[2013年文献] 各脂肪酸の血中濃度と虚血性脳卒中,アテローム血栓性脳梗塞,ラクナ梗塞との関連(WHI Observational Study)

Yaemsiri S, et al. Serum fatty acids and incidence of ischemic stroke among postmenopausal women. Stroke. 2013; 44: 2710-7.pubmed

コメント
閉経後女性を対象に,血中の脂肪酸構成割合と脳卒中発症リスクとの関連を検討した大規模なコホート研究である。虚血性脳卒中リスクの関連因子として,トランス脂肪酸,飽和脂肪酸,一価不飽和脂肪酸が促進因子として,またn-3系多価不飽和脂肪酸やn-6系多価不飽和脂肪酸が抑制因子として抽出された。これらの成績は,これまでの疫学研究の結果と符合するとともに,16万人という大規模な研究の長所を生かして包括的な分析をなしえたという点で意義が大きい。
編集委員・磯 博康
目的
これまでの疫学研究では,血清脂肪酸と虚血性脳卒中との関連について一貫した結果が得られていない。その理由として,虚血性脳卒中の病型ごとに脂質との関連が異なっている可能性や,虚血性脳卒中に対する影響が個々の脂肪酸で異なる可能性などが指摘されている。そこで,閉経後女性を対象とした米国の大規模コホートにおけるコホート内症例対照研究により,25種類の脂肪酸の血清中濃度と虚血性脳卒中,ならびにその各病型のリスクとの関連について,「トランス脂肪酸・飽和脂肪酸はアテローム血栓性梗塞と正の関連を示し,一価不飽和脂肪酸・多価不飽和脂肪酸は負の関連を示す」という仮説のもとに検討を行った。
コホート
Women’s Health Initiative Observational Study(WHI-OS): Women’s Health Initiative(WHI: 閉経後の女性の死亡・障害・QOL低下の原因となる心血管疾患や癌,骨粗鬆症などについて検討することを目的に,50~79歳の健康な閉経後女性16万1808人を対象に米国の40施設で実施)の一部として実施された観察研究で,1993年10月~1998年12月に,臨床試験(68132人)に参加不可能または参加を希望しなかった93676人を登録した。
今回の解析対象は,2003年までの追跡期間中に確認された虚血性脳卒中発症者972人,ならびに1:1で年齢,人種・民族などをマッチさせた対照のうち,血液検体の状態が不良であった9人を除外した症例964人と対照964人。
参考: http://www.nhlbi.nih.gov/whi/index.html

以下の25種類の血清脂肪酸濃度を測定した(t: トランス脂肪酸)。
14:0(ミリスチン酸)/15:0(ペンタン酸)/16:0(パルミチン酸)/16:1n7(7-ヘキサデセン酸)/16:1t(パルミトエライジン酸)/17:0(マルガリン酸)/18:0(ステアリン酸)/18:1n7(バクセン酸)/18:1n9(オレイン酸)/18:1t/18:2n6(リノール酸)/18:2t(リノエライジン酸)/18:3n3(α-リノレン酸)/18:3n6(γ-リノレン酸)/20:1n9(エイコセン酸)/20:2n6(エイコサジエン酸)/20:3n6(ジホモ-γ-リノレン酸)/20:4n3(エイコサテトラエン酸)/20:4n6(アラキドン酸)/20:5n3(エイコサペンタエン酸[EPA])/22:4n6(アドレン酸)/22:5n3(ドコサペンタエン酸[DPA])/22:5n6/22:6n3(ドコサヘキサエン酸[DHA])/24: 1n9(ネルボン酸)
結 果
◇ 対象背景
虚血性脳卒中発症者964人の病型の内訳は,アテローム血栓性脳梗塞96人,ラクナ梗塞250人,心原性脳塞栓209人,その他の虚血性脳卒中42人,病型不明が366人,病型の情報なしが1人であった。

