[2007年文献] 「心拍数 “ノンディッパー”」は死亡の危険因子(イスラエルのABPMコホート3957人)

Ben-Dov IZ, et al: Blunted heart rate dip during sleep and all-cause mortality. Arch Intern Med. 2007; 167: 2116-21.pubmed

目的
近年,心拍数と死亡との関連についてのエビデンスが蓄積されてきており,心拍数上昇は血圧と独立した予後予測能をもつとの報告もある。心拍数のモニターには,24時間自由行動下血圧測定(ABPM)を用いることができるが,24時間血圧にくらべ,24時間心拍数に関する報告はまだ少ない。そこで,ABPMを実施したコホートの追跡を行い,24時間心拍数(とくに就寝時の心拍数低下の有無)と全死亡との関連を検討した。
コホート
イスラエルの病院で1991~2005年にABPMを実施した人のうち,16歳未満,妊娠中の女性,ABPMデータに不備のあった人を除いた3957人(男性1860人,女性2097人)を平均7.0年間追跡。
平均年齢は55歳,降圧薬服用は58 %。
年齢の中央値は56.5歳,BMIの中央値は26.6 kg/m2で,年齢,BMIについてはこれらを基準として全体を二分し,解析に用いた。

心拍数は,24時間ABPMにより記録した。
24時間血圧におけるノンディッパーの定義にならい,就寝時における心拍数低下率が10 %未満である場合に「心拍数ノンディッパー(低下不十分)」とした。
結 果
◇ 心拍数に関連する因子
起床時および就寝時の心拍数と有意な相関を示したのは,女性,BMI 26.6 kg/m2以上,治療中の糖尿病で,有意な逆相関を示したのは56.5歳以上の年齢,および治療中の高血圧。
心拍数ノンディッパーと有意な相関を示したのは,56.5歳以上の年齢,女性,治療中の高血圧,治療中の糖尿病,BMI 26.6 kg/m2以上,昼寝。

各因子をもつ人における心拍数ノンディッパーのオッズ比(多変量調整)は以下のとおり。
   年齢(+5歳): 1.13 (95 %信頼区間1.10-1.16)
   BMI(+1 kg/m2): 1.05 (1.03-1.06)
   女性 (vs. 男性): 1.39 (1.20-1.60)
   治療中の高血圧 (vs. 治療なし): 2.19 (1.87-2.57)
   治療中の糖尿病 (vs. 治療なし): 1.38 (1.09-1.76)
   昼寝 (vs. 昼寝をしない人): 1.30 (1.12-1.51)
心拍数ノンディッパーとの関連が強かったのは,男性では年齢,女性ではBMI。

◇ 心拍数低下度と全死亡リスク
死亡は303人で,死亡率は10.9 / 1000人・年。

ROC(receiver operating characteristic,受信者動作特性)解析により,ROC曲線下面積(多変量調整)を算出して比較した。
その結果,心拍数低下度の全死亡リスク予測能(0.572)は,収縮期血圧(0.542)よりもやや優れており,起床時心拍数(0.513)および就寝時心拍数(0.527)よりも有意に優れていた(それぞれP<0.05,P=0.05)。

次に,Cox比例ハザードモデルにより,起床時心拍数,就寝時心拍数および心拍数低下度についてそれぞれ全体を十分位に分け,全死亡リスクとの関連を検討した。
・ 起床時心拍数: 全死亡リスクとの関連はみられなかった(P=0.50)。
・ 就寝時心拍数: 全死亡リスクとの有意な相関がみとめられた(P=0.02)。
・ 心拍数低下度: 全死亡リスクとの強い負の相関がみとめられた(P<0.001)。
心拍数低下度がもっとも小さい十分位(夜間に3±7拍/分増加)における全死亡のハザード比は, もっとも大きい十分位(夜間に27±4拍/分減少)に対して2.67(95 %信頼区間1.31-5.47)だった。このモデルに夜間の血圧低下度を含めても,有意な関連は変わらなかった(ハザード比2.45,1.19-5.03)。

連続変数として検討を行ったモデルでも,心拍数低下度は全死亡リスクと有意な負の相関を示した(ハザード比1.25,1.13-1.39)。この結果は血圧により調整を行っても同様であった。
また,心拍数ノンディッパーは全死亡リスクとの有意な関連を示した(血圧調整後のハザード比1.42,1.11-1.80)。この結果は,β遮断薬服用者を除いた解析においても同様であった。

◇ 全死亡リスクに対する心拍数ノンディッパーと血圧ノンディッパーの共同効果(joint effect)
心拍数ノンディッパーと血圧ノンディッパーの両方をもつ人,片方だけもつ人,いずれももたない人についてCox生存曲線による解析を行った結果,各グループ間に有意な差がみとめられた(overall P=0.002)。
それぞれのグループにおける全死亡リスクは以下のとおり。
・ 心拍数低下度正常+血圧ノンディッパー (vs. いずれも正常): 全死亡のハザード比1.39 (95 %信頼区間0.98-1.98)。
・ 心拍数ノンディッパー+血圧低下度正常 (vs. いずれも正常): 1.46 (1.05-2.04)。
・ 心拍数ノンディッパー+血圧ノンディッパー (vs. いずれも正常): 1.90 (1.37-2.64)。


◇ 結論
ABPMを受けた人を平均7.0年間追跡し,夜間の心拍数低下度と全死亡リスクとの検討を行った。その結果,心拍数低下度,および夜間の心拍数,心拍数ノンディッパー(就寝時の心拍数低下度<10 %)は,いずれも全死亡リスクとの有意な関連を示した。ABPMにより血圧だけでなく心拍数のデータも検討することで,死亡リスクに関する付加的な情報が得られる。


監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康

▲このページの一番上へ

--- epi-c.jp 収載疫学 ---
Topics
【epi-c研究一覧】 CIRCS | EPOCH-JAPAN | Funagata Diabetes Study(舟形スタディ) | HIPOP-OHP | Hisayama Study(久山町研究)| Iwate KENCO Study(岩手県北地域コホート研究) | JACC | JALS | JMSコホート研究 | JPHC | NIPPON DATA | Ohasama Study(大迫研究) | Ohsaki Study(大崎研究) | Osaka Health Survey(大阪ヘルスサーベイ) | 大阪職域コホート研究 | SESSA | Shibata Study(新発田研究) | 滋賀国保コホート研究 | Suita Study(吹田研究) | Takahata Study(高畠研究) | Tanno Sobetsu Study(端野・壮瞥町研究) | Toyama Study(富山スタディ) | HAAS(ホノルルアジア老化研究) | Honolulu Heart Program(ホノルル心臓調査) | Japanese-Brazilian Diabetes Study(日系ブラジル人糖尿病研究) | NI-HON-SAN Study
【登録研究】 OACIS | OKIDS | 高島循環器疾患発症登録研究
【国際共同研究】 APCSC | ERA JUMP | INTERSALT | INTERMAP | INTERLIPID | REACH Registry | Seven Countries Study
【循環器臨床疫学のパイオニア】 Framingham Heart Study(フラミンガム心臓研究),動画編
【最新の疫学】 Worldwide文献ニュース | 学会報告
………………………………………………………………………………………
copyright Life Science Publishing Co., Ltd. All Rights Reserved.