[2008年文献] インターネットを用いた患者啓発+薬剤師とのコミュニケーション+家庭血圧測定により,血圧管理状況が改善(e-BP Study)

インターネットを用いた患者啓発や薬剤師とのコミュニケーションにより,高血圧のコントロール状況が改善するかどうかについて,コントロール不良の本態性高血圧患者を対象としたランダム化比較試験により検討した。その結果,家庭血圧測定+オンライン患者啓発+薬剤師とのオンラインコミュニケーションの実施により,12か月後の血圧コントロール状況が有意に改善することが示された。インターネットを用いたコミュニケーションの慢性疾患ケアへの有効性が示されたはじめての大規模ランダム化比較試験であり,コスト削減の観点から,この手法が他の慢性疾患にも適用できるかどうかの検討がまたれる。

Green BB, et al. Effectiveness of home blood pressure monitoring, Web communication, and pharmacist care on hypertension control: a randomized controlled trial. JAMA. 2008; 299: 2857-67.pubmed

目的
高血圧患者の多くは血圧コントロールが不良である。そこで,時間や距離の制約を受けないインターネットを用いた患者啓発や薬剤師とのコミュニケーションにより,高血圧のコントロール状況が改善するかどうかについて,ランダム化比較試験による検討を行った。

一次エンドポイントは,12か月間の収縮期血圧(SBP)および拡張期血圧(DBP)の変化,および血圧コントロール良好(140 / 90 mmHg未満)の割合。
二次エンドポイントは,ベースライン時から12か月後にかけての次の項目の変化: 治療に用いる降圧薬の種類(クラス),アスピリン使用状況,BMI,身体活動,健康関連のQOL,健康プランに対する満足度,オンラインサービスの使用。
コホート
The Electronic Communications and Home Blood Pressure Monitoring (e-BP) Study。
米ワシントン州シアトルの医療保険団体Group Health Cooperative (会員数約54万人)の加入者から,以下の基準を満たす血圧コントロール不良の本態性高血圧患者778人を対象とした。
対象患者基準: 25~75歳,降圧薬治療中,ベースライン時のSBP 140~199 mmHgまたはDBP 90~109 mmHg,糖尿病・心血管疾患・腎疾患・その他の重篤な病態を有していない,コンピュータを操作可能でインターネットおよび電子メールを使用できる,服用中の降圧薬の情報に不備がない。

◇ 割付け
対象者は以下の3群に無作為割付けされた。
 ・ 通常ケア群(258人): 口頭で血圧コントロール状況の改善を指示。
 ・ オンラインケア群(259人): 家庭血圧測定*1+患者用ウェブサイトによる啓発*2を実施。
 ・ オンライン+薬剤師ケア群(261人): 家庭血圧測定*1+患者用ウェブサイトによる啓発*2+薬剤師によるオンラインコミュニケーション*3を実施。

*1: 血圧計を配布し,週2日以上(各時点で2回)の測定を行うよう指示。目標値は家庭血圧135 / 85 mmHg以下,随時血圧140 / 90 mmHg未満とした。
*2: 患者用ウェブサイトの使いかたを詳しく説明し,血圧コントロールのために各種機能を活用するよう推奨した。患者用ウェブサイトでは,薬の継続処方や診察の申し込み,電子カルテの一部閲覧,ヘルスケアスタッフへの電子メール,生活習慣改善に関する情報へのリンクなどが利用できる。
*3: 目標血圧(家庭血圧135 / 85 mmHg以下,随時血圧140 / 90 mmHg未満)に達するまで,2週間に1回の頻度でインターネットを介した薬剤師とのコミュニケーションを実施。薬剤師は毎回,血圧測定結果,服薬に対する不安や疑問,生活習慣改善への取り組みなどについてたずね,患者との相互のやりとりを通して血圧コントロール改善に向けた指導を行った。

◇ ベースライン対象背景
平均年齢59.1歳,女性52.2 %,白人82.8 %,黒人7.8 %,アジア系3.7 %,その他5.7 %。
血圧は151.9 / 89.1 mmHg,喫煙率は6.8 %,過体重(BMI 25~29.9 kg/m2)は31.6 %,肥満(BMI≧30 kg/m2)は61.1 %。
結 果
◇ 対象背景
対象背景は,女性の割合(P=0.05),および家庭血圧測定の実施割合(P=0.08)を除き,3群で同等だった。

