[2009年文献] 2型糖尿病発症者では,発症3~6年前からすでに血糖値やインスリン抵抗性指標に特徴的な変化がみられる(Whitehall II Study)

代謝機能が正常な若年者において,2型糖尿病発症に至るまでの13年間に糖代謝機能にどのような変化が現れてくるかについて検討を行った。その結果,糖尿病非発症者の糖代謝機能がゆるやかな直線的変化を示していたのに対し,糖尿病発症者では血糖値が発症の3~6年前から顕著に上昇,HOMA-ISが発症5年前から顕著に低下,HOMA-β細胞機能が発症4年前に上昇しその後低下を示すなど,非発症者とは異なる変化がみられた。この結果から,糖尿病前症よりもさらに前の段階で予防対策を行い,発症を遅らせることができる可能性が示唆されるが,そのためのスクリーニングの方法などについてはより詳細な検討が必要である。

Tabák AG, et al. Trajectories of glycaemia, insulin sensitivity, and insulin secretion before diagnosis of type 2 diabetes: an analysis from the Whitehall II study. Lancet. 2009; 373: 2215-21.pubmed

目的
これまでに,空腹時高血糖や耐糖能異常などの糖尿病前症が糖尿病発症リスクとなることが明らかにされてきたが,これらはある時点での個人の血糖値の状態を示しているに過ぎず,糖尿病前症のカットオフ値より低い血糖値であっても,すでに糖尿病発症リスクや大血管合併症が進行している可能性もある。そこで,2型糖尿病発症に至るまでにどのようなタイミングで糖代謝能に変化が現れてくるかについて,英国の公務員を対象としたコホートにおける検討を行った。
コホート
Whitehall II Study。
ロンドンで勤務する英国の35~55歳の公務員で,1985年8月~1988年4月に実施されたPhase 1の健診を受診した10,308人(男性6,895人)のうち,1991年8月~1994年12月に実施されたPhase 3の健診を受診し,経口ブドウ糖負荷試験を受けた男性6,058人および女性2,758人。
このうち,経口ブドウ糖負荷試験の不参加者1,492人,Phase 3健診の際に明らかな糖尿病を有していた42人,追跡不能となった552人,民族に関するデータに不備があった27人,いずれかの健診においてHOMA(homeostasis model assessment)の解析が不可能な血液検査データを有していた1,657人を除外した6,538人が解析の対象となった。
Phase 3の健診をベースラインとして,追跡健診が1997年4月~1999年8月(Phase 5)および2002年10月~2004年9月(Phase 7)に,また質問票のみによる追跡調査が1995年1月~1996年7月(Phase 4),2001年1月~12月(Phase 6),および2006年2月~2007年6月(Phase 8)に実施され,対象者は9.7年間(中央値)追跡された。

さらに,対象者全員がベースライン健診および追跡健診2回を完了したと仮定して得られる19,614人・健診のうち,糖尿病と診断されたのちに実施された398人・健診,およびWHO基準による空腹時採血を行っていなかった5,188人・健診,空腹時血糖値が極端に高値(≧450 mg/dL)または低値(≦54 mg/dL)の108人・健診,空腹時インスリン値が極端に高値(≧400 pmol/L)または低値(≦20 pmol/L)の2,130人・健診を除外し,最終的な解析のデータセットは11,790人・健診となった。

糖尿病の診断基準は,空腹時血糖値126 mg/dL以上,または食後2時間血糖値200 mg/dL以上とした。

糖尿病発症者については発症時を基点(0年)とし,ベースライン時のデータおよび発症までの追跡調査データを後ろ向きに解析した。
糖尿病非発症者については,最後の追跡健診または調査の時点を基点(0年)とし,同様にそれまでのデータを後ろ向きに解析した。
結 果
◇ 対象背景
追跡期間中に糖尿病を発症したのは505人。

