[2012年文献] 景気悪化に伴って管理職・専門職の男性で死亡率が上昇(30~59歳の日本人男性,1980~2005年)

Wada K, et al. Trends in cause specific mortality across occupations in Japanese men of working age during period of economic stagnation, 1980-2005: retrospective cohort study. BMJ. 2012; 344: e1191.pubmed

コメント
日本が経済成長とその後の経済危機に直面した1980年から2005年にかけての,中年期男性の職業別死亡率,なかでも自殺による死亡率の推移を詳細に分析した疫学研究である。その結果,2000年以降の管理・専門職,とりわけ管理職の自殺率が急激に増加していることが明らかにされた。国の性別・年齢別の記述的な統計学から推察された結果を職業別に統計モデルを適用した分析を行った点にその価値がある。2009年に統計法が全面改正されたことから,政府の統計データの利用促進が期待されているが,本研究はその好例といえる。
(編集委員 磯 博康)
目的
近年,日本人男性の平均余命の延伸は女性にくらべて低迷しているが,この背景として,景気後退にともなう失業率の悪化,非正規雇用の増加や所得格差といった急激な労働環境の変化の影響が指摘されており,とくに1998年以降の男性の自殺率の高さには注視すべきである。そこで,日本が著しい経済成長に続いて深刻な戦後経済危機を経験した1980~2005年の期間において,30~59歳男性の職業別の全死亡率,死因別死亡率の推移を調査した。
コホート
人口動態統計(厚生労働省)の職業別死亡データ,および国勢調査の職業別人口データから,1980~2005年(5年ごと)における30~59歳の日本人男性の全死亡率および死因別死亡率を算出した(後ろ向きコホート研究)。

◇死因の分類: 以下の5つとした。
  ・癌(胃癌,喉頭・気管・気管支・肺癌,大腸癌,肝臓癌)
  ・虚血性心疾患
  ・脳血管疾患
  ・不慮の外傷
  ・自殺
◇職業の分類: 国際標準職業分類による以下の4カテゴリーを用いた。
  ・専門職(技術職を含む)
  ・管理職
  ・その他(事務,営業・販売,サービス,保安,農業・漁業・林業,運輸・通信,生産・労務)
  ・非就業
結 果
◇ 職業別人口
日本の30~59歳の男性労働者人口の約1/3が,生産・労務職に従事していた。
男性労働者人口に占める各カテゴリーの割合の推移は以下のとおりであった。
  1980年:「専門職」7.4%,「管理職」8.2%,「その他」80.3%,「非就業」4.1%
  1985年:9.5%,6.3%,78.9%,5.3%
  1990年:10.6%,6.6%,78.4%,4.4%
  1995年:12.1%,6.7%,76.0%,5.2%
  2000年:13.2%,4.1%,75.7%,7.0%
  2005年:12.6%,3.2%,75.9%,8.3%

◇ 死亡率の推移
全死亡率,および死因別死亡率(10万人あたり,年齢調整)は以下のとおりで,2000年以降の自殺の急増を除いては,全体として大きく低下していた。
・全死亡率
  1980年:388.5,1985年:365.7,1990年:306.6,1995年:295.7,2000年:293.6,2005年:279.2
  1980~2005年にかけての年齢調整死亡率の絶対差:-109/10万人
・全癌死亡率
  144.5,121.4,116.1,106.9,100.3,102.4
  1980~2005年にかけての年齢調整死亡率の絶対差:-42/10万人
・虚血性心疾患死亡率
  43.9,40.4,38.4,30.8,30.5,32.3
  1980~2005年にかけての年齢調整死亡率の絶対差:-12/10万人
・脳血管疾患死亡率
  57.9,41.9,33.8,30.5,26.8,25.4
  1980~2005年にかけての年齢調整死亡率の絶対差:-33/10万人
・不慮の傷害による死亡率
  37.3,34.6,32.2,31.7,28.3,25.7
  1980~2005年にかけての年齢調整死亡率の絶対差:-12/10万人
・自殺による死亡率
  33.7,43.2,30.9,31.9,50.3,53.1
  1980~2005年にかけての年齢調整死亡率の絶対差:+19/10万人

◇ 職業別にみた死亡率の推移
職業のカテゴリー別に全死亡率(年齢調整)の推移をみると,「その他」では継続的な低下がみられる一方で,「管理職」および「専門職」では1990年代後半から増加がみられた。なお,「その他」の内訳をみると,1980年から1995年にかけてとくに全死亡率の低下度が大きかったのは,販売,事務,生産・労務職であった。

職業のカテゴリー別に死因別死亡率(年齢調整)の推移をみると,全癌死亡,虚血性心疾患死亡,脳血管疾患死亡,不慮の傷害による死亡については,ほぼ全死亡率と同様の傾向がみられた。
しかし,自殺による死亡率(年齢調整)はいずれの職業カテゴリーでも増加傾向を示しており,1980~2005年にかけての増加率は「管理職」でもっとも高く,271%であった。「その他」の内訳をみると,増加率が高かったのは保安138%,サービス95%であり,販売,事務,生産・労務職では自殺による死亡率の増加はみとめられなかった。

一般化推定方程式モデルにより, 2000年前後に死亡率に大きな変化があったかどうかを職種(専門職+管理職,それ以外)ごとに検討すると,「専門職+管理職」では,「それ以外」に比した2000年以降の全死亡率が,2000年を境に増加していた。また,自殺による死亡率については,職種を問わず2000年を境に増加していたが,とくに「専門職+管理職」で増加幅が大きかった。
2000年前後の,「管理職+専門職」の「それ以外」に対する全死亡および死因別死亡リスク(年齢調整)は以下のとおりで,2000年より前は「管理職+専門職」のリスクが有意に低かった(虚血性心疾患死亡を除く)のに対し,2000年以降は,逆に「管理職+専門職」の全死亡および全癌死亡のリスクが有意に高くなり,脳血管疾患死亡と自殺による死亡についても,「それ以外」と同等となった。
  全死亡:1995年以前 0.70(95%信頼区間0.63-0.76)*,2000年以降 1.18(1.07-1.31)*
  全癌死亡:0.82(0.78-0.95)*,1.52(1.29-1.80)*
  虚血性心疾患死亡:0.77(0.59-1.01),1.19(0.89-1.59)
  脳血管疾患死亡:0.63(0.50-0.80)*,1.08(0.84-1.40)
  不慮の外傷による死亡:0.54(0.40-0.75)*,0.84(0.61-1.18)
  自殺による死亡:0.61(0.45-0.84)*,1.03(0.73-1.45)
  *P<0.05

職業間でみられる死亡率の差の大きさについて,経時的な推移を調べたところ,いずれの死因についても,職業間の差は経時的に大きくなる傾向であった(非就業者を除いた解析)。ただし,非就業者を含めた解析では,自殺による死亡率の職業間の差は経時的に小さくなっていた。

◇ 結論
日本の職業別人口動態統計および国勢調査による1980~2005年のデータを用い,30~59歳男性における死因別死亡リスクの経時的な推移を職業ごとに検討した。その結果,景気が低迷しはじめた2000年以降,管理・専門職の死亡リスクが,それ以外のカテゴリーの死亡リスクより高くなるなど,職業別の全死亡・死因別死亡パターンは劇的な変化を示した。管理・専門職の人においては,仕事量の増加やストレスなどの影響が懸念された。以上より,景気の悪化はさまざまな労働者層の健康状況に複雑な影響を与えると考えられ,迅速な自殺予防対策の必要性が示唆された。


監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康

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