[2012年文献] ラクナ梗塞のうち,小さい病変は糖尿病およびHbA1c値と,大きい病変はLDL-C値と関連する(ARIC)

米国ARIC研究において,ラクナ梗塞の2つの病型(脂肪硝子変性,微小粥腫)の危険因子を比較するため,脳MRIにより判定した梗塞様病変のサイズごとに検討を行った。その結果,年齢,高血圧,喫煙といった危険因子のほかに,小さい梗塞様病変(7 mm以下)には糖尿病およびHbA1c値,大きい梗塞様病変(8~20 mm)にはLDL-C値が関連することが示された。この結果は,長年にわたり支持されてきた病理学的な学説を裏付けるものであり,脳の細小血管疾患の研究に貢献すると考えられる。

Bezerra DC, et al. Risk factors for lacune subtypes in the Atherosclerosis Risk in Communities (ARIC) Study. Neurology. 2012; 78: 102-8.pubmed

コメント
1980年代,Fisherが,ラクナ梗塞には,小さなラクナ病変(主として脂肪硝子変性あるいは細動脈硬化によるもの)と大きなラクナ病変(主として微小粥腫)の2つのタイプがあることを提唱した(Neurology. 1982; 32: 871-6. pubmed)が,これらの危険因子に関する疫学研究はほとんど行われてこなかった。本研究は2つのタイプのラクナ梗塞の危険因子を持続的に検討した最初の疫学研究であり,Fisherの仮説を裏付ける結果となった。本研究は米国人の結果であり,今後,小さなラクナ病変が多いと考えられる日本人における検証が望まれる。
(編集委員 磯 博康)
目的
ラクナ梗塞の発生機序はいまだ明らかになっていないが,病理学的・臨床的な観点から,原因となる血管病変はおもに(1)脂肪硝子変性(lipohyalinosis: 7 mm未満の小さなラクナ病変を1つまたは複数ともない,症状はほとんどみとめられない),および(2)微小粥腫(microatheromata: より大きいラクナ病変[5~20 mm]をともない,症候性であることが多い)の2つに分類されてきた。これら2つの病型は病因も臨床的な意義も異なると考えられるが,それぞれの危険因子については十分な知見が得られていない。
そこで,Atherosclerosis Risk in Communities(ARIC)研究において,これら2つの病型の危険因子を検討した。また,血糖降下治療は大血管疾患よりも細小血管疾患に対して有効と考えられていることから,糖尿病や耐糖能異常が微小粥腫よりも脂肪硝子変性と強く関連するという仮説を検証した。
コホート
Atherosclerosis Risk in Communities Study(ARIC)研究の参加者のうち,第3回健診(1993~1995年)を受けた2コホート(ノースカロライナ州フォーサイス郡,ミシシッピ州ジャクソン[黒人のみ])の55歳以上の男女を対象とし,安全面から脳MRI検査を実施しなかった約2%の参加者,および脳MRI検査に同意しなかった27.6%の参加者を除外した1827人に脳MRI検査を実施し,解析した。

皮質下の20 mm以下の梗塞様病変(infarct-like lesions: ILL)の有無および大きさに基づき,全体を以下の4つのカテゴリーに分けて解析した。
 ・ILLなし:1586人(86.8%)
 ・ILL≦7 mmのみ(主として脂肪硝子変性によるものと考えられる):169人(9.3%)
 ・ILL 8~20 mmのみ(おそらく微小粥腫によるものと考えられる):37人(2.0%)
 ・≦7 mm,8~20 mmの両病変を有する:35人(1.9%)
結 果
◇ 対象背景
梗塞様病変(infarct-like lesions: ILL)8~20 mmのみのグループにくらべ,ILL≦7 mmのみのグループでは,黒人,糖尿病,高血圧の割合が高く,喫煙歴のある人の割合,および平均LDL-C値が低かった。両病変を有するグループでは,LDL-C値,および喫煙歴のある人の割合が高かった。

◇ 梗塞様病変と関連する因子
ポアソン回帰分析により,ILL≦7 mmのみのグループ,およびILL 8~20 mmのグループにおいてILLと関連する因子を検討した結果,頻度比(prevalence ratio: PR)が有意に高かった因子は以下のとおり。

・ILL≦7 mmのみのグループ
   年齢(+1歳):PR 1.11(95%信頼区間1.08-1.14)
   黒人(vs. 白人):1.66(1.27-2.16)
   高血圧あり(vs. なし):2.12(1.61-2.79)
   糖尿病あり(vs. なし):1.42(1.08-1.87)
   喫煙経験者(vs. 未経験者):1.34(1.04-1.74)
   HbA1c(+1 SD):1.17(1.07-1.28)
この結果は,このグループの人をILL<3 mmまたはILL 3~7 mmのいずれかに分けて行った解析でも同様であった。

・ILL 8~20 mmのみのグループ
   年齢(+1歳):PR 1.14(95%信頼区間1.09-1.20),
   高血圧あり(vs. なし):1.79(1.14-2.83)
   喫煙経験者(vs. 未経験者):2.66(1.63-4.34)
   LDL-C(+1 SD):1.27(1.06-1.52)

◇ 結論
米国ARIC研究において,ラクナ梗塞の2つの病型(脂肪硝子変性,微小粥腫)の危険因子を比較するため,脳MRIにより判定した梗塞様病変のサイズごとに検討を行った。その結果,年齢,高血圧,喫煙といった危険因子のほかに,小さい梗塞様病変(7 mm以下)には糖尿病およびHbA1c値,大きい梗塞様病変(8~20 mm)にはLDL-C値が関連することが示された。この結果は,長年にわたり支持されてきた病理学的な学説を裏付けるものであり,脳の細小血管疾患の研究に貢献すると考えられる。


監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康

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