[2011年文献] 高血圧性網膜症は軽度でも心血管疾患死亡の危険因子(Ibaraki Prefectural Health Study)

日本の一般住民を対象として,軽度の高血圧性網膜症が心血管疾患死亡と関連することを示したはじめての研究である。男女ともに,種々の危険因子リスクおよび高血圧の有無にかかわらず,軽度の高血圧性網膜症は心血管疾患死亡の危険因子であることが示された。

Sairenchi T, et al. Mild retinopathy is a risk factor for cardiovascular mortality in Japanese with and without hypertension: the Ibaraki Prefectural Health Study. Circulation. 2011; 124: 2502-11.pubmed

コメント
眼底検査はわが国の健康診断において古くから導入され,中等度〜高度の高血圧性網膜症の心血管疾患予測の意義は確立されているが,これまで,軽度の高血圧性網膜症の意義は,大規模なコホート研究では検討されていなかった。本研究は,約9万人の14年間の追跡により,軽度の高血圧性網膜症が心血管疾患死亡と関連することを示した初めてのコホート研究である。
(編集委員 磯 博康)
目的
これまで,高血圧性網膜症あるいは眼底異常が血圧値とは独立して心血管疾患リスクと関連することが複数のコホート研究により報告されているが,一方で,正常血圧者においても軽度の高血圧性網膜症と心血管疾患リスクとの関連が示唆されている。軽度高血圧性網膜症と心血管疾患との関連はリスクの高い患者の特定において重要であるが,現在のところデータが不足している。本研究では,高血圧性網膜症のグレードが高血圧とは独立して心血管疾患死と関連するかを検討した。
コホート
Ibaraki Prefectural Health Study。
1993年に健診(眼底検査を含む)を受診した40〜79歳の茨城県の住民97042人のうち,健診データが不十分であった4067人,脳卒中/心疾患の既往のある4996人,および網膜症が軽度でない*89人を除いた87890人(男性29917人,女性57973人)を平均14.1年間追跡。

* Keith-Wagener-Barker分類による網膜症の重症度がグレード3(顕著な網膜細動脈硬化に加え,浮腫,綿花様白斑,網膜出血のみられる血管攣縮性網膜症)またはグレード4(グレード3の所見に加えて視神経乳頭の測定可能な浮腫を有する)の人

網膜症の重症度を示すKeith-Wagener-Barker分類に基づき,全体を以下の3つのカテゴリーに分けて解析した。
正常(網膜症の所見なし)群:男性22444人,女性45821人
グレード1(網膜細動脈に軽度の狭窄や硬化を認める)群:6117人,9939人
グレード2(網膜細動脈に中程度〜著しい狭窄,中程度の硬化,動脈硬化性網膜症,あるいは網膜静脈血栓症を認める)群:1356人,2213人
結 果
◇ 対象背景
平均年齢は,男性では正常群58.5歳,グレード1群64.7歳,グレード2群66.2歳,女性ではそれぞれ55.8歳,63.7歳,65.0歳,平均血圧値は,男性では133.7 / 80.0 mmHg,142.5 / 83.1 mmHg,151.2 / 88.0 mmHg,女性では129.1 / 76.7 mmHg,139.9 / 80.9 mmHg,148.6 / 85.5 mmHg,降圧薬使用率は,男性では15.3%,29.5%,43.7%,女性では14.5%,33.5%,50.0%と,いずれも男女ともに網膜症のグレードが高いほど高値を示した。

追跡期間における心血管疾患死亡は男性1801人,女性1896人。
うち脳卒中死亡はそれぞれ841人,905人,脳梗塞死亡は546人,444人,脳内出血死亡は206人,247人,虚血性心疾患死亡は511人,446人であった。

◇ 網膜症と心血管疾患死亡との関連
網膜症のカテゴリーごとの多変量調整**ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおりで,男女ともに網膜症のグレードが高いほど心血管疾患死亡,全脳卒中死亡,および脳梗塞死亡のリスクが有意に高くなっていた。
**年齢,BMI,収縮期血圧値,降圧薬の使用,総コレステロール値,HDL-C値,脂質低下薬の使用,血糖値,糖尿病薬の使用,心房細動,ST-T異常,喫煙状況,飲酒量により調整

・男性
   全死亡:正常群(対照)1,グレード1群1.09(1.04-1.15),グレード2群1.17(1.06-1.28)(P for trend<0.001)
心血管疾患死亡:1,1.24(1.12-1.38),1.23(1.03-1.47)(P for trend<0.001)
   全脳卒中死亡:1,1.31(1.13-1.53),1.38(1.08-1.77)(P for trend<0.001)
   脳梗塞死亡:1,1.25(1.04-1.51),1.45(1.08-1.94)(P for trend=0.003)
   脳内出血死亡:1,1.36(1.00-1.84),1.29(0.76-2.18)(P for trend=0.082)
   虚血性心疾患死亡:1,1.17(0.96-1.42),1.18(0.84-1.64)(P for trend=0.126)

・女性
   全死亡:正常群(対照)1,グレード1群1.02(0.96-1.08),グレード2群1.23(1.11-1.35)(P for trend<0.001)
心血管疾患死亡:1,1.12(1.01-1.24),1.44(1.24-1.68)(P for trend<0.001)
   全脳卒中死亡:1,1.30(1.12-1.50),1.70(1.36-2.11)(P for trend<0.001)
   脳梗塞死亡:1,1.27(1.03-1.56),1.93(1.44-2.59)(P for trend<0.001)
   脳内出血死亡:1,1.24(0.93-1.66),1.77(1.17-2.68)(P for trend=0.006)
   虚血性心疾患死亡:1,0.92(0.74-1.14),1.07(0.76-1.51)(P=for trend 0.901)

◇ 高血圧の有無による層別化解析
高血圧(血圧≧140/90 mmHgかつ/または降圧薬を使用),正常血圧(血圧<140/90 mmHgで降圧薬を使用していない)による層別化解析を行った結果,高血圧者,正常血圧者ともに,正常群にくらべ,グレード1群およびグレード2群で全死亡,心血管疾患死亡,全脳卒中死亡のハザード比が有意に高かった。

◇ 結論
日本の一般住民を対象として,軽度の高血圧性網膜症が心血管疾患死亡と関連することを示したはじめての研究である。男女ともに,種々の危険因子リスクおよび高血圧の有無にかかわらず,軽度の高血圧性網膜症は心血管疾患死亡の危険因子であることが示された。


監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康

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