◇ 一次エンドポイント
・ オンラインケア群
12か月後に血圧コントロールが良好(140 / 90 mmHg未満)であった人の割合は,通常ケア群と同等であり,有意な改善はみられなかった(P=0.21)。

12か月間の収縮期血圧(SBP)の低下度は,通常ケア群にくらべて有意に大きかった(低下度の群間差-2.9 mmHg,95 %信頼区間[CI]: -5.4~-0.4,P=0.02)。
拡張期血圧(DBP)の低下度では,通常ケア群との有意差はみられなかった(P=0.21)。

・ オンライン+薬剤師ケア群
12か月後に血圧コントロールが良好であった人の割合は56 %と,通常ケア群(31 %),オンラインケア群(36 %)のいずれにくらべても有意に高かった(ともにP<0.001)。
オンライン+薬剤師ケア群では,血圧コントロール良好であった人が通常ケア群の1.8倍となった(多変量調整相対リスク1.84,95 %CI: 1.48~2.29,P<0.001,vs. 通常ケア群)。

12か月間のSBPおよびDBPの低下度は,通常ケア群,オンラインケア群のいずれにくらべても,ともに有意に大きかった。通常ケア群との血圧低下度の群間差は,SBP -8.9 mmHg(95 %CI: -11.4~-6.3,P<0.001),DBP -3.5 mmHg(-4.9~-2.1,P<0.001)。

・ ベースライン時の血圧が高かったサブグループにおける解析
ベースライン時のSBPが160 mmHg以上であったサブグループで検討を行うと,オンライン+薬剤師ケア群で通常ケア群の3.3倍の人が血圧コントロール良好であった(多変量調整相対リスク3.32,95 %CI: 1.86~5.94,P<0.001)。
12か月間のSBPおよびDBPの低下度も,通常ケア群にくらべて有意に大きかった(ともにP<0.001)。

◇ 二次エンドポイント
・ 降圧薬の種類
ベースライン時の降圧薬の種類(クラス)の平均は1.6であった。
12か月後における各群の降圧薬の種類の平均は通常ケア群1.69,オンラインケア群1.94,オンライン+薬剤師ケア群2.16であった。
オンライン+薬剤師ケア群におけるベースライン時からの増加度は,通常ケア群,オンラインケア群のいずれにくらべても有意に大きかった(それぞれP<0.001,P<0.01)。

・ アスピリンの使用
ベースライン時のアスピリンの使用率は48.8 %であった。
12か月後におけるベースライン時からの各群のアスピリンの使用率の増加度は,オンライン+薬剤師ケア群で,通常ケア群,オンラインケア群のいずれにくらべても有意に大きかった(それぞれP<0.01,P<0.05)。

・ BMI,身体活動,健康関連のQOL,健康プランに対する満足度
3群間に有意な差はみられなかった。

・ ヘルスケアサービスの活用
ヘルスケアスタッフとのオンラインメッセージのやりとり(message thread)の数,およびヘルスケアスタッフとの電話の回数は,オンライン+薬剤師ケア群において,通常ケア群,オンラインケア群のいずれにくらべても有意に多かった。

◇ 有害事象
死亡は3人。うち,癌関連合併症による死亡が2人(ともにオンラインケア群),心停止による死亡が1人(オンライン+薬剤師ケア群)であった。
非致死的心血管疾患を発症したのは7人。通常ケア群で2件,オンラインケア群で4件,オンライン+薬剤師ケア群で3件であった。
安全性監視委員会は,いずれの有害事象も研究との関連はないとした。


◇ 結論
インターネットを用いた患者啓発や薬剤師とのコミュニケーションにより,高血圧のコントロール状況が改善するかどうかについて,コントロール不良の本態性高血圧患者を対象としたランダム化比較試験により検討した。その結果,家庭血圧測定+オンライン患者啓発+薬剤師とのオンラインコミュニケーションの実施により,12か月後の血圧コントロール状況が有意に改善することが示された。インターネットを用いたコミュニケーションの慢性疾患ケアへの有効性が示されたはじめての大規模ランダム化比較試験であり,コスト削減の観点から,この手法が他の慢性疾患にも適用できるかどうかの検討がまたれる。


監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康

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