[2008年文献] トロポニンI,NT-proBNP,シスタチンC,CRPを組み合わせると,心血管疾患死亡リスクの予測能が改善(ULSAM)

トロポニンI,NT-proBNP,シスタチンCおよびCRPは,それぞれ心筋細胞の損傷,心室機能障害,腎不全および炎症を反映することが知られている。これらの新しいバイオマーカーを組み合わせて用いた場合に心血管疾患(CVD)死亡リスクの予測能が改善するかどうかについて,高齢者男性コホートにおける10年間の追跡研究により検討した。その結果,これらのバイオマーカーを組み合わせて用いると,CVDリスクおよび死亡リスクの予測能が有意に改善することが示された。

Zethelius B, et al. Use of multiple biomarkers to improve the prediction of death from cardiovascular causes. N Engl J Med. 2008; 358: 2107-16.pubmed

目的
トロポニンI,NT-proBNP,シスタチンCおよびCRPは,それぞれ心筋細胞の損傷,心室機能障害,腎不全および炎症を反映することが知られている。これらの新しいバイオマーカーを組み合わせて用いた場合に心血管疾患死亡リスクの予測能が改善するかどうかについて,高齢者男性コホートにおける10年間の追跡研究により検討した。
コホート
ULSAM(Uppsala Longitudinal Study of Adult Men): スウェーデンのウプサラで行われている前向きコホート研究。心血管疾患(CVD)の危険因子の同定を目的として1970年に開始。1970年時に50歳だった男性(1920~1924年出生)を登録し,ベースライン時,60歳時,70歳時,77歳時,82歳時にそれぞれ健診を実施した。

第3回健診に参加した男性1,221人のうち,トロポニンI,N末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP),シスタチンC,高感度CRP(hsCRP)およびその他の検査結果に不備がなかった1,135人を平均10年間追跡。
またサブグループとして,ベースライン時にあきらかなCVD既往がなかった661人についても検討した。

トロポニンIは心筋細胞の損傷のマーカー(高値ほど高度損傷),NT-proBNPは心室機能のマーカー(高値ほど高度障害),シスタチンCは腎機能のマーカー(高値ほど高度障害)とされている。

◆ ベースライン時の対象背景
年齢: 71歳,BMI: 26.3 kg/m2,総コレステロール: 224 mg/dL,HDL-C: 49 mg/dL,血圧: 147 / 84 mmHg,血中トロポニンI: 0.021 microgram/L,血中NT-proBNP: 232 ng/L,血中シスタチンC: 1.24 mg/L,CRP:3.37 mg/L,喫煙率: 20.7 %,糖尿病:10.7 %,高血圧: 74.8 %,降圧薬治療: 33.3 %,脂質異常症: 87.6 %,心血管疾患既往: 41.8 %
結 果
10年間の追跡期間中に死亡したのは315人で,うち心血管疾患(CVD)死亡は136人だった。
CVD既往なしの人のうち,追跡期間中に死亡したのは149人で,うち心CVD死亡は54人だった。

◇ 各バイオマーカーと死亡リスクとの関連
新しい4つのバイオマーカー(トロポニンI,NT-proBNP,シスタチンC,CRP)についてCox回帰分析を行うと,いずれも1 SD分の上昇はCVD死亡のハザード比,および全死亡のハザード比の有意な上昇と関連した(いずれもP<0.001)。
この結果は,CVD既往のないサブグループにおける解析でも同様だった。

・ 複数のバイオマーカーの組み合わせ
新しい4つのバイオマーカーのうち,既存の文献を参考としたカットオフ値を超えているもの(トロポニンI>0.021μg/L,NT-proBNP≧386 ng/L,シスタチンC>1.29 mg/L,CRP>3.0 mg/L)を2つもつ場合のCVD死亡リスクを算出した。
その結果,いずれの組み合わせでも,CVD死亡のハザード比は3倍以上と有意に上昇した(ハザード比: 3.32~7.07 vs. 1つももたない場合,いずれもP<0.001)。もっとも高いリスクと関連していたのは,トロポニンIとNT-proBNPの組み合わせ(ハザード比7.07,95 %信頼区間4.39-11.38,P<0.001)。

同様に,新しい4つのバイオマーカーのうち,カットオフ値を超えているものを3つもつ場合のCVD死亡リスクを算出した。
その結果,いずれの組み合わせでも,CVD死亡のハザード比は7.5倍以上と有意に上昇した(ハザード比: 7.57~11.87 vs. 1つももたない場合,いずれもP<0.001)。もっとも高いリスクと関連していたのは,トロポニンI+NT-proBNP+シスタチンCの組み合わせ(ハザード比11.87,95 %信頼区間6.44-21.86,P<0.001)。

新しい4つのバイオマーカーのすべてがカットオフ値を超えている場合のCVD死亡のハザード比は16.57(vs. 1つももたない場合,95 %信頼区間7.70-35.68,P<0.001)。


◇ 各バイオマーカーを含めた多変数モデルの死亡リスク予測能
確立された危険因子(年齢,収縮期血圧,降圧薬服用の有無,総コレステロール,HDL-C,脂質低下薬治療の有無,糖尿病の有無,喫煙の有無,BMI)のみの予測モデルを対照モデルとし,新しいバイオマーカーを加えた場合に死亡リスクの予測能が改善するかどうかについて,C統計量 を用いて評価した。
C統計量(C statistics)とは,受信者動作特性曲線(receiver operating characteristic curve)下面積。1に近いほど予測能が高いことを示す。0.5であれば偶然と同じレベル。

CVD死亡,全死亡のいずれについても,新しい4つのバイオマーカーすべてを加えたモデルで,対照モデルにくらべて有意なC統計量の増加がみとめられた(CVD死亡,全死亡ともにP<0.001)。
CVD既往のないサブグループでも,C統計量の増加を検討すると,CVD死亡については同様の結果が得られた(P=0.03)が,全死亡については有意な増加はみとめられなかった(P=0.09)。
なお,尤度比検定による評価を行っても,新しい4つのバイオマーカーすべてを加えたモデルは,対照モデルにくらべて有意に優れた適合性(global fit)を示した(P<0.001)。

また,CVD死亡に関する対照モデルに,トロポニンIおよびNT-proBNPをそれぞれ単独で加えた場合にも,有意なC統計量の増加がみとめられた(それぞれP=0.002,P<0.001)。これは全死亡についても同様だった(それぞれP=0.009,P<0.001)。
シスタチンC,CRPをそれぞれ単独に加えた場合も,やや弱いながらも同様の傾向がみとめられた(CVD死亡: それぞれP=0.07,P=0.07,全死亡: それぞれP=0.03,P=0.008)。

CVD既往のないサブグループにおける検討では,CVD死亡,全死亡のいずれについても,対照モデルにトロポニンI,NT-proBNP,シスタチンC,CRPをそれぞれ単独で加えた場合に有意なC統計量の増加はみられなかった。


◇ 結論
トロポニンI,NT-proBNP,シスタチンCおよびCRPは,それぞれ心筋細胞の損傷,心室機能障害,腎不全および炎症を反映することが知られている。これらの新しいバイオマーカーを組み合わせて用いた場合に心血管疾患(CVD)死亡リスクの予測能が改善するかどうかについて,高齢者男性コホートにおける10年間の追跡研究により検討した。その結果,これらのバイオマーカーを組み合わせて用いると,CVDリスクおよび死亡リスクの予測能が有意に改善することが示された。


監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康

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