[2008年文献] 若年世代の女性で,1日2杯以上のアルコール摂取は心房細動リスクの上昇と関連(Women's Health Study)

女性における定期的なアルコール摂取と心房細動発症リスクとの関連について,12.4年間の前向き観察研究による検討を行った。その結果,1日あたり2杯未満の飲酒者では心房細動発症リスクの増加はみとめられなかった。一方,1日2杯以上の飲酒者では,大きくはないが有意なリスク増加がみとめられた。

Conen D, et al. Alcohol consumption and risk of incident atrial fibrillation in women. JAMA. 2008; 300: 2489-96.pubmed

目的
これまでの研究から,男性において中程度~多量のアルコール摂取が心房細動の発症リスクを増加させる可能性が指摘されている。女性ではこのような関連はみとめられなかったものの,いずれの研究も女性についての検討を目的としたものではなかった。そこで,健康な閉経後女性を対象として,定期的なアルコール摂取と心房細動の発症リスクとの関連を前向きに検討した。
コホート
Women’s Health Study(WHI: 女性を対象に低用量アスピリンおよびビタミンEによる心血管疾患および癌の一次予防効果を検討した無作為化比較試験)に参加した45歳以上の女性39,876人のうち,試験終了後に継続して実施された観察研究への参加を承諾した35,550人。
さらに心房細動既往のある813人,アルコール摂取に関する情報に不備がある10人,試験開始前に心血管疾患または癌の診断を受けた12人を除外した34,715人を,1993年から2006年まで12.4年間(中央値)追跡した。

アルコール摂取状況については自己記入式質問票を用いて調査し,1日あたりの平均摂取量により対象者を以下の4つのカテゴリーに分類して解析を行った。
   非飲酒: 15,370人(44.3 %)
   飲酒(1杯未満): 15,758人(45.4 %)
   飲酒(1杯以上2杯未満): 2,228人(6.4 %)
   飲酒(2杯以上): 1,359人(3.9 %)
なお,1杯はビール12オンス(350 mL),ワイン4オンス(120 mL),蒸留酒1ショット。
心房細動の発症については,心電図などによる確認が得られた症例のみを解析に含めた。
結 果
◇ 対象背景
平均年齢は53~54歳。
アルコール摂取量が多いほど,BMIおよび糖尿病の割合が低かった(いずれも群間に有意差あり[P<0.001])。

◇ アルコール摂取と心房細動発症リスク
心房細動を発症したのは653人。
うち15人(2.3 %)は診断時に一過性脳虚血発作または脳卒中を発症しており,66人(10.1 %)は無症状だった。
各カテゴリーにおける心房細動発症率(年齢調整後,1000人・年あたり)は,非飲酒で1.59,飲酒(1杯未満)で1.55,飲酒(1杯以上2杯未満)で1.27,飲酒(2杯以上)で2.25。

アルコール摂取量ごとの心房細動発症のハザード比(多変量調整)は以下のとおりで,1日2杯以上の飲酒者において有意なリスク増加がみられた。
   非飲酒: 1 (対照)
   飲酒(1杯未満): 1.05 (95 %信頼区間0.88-1.25)
   飲酒(1杯以上2杯未満): 0.84 (0.58-1.22)
   飲酒(2杯以上): 1.60 (1.13-2.25)

追跡開始後48か月時のアルコール摂取量を加味した解析,心房細動より前に心血管疾患を発症した人を除いた解析,アルコールの種類と摂取頻度から算出したアルコール摂取量(g単位)による解析のいずれにおいても,同様の結果が得られた。

アルコール摂取量を連続変数として扱った解析を行った結果,1日のアルコール摂取が1杯増加するごとに心房細動発症リスクが有意に増加することが示された(ハザード比1.14,95 %信頼区間1.02-1.27)。
アルコール摂取量と心房細動発症リスクとの関連について,直線性を検討した結果は有意ではなかった(P=0.12)が,アルコール摂取量を二乗して扱った検討では有意な関連がみとめられ(P=0.04),非線形的な関連が示唆された。

◇ 心房細動に対するアルコール摂取の寄与度
アルコール摂取が1日2杯以上の人の心房細動発症のハザード比は,1日2杯未満の人に対して1.58(95 %信頼区間1.14-2.20)であった。
このコホートにおける1日2杯以上の飲酒者の割合(3.9 %)を考慮すると,すべての心房細動の約2 %において,1日2杯以上の飲酒が寄与していると考えられた。

◇ サブグループによる解析
年齢(60歳超/以下),BMI(30 kg/m2超/以下),高血圧の有無,高脂血症の有無,喫煙の有無によるサブグループ解析を行ったが,いずれについても有意な相互作用はみとめられなかった。


◇ 結論
女性における定期的なアルコール摂取と心房細動発症リスクとの関連について,12.4年間の前向き観察研究による検討を行った。その結果,1日あたり2杯未満の飲酒者では心房細動発症リスクの増加はみとめられなかった。一方,1日2杯以上の飲酒者では,大きくはないが有意なリスク増加がみとめられた。


監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康

▲このページの一番上へ

--- epi-c.jp 収載疫学 ---
Topics
【epi-c研究一覧】 CIRCS | EPOCH-JAPAN | Funagata Diabetes Study(舟形スタディ) | HIPOP-OHP | Hisayama Study(久山町研究)| Iwate KENCO Study(岩手県北地域コホート研究) | JACC | JALS | JMSコホート研究 | JPHC | NIPPON DATA | Ohasama Study(大迫研究) | Ohsaki Study(大崎研究) | Osaka Health Survey(大阪ヘルスサーベイ) | 大阪職域コホート研究 | SESSA | Shibata Study(新発田研究) | 滋賀国保コホート研究 | Suita Study(吹田研究) | Takahata Study(高畠研究) | Tanno Sobetsu Study(端野・壮瞥町研究) | Toyama Study(富山スタディ) | HAAS(ホノルルアジア老化研究) | Honolulu Heart Program(ホノルル心臓調査) | Japanese-Brazilian Diabetes Study(日系ブラジル人糖尿病研究) | NI-HON-SAN Study
【登録研究】 OACIS | OKIDS | 高島循環器疾患発症登録研究
【国際共同研究】 APCSC | ERA JUMP | INTERSALT | INTERMAP | INTERLIPID | REACH Registry | Seven Countries Study
【循環器臨床疫学のパイオニア】 Framingham Heart Study(フラミンガム心臓研究),動画編
【最新の疫学】 Worldwide文献ニュース | 学会報告
………………………………………………………………………………………
copyright Life Science Publishing Co., Ltd. All Rights Reserved.