[2008年文献] 低炭水化物食と地中海食は,いずれも低脂肪食を超える減量効果(DIRECT)

3つの減量食(低脂肪食,地中海食,低炭水化物食)の有効性および安全性を比較することを目的として,2年間にわたる無作為化比較試験(DIRECT)を行った。その結果,地中海食,および低炭水化物食は,いずれも減量効果のみならず,代謝系因子に関する望ましい効果を示した。この結果より,地中海食および低炭水化物食が低脂肪食に並ぶ有効な選択肢となり,食事の好みや代謝障害の状況などに応じた食事介入を行うことができる可能性が示された。

Shai I, et al.; Dietary Intervention Randomized Controlled Trial (DIRECT) Group. Weight loss with a low-carbohydrate, Mediterranean, or low-fat diet. N Engl J Med. 2008; 359: 229-41.pubmed

目的
肥満の増加は世界的な問題となり,食事による減量の有効性および安全性についての検討が急務となっている。最近の研究から,低炭水化物食が体重を減少させるだけでなく代謝系にも良い影響を与えることや,地中海食が減量効果および心血管疾患に対する予防的な効果を有することなどが示されている。しかし,食事に関する臨床試験には脱落率,サンプルサイズ,追跡期間などの制限があるものも多く,いずれもその有効性を決定的に示したとはいえない。そこで,3つの減量食(低脂肪食,地中海食,低炭水化物食)の有効性および安全性を2年間にわたり比較するDIRECT試験(Dietary Intervention Randomized Controlled Trial)を行った。
コホート
DIRECT試験
イスラエル・ディモナの研究所に勤務し,「40~65歳でBMIが27 kg/m2以上」「2型糖尿病または冠動脈疾患を有する」のいずれかに該当する男女のうち,除外基準(妊娠・授乳中,血清クレアチニン値≧2 mg/dL,肝機能障害,試験食摂取の障害となる胃腸の問題,癌,またはその他の食事関連の試験への参加)に該当する人を除いた322人を対象とした。
試験期間は2年間(2005年7月~2007年6月)。

対象者は「低脂肪食」「低炭水化物食」「地中海食」のいずれかに無作為に割り付けられたうえで,各群の管理栄養士による計18回(第1,3,5,7週とその後6週間ごと,各90分)のセッションで以下のような食事指導を受けた。
  • 低脂肪食: 総摂取エネルギー量を制限し(男性1,800 kcal以下,女性1,500 kcal以下),その30%を脂肪から,10%を飽和脂肪酸から摂取し,1日のコレステロール摂取量は300 mg以下とする。低脂肪穀物,野菜,果物,豆類を多く摂取し,脂肪分,甘いもの,カロリーの高いスナックなどは控えるように指導。
  • 地中海食: 総摂取エネルギー量を制限し(男性1,800 kcal以下,女性1,500 kcal以下),脂肪からの摂取はその35%未満とする。脂肪のおもな摂取源はオリーブオイル(30~45 g),少量の豆類(5~7個,20 g未満)。野菜を多く摂取し,赤身肉を控えるように指導(牛肉・羊肉のかわりに鶏肉・魚を摂取)。
  • 低炭水化物食: 総摂取エネルギー量,蛋白質,脂肪の摂取量に制限はなし。最初の2か月(誘導期間),および宗教的な休日の直後には炭水化物摂取量を1日20 gまで抑え,その後に体重減を維持できる範囲で最大1日120 gまで段階的に炭水化物摂取量を増やしていく。蛋白質および脂肪はなるべく動物性ではなく植物性食品から摂取し,トランス脂肪酸の摂取は避けるように指導。

一次エンドポイントは,ベースラインから24か月後の体重。
結 果
◇ 患者背景
平均年齢52歳,男性の割合86%,BMI 31 kg/m2,血圧131.3 / 79.7 mmHg,腹囲105.9 cm,2型糖尿病14%,冠動脈疾患37%。
24か月後の全体のアドヒアランス率は84.6%(低脂肪食群90.4%,地中海食群85.3%,低炭水化物食群78.0%)。

◇ 各栄養素の摂取量,身体活動量,尿中ケトン排泄
1日あたりの総摂取エネルギー量は,すべての群において,6か月後,12か月後,24か月後のいずれについてもベースラインより有意に低下していた(P<0.001)が,低下度に有意な群間差はなかった。
身体活動量は,すべての群においてベースラインよりも有意に増加していたが,増加度に有意な群間差はなかった。
24か月後に検出可能な尿中ケトン排泄をみとめた人の割合は,低炭水化物食群(8.3%)で,低脂肪食群(4.8%)および地中海食群(2.8%)よりも有意に高かった(P=0.04)。

