSNPは10個。なお,黒人と白人に共通してGRS導入に選ばれたSNPは,KIF6遺伝子のrs20455のみであった。

従来の危険因子を含むCOX比例ハザードモデルにGRSを加えた結果,白人におけるGRSのハザード比は1.10(95%信頼区間[CI]1.06~1.14),黒人では1.20(95%CI:1.11~1.29)。白人ではリスクとなるアレルを6つ,ホモでもつ場合のハザード率比は1.77,黒人でリスクとなるアレルを5つ,ホモでもつ場合のハザード率比は2.49。

ROC AUCについては,白人ではACRS+GRSモデルで0.766,ACRS単独モデル0.764(AUCの増加は0.002[95%CI:0.000~0.006])。黒人ではそれぞれ0.769,0.758(増加は0.011[95%CI:0.002~0.024])。したがって白人では,GRSを含めたことによるCHD予測能の増加は,有意ではないがそれに近い傾向をもつことが示された。一方,黒人では,GRSを含めたことによるCHD予測能の増加は,統計的に有意であることが示された。

結論
今回検討したSNPのセットは決定的なものではないものの,長期観察研究において複数のSNPの組み合わせによるGRSとACRSとを合わせてCHD発症を予測することの有用性が認められた。


監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康

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