[2008年文献] 冠動脈カルシウムは,人種にかかわらず冠動脈イベントの強力な危険因子(MESA)

冠動脈カルシウムと冠動脈疾患発症リスクとの関連について,アメリカの主要な人種・民族グループ(白人,黒人,中国系,ヒスパニック系)における検討を行った。その結果,CTスキャンにより評価した冠動脈カルシウムスコアは,人種・民族グループにかかわらず,冠動脈イベントの強力な危険因子であることが示された。

Detrano R, et al. Coronary calcium as a predictor of coronary events in four racial or ethnic groups. N Engl J Med. 2008; 358: 1336-45.pubmed

目的
冠動脈カルシウムが無症候性冠動脈疾患や冠動脈イベントの危険因子となることが白人を対象とした研究により示されているが,冠動脈カルシウムの発生率やその進展度は人種によって異なるとの報告がある。そこで,冠動脈カルシウムと冠動脈疾患発症リスクとの関連について,アメリカの主要な人種・民族グループ(白人,黒人,中国系,ヒスパニック系)における検討を行った。
コホート
MESA(The Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis): 45~84歳で心血管疾患既往のない6814人(非ヒスパニック系白人,黒人,ヒスパニック系または中国系)を2000年7月~2002年9月に登録し,米国の6施設で追跡(ノースカロライナ州ウインストン・セーラム,ニューヨーク州ニューヨーク,メリーランド州ボルティモア,ミネソタ州ミネアポリス,イリノイ州シカゴ,カリフォルニア州ロサンゼルス)。
このうち,追跡不能となった35人,登録後に心血管疾患既往が明らかになった5人,危険因子のデータに不備があった52人を除いた6722人を3.9年間追跡(中央値)。

CTスキャンの結果から「冠動脈カルシウムスコア(Agatston score)」を算出し,全体を「0」,「1~100」,「101~300」,「300超」の4つのグループに分けて解析を行った。
スコアが1以上の場合はすべて「冠動脈石灰化」とした。
結 果
◇ 対象背景
おもな対象背景は以下のとおり。
平均年齢62.2歳,男性の割合47.2 %,各人種・民族グループの割合は白人38.6 %・黒人27.6 %・ヒスパニック系21.9 %・中国系11.9 %,収縮期血圧126.6 mmHg,総コレステロール194.2 mg/dL,HDL-C 51.0 mg/dL,脂質低下薬服用16.3 %,喫煙経験あり49.7 %,糖尿病11.7 %,高血圧44.9 %,CRP 3.76 mg/dL,トリグリセリド131.7mg/dL,BMI 28.3 kg/m2,腹囲98.1 cm。

ベースライン時の冠動脈石灰化(冠動脈カルシウムスコア≧1)の割合には,人種・民族グループ間で有意差がみられた(P<0.001)。
   白人: 男性70.4 %,女性44.7 %
   黒人: 52.0 %,37.0 %
   ヒスパニック系: 56.6 %,34.8 %
   中国系: 59.2 %,41.9 %

◇ 冠動脈カルシウムと冠動脈イベントの関連
冠動脈イベントを発症したのは162人。
うち,主要冠動脈イベントは89人(冠動脈イベントによる死亡が17人,非致死的心筋梗塞が72人),狭心症は73人(血行再建をともなう確定狭心症が56人,血行再建をともなわない確定狭心症が13人,血行再建をともなう狭心症疑いが4人)。
人種・民族グループごとにみると,主要冠動脈イベントを発症したのは白人41人,中国系6人,黒人18人,ヒスパニック系24人で,全冠動脈イベントでは白人74人,中国系14人,黒人38人,ヒスパニック系36人。

冠動脈イベント発症リスクは,冠動脈カルシウムスコアが高いカテゴリーにおいて有意に上昇していた。
・ 冠動脈カルシウムスコアごとの主要冠動脈イベントのハザード比(95 %信頼区間)
  0: 1.00(対照),1~100: 3.89(1.72-8.79,P<0.001),101~300: 7.08(3.05-16.47,P<0.001),300超: 6.84(2.93-15.99,P<0.001)
・ 冠動脈カルシウムスコアごとの全冠動脈イベントのハザード比(95 %信頼区間)
  0: 1.00(対照),1~100: 3.61(1.96-6.65,P<0.001),101~300: 7.73(4.13-14.47,P<0.001),300超: 9.67(5.20-17.98,P<0.001)