低炭水化物食群では,ほかの2群にくらべて炭水化物の摂取量が有意に少なく(P<0.001),蛋白質,総脂肪,飽和脂肪酸,総コレステロールの摂取量が有意に多かった(P<0.001,総コレステロールのみP=0.04)。
地中海食群では,ほかの2群にくらべて一価不飽和脂肪酸/飽和脂肪酸摂取量の比が有意に高く(P<0.001),また低炭水化物食群にくらべて繊維質の摂取量が有意に多かった(P=0.002)。
低脂肪食群では,低炭水化物食群にくらべて飽和脂肪酸の摂取量が有意に少なかった(P=0.02)。

◇ 体重の変化
試験期間中の体重は,いずれの群においても1~6か月後に大きく低下し,その後,部分的な増加の後に一定の値に落ち着く傾向を示した。

ベースラインから24か月後の体重変化(一次エンドポイント)は以下のとおりで,低脂肪食群にくらべ,地中海食群および低炭水化物食群で有意に低下度が大きかった(群×時間の相互作用のP<0.001)。
   低脂肪食群-2.9 kg (男性-3.4 kg,女性-0.1 kg)
   地中海食群-4.4 kg (-4.0 kg,-6.2 kg)
   低炭水化物食群-4.7 kg (-4.9 kg,-2.4 kg)

BMIの変化は低脂肪食群-1.0 kg/m2,地中海食群-1.5 kg/m2,低炭水化物食群-1.5 kg/m2と有意な群間差がみられた(群間比較のP=0.05)。

◇ 試験期間中の血圧および代謝系因子の推移
  • 腹囲: すべての群でベースラインよりも低下したが,群間に有意な差はみられなかった。
  • 血圧: すべての群でベースラインよりも低下したが,群間に有意な差はみられなかった。
  • HDL-C: すべての群でベースラインよりも増加しており,低炭水化物食群における増加度(+8.4 mg/dL)は低脂肪食群(+6.3 mg/dL)よりも有意に大きかった(群×時間の相互作用のP<0.01)。
  • トリグリセリド: 低炭水化物食群における低下度(23.7 mg/dL)は,地中海食群(21.8 mg/dL)とほぼ等しく,低脂肪食群(2.8 mg/dL)よりも有意に大きかった(群×時間の相互作用のP=0.03)。
  • LDL-C: すべての群でベースラインからの変化はみられず,群間にも有意な差はみられなかった。
  • 総コレステロール/HDL-C比: 低炭水化物食群で-20%ともっとも大きく低下しており,低脂肪食群(-12%)との有意差がみとめられた(群×時間の相互作用のP=0.01)。
  • 高感度CRP: 地中海食群,および低炭水化物食群でベースラインよりも有意に低下していたが,群間に有意な差はみられなかった。
  • アディポネクチン: すべての群でベースラインよりも有意に増加したが,群間に有意な差はみられなかった。
  • レプチン: すべての群でベースラインよりも有意に低下したが,群間に有意な差はみられなかった。
  • 空腹時血糖: 糖尿病を有する人でみると,地中海食群で低脂肪食群よりも有意に低下していた。糖尿病のない人では,群間に有意な差はみられなかった。
  • 血中インスリン: 糖尿病の有無を問わず,すべての群でベースラインよりも有意に低下していたが,群間に有意な差はみられなかった。
  • インスリン抵抗性指標(homeostasis model assessment of insulin resistance: HOMA-IR): 糖尿病を有する人でみると,地中海食群で低脂肪食群よりも有意に低下していた。
  • HbA1c: 糖尿病を有する人でみると,低炭水化物食群でのみベースラインよりも有意に低下していたが,群間に有意な差はみられなかった。


◇ 結論
3つの減量食(低脂肪食,地中海食,低炭水化物食)の有効性および安全性を比較することを目的として,2年間にわたる無作為化比較試験(DIRECT)を行った。その結果,地中海食,および低炭水化物食は,いずれも減量効果のみならず,代謝系因子に関する望ましい効果を示した。この結果より,地中海食および低炭水化物食が低脂肪食に並ぶ有効な選択肢となり,食事の好みや代謝障害の状況などに応じた食事介入を行うことができる可能性が示された。


監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康

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