[2011年文献] 29の遺伝子変異を含む遺伝的リスクスコアは,高血圧,左室肥大,脳卒中,冠動脈疾患と関連した(ICBP-GWAS)

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Ehret GB, et al.; International Consortium for Blood Pressure Genome-Wide Association Studies. Genetic variants in novel pathways influence blood pressure and cardiovascular disease risk. Nature. 2011; 478: 103-9.pubmed

コメント
欧州人を対象とした血圧値に関する国際的なゲノムワイド関連研究のメタ解析によって29の一塩基多型が同定され(そのうち19が今回新たに同定),それらを用いて遺伝的リスクスコアを作成した研究である。リスクスコアは高血圧性臓器障害および心血管疾患と関連していることが示されたが,腎疾患・腎機能との関連を認めなかったことは興味深い知見であり,横断研究(断面解析)での限界はあるものの,高血圧の遺伝学や心血管疾患予防における新しい視点を示唆するものである。
(編集委員 磯 博康)
目的
血圧は遺伝性の形質であるが,環境的な刺激にも応答することが知られている。近年,個人間の血圧値の違いを決定する生物学的経路の解明が遺伝学的なアプローチによって進んできており,2009年にはGlobal BPgen Consortium,CHARGE Consortiumといった欧州の数万人規模のゲノムワイド関連研究の成果として,血圧値や高血圧に関連する13の遺伝子座が同定された。そこで今回,International Consortium for Blood Pressure Genome-Wide Association Study(ICBP-GWAS)において,血圧関連遺伝子座のさらなる同定を目的とし,ゲノムワイド関連研究データのメタ解析を行った。
コホート
International Consortium for Blood Pressure Genome-Wide Association Study(ICBP-GWAS)。
(1)ゲノムワイド関連研究(GWAS)メタ解析と検証研究
欧州の計69395人を対象とした29のGWASから得られた250万の一塩基多型(SNP)の遺伝子型データと,収縮期血圧値および拡張期血圧値との関連を分析した。この結果をもとに,欧州の計133661人を対象として,シグナル強度の高いSNPについてさらに3段階にわたる検証研究を行い,血圧と関連するSNPを見出した。
(2)欧州以外のコホートでの評価
GWASメタ解析により見出されたSNPと血圧との関連について,東アジア系(29719人),南アジア系(23977人),アフリカ系(19775人)を対象としたコホート研究における検証を行った。
(3)遺伝的リスクスコア
GWASメタ解析で血圧と有意な関連を示した29のSNPを用いた遺伝的リスクスコアを作成し,血圧値,高血圧の有無,および高血圧合併症との関連を検討した。
結 果
◇ ゲノムワイド関連研究(genome-wide association study: GWAS)メタ解析と検証研究
29のGWASから得られた250万の一塩基多型(SNP)の遺伝子型データと収縮期血圧(SBP)および拡張期血圧(DBP)との関連について,GWASメタ解析,および複数段階にわたる検証研究を行った結果,28の遺伝子座における29のSNPが,SBPかDBP,あるいはその両方と有意な関連を示した(すべてP<5×10-9)。このうち16のSNPは今回はじめて発見されたものである。
28の遺伝子座のうち,血圧に影響を与えることが知られている経路に関連する遺伝子またはその近傍にあるものは6つ(NPR3GUCY1A3-GUCY1B3ADMGNAS-EDN3NPPA-NPPBCYP17A1)のみであった。

◇ 欧州以外のコホートでの評価
GWASメタ解析および検証研究において血圧との有意な関連がみとめられた29のSNPについて,東アジア系,南アジア系,アフリカ系のコホートにおいても同様の関連がみられるかどうかを検討した結果,東アジア系の人では9つの遺伝子座にあるSNP,南アジア系の人では6つの遺伝子座にあるSNPが,それぞれSBPかDBP,あるいはその両方と有意に関連していた。アフリカ系の人ではいずれのSNPについても有意な関連はみとめられなかった。

◇ 遺伝的リスクスコアの作成
欧州以外のコホートで一部のSNPについて有意な個別の関連がみとめられなかった理由として,サンプルサイズが十分でない,アレル頻度や連鎖不平衡パターンが欧州とは異なる,コホートによって既存のデータを用いたSNP遺伝子型の推定が不正確,遺伝的構造がそもそも異なるといった可能性が考えられた。
そこで,欧州におけるGWASメタ解析および検証研究で得られた効果サイズに基づいて,29のSNPにそれぞれ重み付けを行い,遺伝的リスクスコアを作成した。
遺伝的リスクスコアは,東アジア系,南アジア系,アフリカ系のすべてでSBP,DBPの両方と有意に関連した(東アジア系のSBP: P=1.1×10-40,DBP: P=2.9×10-48,南アジア系のSBP: P=2.9×10-13,DBP: P=9.5×10-15,アフリカ系のSBP: P=9.8×10-4,DBP: P=5.3×10-5)。

◇ 遺伝的リスクスコアと高血圧および高血圧合併症との関連
遺伝的リスクスコアと高血圧および種々の高血圧合併症(左室重量,左室壁厚,新規心不全,新規脳卒中,脳卒中既往,冠動脈疾患既往,腎疾患,腎機能)との関連について,GWASメタ解析および検証研究,ならびに別のGWASプロジェクトの結果も用いて分析した。

・高血圧
女性23294人(Women’s Genome Health Study: WGHS)において,遺伝的リスクスコアの1 SD増加は,高血圧のオッズ比の23%増加(95%信頼区間19-28%)と関連していた。また,リスクスコアの値がもっとも高い十分位における高血圧有病率は29%であるのに対し,もっとも低い十分位では16%であった。
また,症例対照コホート(BRIGHT研究)でも同様の結果がみとめられた。
GWASメタ解析および検証研究のコホートで検討すると,遺伝的リスクスコアの値がもっとも高い十分位ともっとも低い十分位の差はSBP 4.6 mmHg,DBP 3.0 mmHgであり,遺伝的要因による個人間の血圧差が降圧薬単剤による治療効果に匹敵するものであることが示唆された。

・高血圧合併症
遺伝的リスクスコアは,左室壁厚,脳卒中発症,冠動脈疾患発症と有意に関連していたが,慢性腎臓病や腎機能指標との関連はみとめられなかった。このことは,血圧と腎機能との関連が,血圧と脳卒中や冠動脈疾患との関連よりも弱いことを示唆する。また,観察研究では血圧と腎疾患との有意な関連がみられる一方で,臨床試験では高血圧患者に対する降圧治療が必ずしも腎疾患予防に有効ではないというこれまでの知見とも一致するものである。


◇ 結論
国際共同研究により,既知の遺伝子に加えた,高血圧関連遺伝子座のさらなる同定を目的として,ゲノムワイド関連研究(GWAS)データのメタ解析およびその検証を行った。その結果,欧州のコホートにおいて28の遺伝子座にある29のSNP(新しく発見された16のSNPを含む)が血圧値と関連することを見出した。このうち一部のSNPについては,東アジア系,南アジア系,アフリカ系のコホートでも血圧との関連が確認された。この29のSNPを用いて作成した遺伝的リスクスコアは,血圧関連臓器障害や心血管疾患と有意な関連を示していたが,腎疾患との関連はみとめられなかった。これらの知見は,血圧の遺伝学・生物学に関する新しい視点を提供するとともに,降圧治療や心血管疾患予防のための新しい標的の同定に役立つ可能性がある。


監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康

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