糖尿病発症者と非発症者(6,033人)のベースラインデータを比較した結果は以下のとおりで,発症者では非発症者よりも有意に男性の割合が少なく,BMIが高く,空腹時および食後2時間血糖値が高く,空腹時および食後2時間インスリン値が高かった。
   年齢: 発症者53.1歳,非発症者52.6歳 (P=0.12)
   男性: 66 %,71 % (P=0.029)
   BMI: 28.18 kg/m2,25.60 kg/m2 (P<0.0001)
   空腹時血糖値: 102.8 mg/dL,93.8 mg/dL (P<0.0001)
   食後2時間血糖値: 127.1 mg/dL,96.8 mg/dL (P<0.0001)
   空腹時インスリン値: 73 pmol/L,47 pmol/L (P<0.0001)
   食後2時間インスリン値: 473 pmol/L,259 pmol/L (P<0.0001)
   HOMA(homeostasis model assessment)-IS(insulin sensitivity: インスリン感受性): 58.8 %,63.2 % (P<0.0001)
   HOMA-β細胞機能: 39.0 %,30.3% (P<0.0001)

◇ 糖代謝機能の推移
糖代謝機能の推移について,基点(0年)から13年前(-13年)までさかのぼって解析した結果は以下のとおり。

・ 空腹時血糖値
非発症者の空腹時血糖値は,非常にゆるやかな上昇を示していた(-13年時: 94.7 mg/dL,0年時: 95.6 mg/dL,年間増加率: 0.072 mg/dL)。
一方,糖尿病発症者の空腹時血糖値は,-13年から-3年にかけては直線的な上昇を示し(-13年時: 98.5 mg/dL,-3年時: 104.2 mg/dL),-3年から発症にかけては非発症者にくらべて非常に急激な上昇をみとめた(発症時: 133.2 mg/dL)。

・ 食後2時間血糖値
非発症者の食後2時間血糖値は,-13年時の92.0 mg/dLから0年時の103.9 mg/dLまで上昇し,年間増加率は0.918 mg/dLだった。
糖尿病発症者の食後2時間血糖値は,-13年から-6年にかけては非発症者より17.8 mg/dL高い値を示しながらも,その増加率は非発症者と同等であった。しかしその後は三次曲線的な軌跡を示しており,-5年から-3年にかけて変化はみられなかったが,-2年から発症にかけて急激な上昇をみとめた(-2年時: 136.8 mg/dL,発症時: 214.2 mg/dL)。

・ HOMA-IS
HOMA-ISは,糖尿病発症者,非発症者のいずれにおいても,-13年時から-5年時にかけて年間1.11 %の割合で低下していた。ただし,糖尿病発症者のHOMA-ISは非発症者にくらべて34.2 %低かった。-5年時から発症時にかけては,糖尿病発症者で非発症者にくらべて低下率が大きくなり,発症時には86.7 %にまで低下した(非発症者との低下率の差: 年間2.76 %)。

・ HOMA-β細胞機能
HOMA-β細胞機能は,糖尿病発症者,非発症者のいずれにおいても,-13年時から-4年時にかけてまったく変化しなかった。ただし,糖尿病発症者のHOMA-β細胞機能は85.0 %であり,非発症者にくらべて10.4 %高かった。-4年時から発症にかけては,糖尿病発症者のHOMA-β細胞機能は負の二次曲線的な軌跡を示しており,-4年時と-3年時のあいだに一旦92.6 %まで上昇したのちに急激に低下して発症時には62.4 %となった。

以上の糖代謝機能の変化に関する解析は,Whitehall II Studyのサブコホートにおける感度分析や,BMIの経時的変化による調整を行っても同様であった。

◇ 結論
代謝機能が正常な若年者において,2型糖尿病発症に至るまでの13年間に糖代謝機能にどのような変化が現れてくるかについて検討を行った。その結果,糖尿病非発症者の糖代謝機能がゆるやかな直線的変化を示していたのに対し,糖尿病発症者では血糖値が発症の3~6年前から顕著に上昇,HOMA-ISが発症5年前から顕著に低下,HOMA-β細胞機能が発症4年前に上昇しその後低下を示すなど,非発症者とは異なる変化がみられた。この結果から,糖尿病前症よりもさらに前の段階で予防対策を行い,発症を遅らせることができる可能性が示唆されるが,そのためのスクリーニングの方法などについてはより詳細な検討が必要である。


監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康

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