[2012年文献] CKD発症のリスクスコア(Framingham Offspring Study)

O'Seaghdha CM, et al. A risk score for chronic kidney disease in the general population. Am J Med. 2012; 125: 270-7.pubmed

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高齢化が進むわが国や諸外国において,慢性腎臓病(CKD)による腎不全や人工透析導入の問題が増大しつつある。そこで,本研究において,CKD予防のためのツールとして,個人のCKD発症の絶対リスクを評価するリスクスコアが開発された。年齢,高血圧,糖尿病,蛋白尿の有無,ならびに推算糸球体濾過量(eGFR)といった,健診や日常臨床で測定しうる因子を用いて,今後10年間のCKDの絶対リスクを評価できる点で,その臨床的意義は大きい。今後は日本人におけるリスクスコアの開発が望まれる。
(編集委員 磯 博康)
目的
米国の慢性腎臓病(CKD)の有病率は13%と高いが,この疾患の認知度はまだ十分とはいえない。CKDは早期段階では症状がないことが多いため,CKDの予防や早期発見が重要である。そこで,プライマリケアの段階で評価可能な因子を用いて,個人のCKD発症の絶対リスクを評価するリスクスコアを作成した。
コホート
(1)リスク予測モデル・リスクスコアの作成
Framingham Offspring Studyコホート(Framingham Heart Studyオリジナルコホートの子供およびその配偶者5124人を1971年から追跡し,4年ごとに検査を実施)。
第6回検査(1995~1998年)を受診した3532人のうち,血清クレアチニン値のデータのない80人,慢性腎臓病(CKD)を有する294人,死亡した275人,追跡検査を受診しなかった393人を除いた2490人を対象とし,さらに尿中アルブミン/クレアチニン比の値のデータのない341人を除外したうえで第8回検査(2005~2008年)までの10年間の追跡結果を解析した。

(2)リスク予測モデル・リスクスコアの検証
ARICコホート。
検尿が実施されたvisit 4(1996~1998年)の健診(ベースライン)を受診し,かつ2004~2005年に実施されたARIC頸動脈MRI研究(ARIC参加者から層別化サンプリングを行って実施されたサブ研究)のための健診(追跡調査)を受診した2066人のうち,ベースラインまたは追跡時の血清クレアチニン値に不備があった104人,CKDを有していた128人,その他のデータに不備があった57人を除外した1777人。追跡期間の中央値は8.5年。

米国腎臓財団のKidney Diseases Outcomes Quality Initiative(K/DOQI)ガイドライン(2002年)に基づき,推算糸球体濾過量(eGFR)<60 mL/min/1.73 m2をCKD発症の定義とした。
結 果
◇ 対象背景
年齢は57.1歳,女性の割合は53%,人種は白人が100%,収縮期血圧は126 mmHg,高血圧は35.3%,糖尿病は7.4%,HDL-C値は52 mg/dL(平均値),トリグリセリド値は137 mg/dL(平均値),肥満(BMI≧30 kg/m2)は27.1%,喫煙率は14.3%,心血管疾患既往は8.3%,推算糸球体濾過量(eGFR)は92 mL/min/1.73 m2(平均値),試験紙法による蛋白尿は17.1%,アルブミン尿(随時尿中アルブミン/クレアチニン比[UACR]≧30 mg/g)は9.2%であった。

追跡期間中に慢性腎臓病(CKD)を発症したのは229人(9.2%)。

◇ CKD発症リスク予測モデルの作成
これまでにCKDとの関連が報告されている因子を検討し,多変量ロジスティック回帰モデルにおいてCKD発症との有意な関連を示す因子(P<0.05) のみを用いて,段階的に3つの予測モデルを作成した。
*年齢,性別,糖尿病,高血圧,高血圧治療,低HDL-C血症(男性40 mg/dL未満,女性50 mg/dL未満),高トリグリセリド血症(150 mg/dL以上),肥満,現在の喫煙,および心血管疾患既往

・モデル1(診察室モデル)
P<0.05の基準に合致したのは年齢,糖尿病,高血圧のみであった。
この3つを用いて作成したモデル1のC統計量は0.786であった。

・モデル2(モデル1+ベースラインのeGFR)
モデル1にeGFRカテゴリー(60~74/75~89/90~119/≧120 mL/min/1.73 m2)を含めたところ,P<0.001と基準に合致した。
eGFRを加えたモデル2のC統計量は0.812と,モデル1に比して有意な改善がみられた(P=0.001)。

・モデル3(モデル2+ベースラインのアルブミン尿)
モデル2にアルブミン尿(UACR≧30 mg/g)を含めたところ,P=0.009と基準に合致した。
UACRを加えたモデル3のC統計量は0.813と,モデル2に比して有意な改善がみられた。UACRによるアルブミン尿のかわりに,試験紙法による蛋白尿を含めても結果は同様だった(P=0.009,C統計量0.813)ことから,UACRを含めたモデルを最終モデルとした。最終モデルのCKD予測能は,eGFRの推算にCKD-EPI(Chronic Kidney Disease Epidemiology Collaboration)式を用いた場合も同様であった。

最終モデルにより算出したリスクの十分位は,実際に観察されたリスクとほぼ同じであった(Hosmer-Lemeshow検定によるχ2*=7.27,P≧0.60)。また,Framingham Offspring コホート内での検証を行った結果,リスクスコアのC統計量は0.79であった。
*20未満の場合に適合度が高いとされる)

◇ 10年間のCKD発症リスクスコアの作成
最終モデルに含まれる年齢,高血圧,糖尿病,ベースラインのeGFRカテゴリーおよび試験紙法による蛋白尿 を用い,多変量ロジスティック回帰分析における回帰係数に応じたポイントを各因子に設定することで,10年間のCKD発症の絶対リスクを予測するリスクスコアシステムを作成した。合計点数は最低0点~最高15点となり,それぞれ絶対リスク0%~84%に相当する。
たとえば,66歳の男性で糖尿病なし,高血圧あり,試験紙法による蛋白尿なし,eGFRが75~89 mL/min/1.73 m2の場合,リスクスコアは8点となり,10年間のCKD発症の絶対リスクは14%と予想される。

◇ 外部コホート(ARIC)での検証
検証コホートとして用いられたARICの対象背景は,平均年齢62.4歳,女性の割合は50.6%,人種は白人76.1%,黒人23.9%,収縮期血圧は128 mmHg,高血圧は46.1%,糖尿病は13.4%,肥満は31.0%,eGFRは85 mL/min/1.73 m2,アルブミン尿は5.7%であり,追跡期間中にCKDを発症したのは337人(19.0%)であった。

ARICで検証した場合のCKDリスクスコアのC統計量は0.74であった。C統計量を人種別にみると,白人0.74,黒人0.75とほぼ同等であったが,Hosmer-Lemeshow検定によるχ2値はそれぞれ19.7(P=0.01),9.7(P=0.29)と差がみられた。


◇ 結論
白人を対象とした前向きコホート研究において,プライマリケア段階で評価可能な因子を用いて個人の慢性腎臓病(CKD)発症の絶対リスクを評価するシンプルなリスクスコアを作成し,白人および黒人からなる別のコホート研究による検証を行った。その結果,年齢,高血圧,糖尿病,eGFRカテゴリーおよび試験紙法による蛋白尿を用いたリスクスコアは良好なCKD発症リスク予測能を示した。外部コホートにおける検証でも同様の結果が得られ,黒人のみを対象とした解析でも予測能は良好であった。


監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康

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