◇ 人種・民族グループごとにみた冠動脈カルシウムと冠動脈イベントの関連
冠動脈カルシウムスコアが倍化した場合の冠動脈イベントリスクは以下のとおりで,中国系における主要冠動脈イベントを除き,いずれも有意なリスク上昇がみとめられた。
冠動脈カルシウムスコア上昇にともなうイベントリスクの上昇に,人種・民族グループによる有意な相互作用はみとめられなかった。

・ 冠動脈カルシウムスコア倍化時の主要冠動脈イベントのハザード比(95 %信頼区間)
   白人: 1.17 (95 %信頼区間1.06-1.30,P<0.005)
   中国系: 1.25 (0.95-1.63,P=0.11)
   黒人: 1.35 (1.16-1.57,P<0.001)
   ヒスパニック系: 1.15 (1.02-1.29,P<0.025)

・ 冠動脈カルシウムスコア倍化時の全冠動脈イベントのハザード比(95 %信頼区間)
   白人: 1.22 (1.13-1.32,P<0.001)
   中国系: 1.36 (1.12-1.66,P<0.005)
   黒人: 1.39 (1.25-1.56,P<0.001)
   ヒスパニック系: 1.18 (1.07-1.30,P<0.001)

◇ 冠動脈カルシウムスコアの冠動脈イベント予測能
標準的な危険因子のみを含めたモデル,およびそこに冠動脈カルシウムスコアを加えたモデルの両方について,AROC(area under the receiver operating characteristic curve,受信者動作特性曲線下面積)を比較した結果,主要冠動脈イベント,全冠動脈イベントのいずれについても,有意な予測能の上昇がみとめられた(それぞれP=0.006,P<0.001)。
この上昇は各人種・民族グループにおいても同様だったが,白人およびヒスパニック系の主要冠動脈イベント,およびヒスパニック系の全冠動脈イベントについては有意な予測能上昇はみとめられなかった。


◇ 結論
冠動脈カルシウムと冠動脈疾患発症リスクとの関連について,アメリカの主要な人種・民族グループ(白人,黒人,中国系,ヒスパニック系)における検討を行った。その結果,CTスキャンにより評価した冠動脈カルシウムスコアは,人種・民族グループにかかわらず,冠動脈イベントの強力な危険因子であることが示された。


監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康

▲このページの一番上へ

--- epi-c.jp 収載疫学 ---
Topics
【epi-c研究一覧】 CIRCS | EPOCH-JAPAN | Funagata Diabetes Study(舟形スタディ) | HIPOP-OHP | Hisayama Study(久山町研究)| Iwate KENCO Study(岩手県北地域コホート研究) | JACC | JALS | JMSコホート研究 | JPHC | NIPPON DATA | Ohasama Study(大迫研究) | Ohsaki Study(大崎研究) | Osaka Health Survey(大阪ヘルスサーベイ) | 大阪職域コホート研究 | SESSA | Shibata Study(新発田研究) | 滋賀国保コホート研究 | Suita Study(吹田研究) | Takahata Study(高畠研究) | Tanno Sobetsu Study(端野・壮瞥町研究) | Toyama Study(富山スタディ) | Honolulu Heart Program(ホノルル心臓調査) | Japanese-Brazilian Diabetes Study(日系ブラジル人糖尿病研究) | NI-HON-SAN Study
【登録研究】 OACIS | OKIDS | 高島循環器疾患発症登録研究
【国際共同研究】 APCSC | ERA JUMP | INTERSALT | INTERMAP | INTERLIPID | REACH Registry | Seven Countries Study
【循環器臨床疫学のパイオニア】 Framingham Heart Study(フラミンガム心臓研究),動画編
【最新の疫学】 Worldwide文献ニュース | 学会報告
………………………………………………………………………………………
copyright Life Science Publishing Co., Ltd. All Rights Reserved.