[2007年文献] 脳卒中登録研究: 黒人ではラクナ梗塞,白人では主幹動脈梗塞,心原性脳塞栓が多い(The South London Ethnicity and Stroke Study)

この研究は,脳卒中発症者の人種による違いを検討した断面調査である。黒人と白人では脳卒中の各病型の分布に顕著な違いがあり,黒人ではラクナ梗塞が多く,白人では主幹動脈梗塞および心原性脳塞栓が多いことが明らかになった。ただし,この違いは,今回検討した危険因子プロファイルの違いおよび社会階層の違いによって明確に説明できるものではなかった。黒人と白人の遺伝的感受性の違い,および未知の環境因子の影響などについての検討が必要である。

Markus HS, et al: Differences in stroke subtypes between black and white patients with stroke: the South London Ethnicity and Stroke Study. Circulation. 2007; 116: 2157-64.pubmed

目的
脳卒中は,白人に比べて黒人に多く発症し,米国および英国における黒人の脳卒中発症率は白人の2.2~2.4倍であると推定されている。黒人では脳卒中のなかでもラクナ梗塞や脳動脈硬化が多いという報告もあるが,各病型の割合を黒人と白人とで比較した大規模な研究は少ない。そこで,脳卒中を発症した黒人600人および白人600人において,TOAST分類を用いて診断した各病型の分布を比較した。
コホート
The South London Ethnicity and Stroke Study(SLESS)。
ロンドン南部の3施設(Guy’s and St Thomas’ Hospitals,King’s College Hospital,St George’s Hospital)が担当する区域において,1999~2005年に脳卒中を発症した黒人600人および白人600人。

全員に画像診断を実施(CT 65.4 %,MRI 8.3 %,CT+MRI 26.3 %)。
また,虚血性脳卒中を発症した人の97 %に頭蓋外血管の画像診断を実施し,頭蓋内の画像診断は黒人134人,白人81人について行った。
臨床上必要と判断された場合には心エコーも実施した(56.7 %)。

脳卒中病型の診断にはTOAST(Trial of Org 10172 in Acute Stroke Treatment)分類を用いた。
The Registrar General’s Social Scale(1990)により社会階層(Class I~VII)の判定を行い,社会経済的状況の指標とした。

各危険因子の定義は以下のとおり。
・ 高血圧: 収縮期血圧(SBP)≧140 mmHgまたは拡張期血圧(DBP)≧90 mmHgが脳卒中後8日以上持続,または脳卒中発症前の降圧薬治療。
・ 糖尿病: 1型または2型糖尿病既往,随時血糖≧200 mg/dLが2回以上または脳卒中後の空腹時血糖≧126 mg/dL。
・ 高脂血症: 総コレステロール≧200 mg/dLまたは脳卒中発症前の脂質低下薬治療。
・ BMI高値: 27 kg/m2超。
結 果
◇ 危険因子プロファイル
黒人で白人に比して有意に高いオッズ比(年齢,性別,高脂血症,BMI高値,社会階層により調整)を示したのは,高血圧,糖尿病,肉体労働で,有意に低いオッズ比を示したのは年齢,喫煙,心筋梗塞,末梢血管疾患,心房細動。
社会階層は,黒人と白人とで有意に異なっていた。

◇ 臨床的異常の保有率
黒人で白人より有意に多くみられたのはラクナ梗塞(画像診断による)。
白人で黒人より有意に多くみられたのは塞栓源となる心機能異常,および主幹動脈の狭窄。

◇ 病型分布の違い
黒人で白人に対して有意に高いオッズ比を示したのはラクナ梗塞(多変量調整オッズ比2.94,95 %信頼区間1.97-4.39,P<0.001)。
黒人で白人に対して有意に低いオッズ比を示したのは主幹動脈梗塞(0.49,0.29-0.82,P=0.007)および心原性脳塞栓(0.54,0.37-0.80,P=0.002)。

◇ 各病型ごとの危険因子プロファイル
・ 主幹動脈梗塞発症者: 黒人で白人より有意に低いオッズ比を示したのは喫煙(多変量調整オッズ比0.27,95 %信頼区間0.09-0.77,P=0.014)。
・ ラクナ梗塞発症者: 黒人で白人より有意に高いオッズ比を示したのは高血圧(5.62,2.12-14.89,P=0.001),糖尿病(4.37,1.82-10.52,P=0.001),肉体労働(3.96,1.79-8.73,P=0.001)で,有意に低いオッズ比を示したのは喫煙(0.18,0.07-0.47,P<0.001)。
・ 心原性脳塞栓発症者: 黒人で白人より有意に高いオッズ比を示したのは肉体労働(3.39,1.65-6.97,P=0.001),有意に低いオッズ比を示したのは年齢(0.96,0.94-0.99,P=0.008),喫煙(0.33,0.16-0.67,P=0.002)。

◇ アフリカ系黒人とカリブ系黒人の比較
アフリカ系黒人(182人)は,カリブ系黒人(418人)に比べて年齢および喫煙率が有意に低かった。
アフリカ系黒人でカリブ系黒人に比べて有意に高いオッズ比を示したのは脳内出血で,有意に低いオッズ比を示したのは心原性脳塞栓。

◇ 結論
この研究は,脳卒中発症者の人種による違いを検討した断面調査である。黒人と白人では脳卒中の各病型の分布に顕著な違いがあり,黒人ではラクナ梗塞が多く,白人では主幹動脈梗塞および心原性脳塞栓が多いことが明らかになった。ただし,この違いは,今回検討した危険因子プロファイルの違いおよび社会階層の違いによって明確に説明できるものではなかった。黒人と白人の遺伝的感受性の違い,および未知の環境因子の影響などについての検討が必要である。


監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康

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