虚血性脳卒中発症者のベースライン時の平均年齢は68.7歳で,人種・民族は黒人8%,ネイティブアメリカン1%,アジア系2%,ヒスパニック2%,白人86%,その他1%。
発症者と対照のおもな対象背景は以下のとおりで(* P≦0.05),発症者では対照にくらべBMIが高く,喫煙者や糖尿病の割合が高かった。
血圧*(症例137 / 75,対照130 / 74 mmHg),BMI*(27.7,27.0 kg/m2),喫煙率*(現在8%,4%; 過去39%,42%; 未経験53%,55%),総コレステロール(233,231 mg/dL),HDL-C*(57,60 mg/dL),LDL-C(141,139 mg/dL),トリグリセリド*(180,161 mg/dL),総コレステロール/HDL-C比*(4.4,4.2),高血圧*(67%,47%),糖尿病*(16%,7%),心房細動*(10%,6%),狭心症*(9%,6%),冠動脈血行再建術既往*(4%,1%),アスピリン*(31%,25%),降圧薬*(47%,33%),脂質低下薬(19%,16%),スタチン(10%,9%),ホルモン補充療法(40%,38%)

◇ 虚血性脳卒中発症者と対照の血清脂肪酸分布
血清脂肪酸全体に占める割合が高かった(中央値5%超)のは,発症者,対照とも,リノール酸(27%),パルミチン酸(24%),オレイン酸(18%),ステアリン酸(9%),アラキドン酸(8%)であった。

発症者で,対照に比して血清脂肪酸全体に占める割合が有意に高かったのは,飽和脂肪酸であるパルミチン酸とミリスチン酸,一価不飽和脂肪酸であるオレイン酸と7-ヘキサデセン酸,トランス脂肪酸である18:1tとリノエライジン酸であった。
一方,発症者で有意に低かったのは,5つのn-3系多価不飽和脂肪酸(α-リノレン酸,エイコサテトラエン酸,EPA,DPA,DHA),n-6系多価不飽和脂肪酸であるリノール酸とアラキドン酸と22:5n6であった。

◇ 血清脂肪酸と虚血性脳卒中
多変量解析において,全虚血性脳卒中のリスクと有意な正の関連を示していたのは以下の3つであった(年齢,人種・民族,BMI,喫煙状況,糖尿病,アスピリン服用により調整)。
  リノエライジン酸(トランス脂肪酸): オッズ比1.38,99.9%信頼区間1.05-1.83
  パルミチン酸(飽和脂肪酸): 1.27,1.06-1.51
  オレイン酸(一価不飽和脂肪酸): 1.20,1.01-1.43

一方,全虚血性脳卒中のリスクと有意な負の関連を示していたのは以下の3つであった。
  DPA(n-3系多価不飽和脂肪酸): 0.72,0.59-0.87
  DHA(n-3系多価不飽和脂肪酸): 0.72,0.59-0.87
  アラキドン酸(n-6系多価不飽和脂肪酸): 0.81,0.67-0.98

これらの結果は,さらに血圧,血清コレステロール値,身体活動,狭心症,心房細動および冠動脈血行再建術により調整を行っても大きく変わらなかった。

◇ 血清脂肪酸と虚血性脳卒中の各病型
全虚血性脳卒中リスクと有意な関連がみられた6つの脂肪酸について,多変量解析を用いて虚血性脳卒中の各病型のリスクとの関連を検討した(年齢,人種・民族,BMI,喫煙状況,糖尿病,アスピリン服用により調整)。

その結果,いずれの脂肪酸についても,アテローム血栓性脳梗塞,ラクナ梗塞,病型不明との関連は,全虚血性脳卒中との関連とほぼ同様であった。ただし,パルミチン酸とアテローム血栓性脳梗塞との有意な関連はみられなかった。
さらに血圧による調整を加えると,各脂肪酸とラクナ梗塞との関連は弱められたが,アテローム血栓性脳梗塞との関連は変わらなかった。また,さらに血清コレステロール値による調整を加えると,各脂肪酸とラクナ梗塞,ならびにアテローム血栓性脳梗塞との関連は弱められた。

心原性脳塞栓と有意な負の関連を示したのはDHAのみ。


◇ 結論
25の脂肪酸の血清中濃度と虚血性脳卒中,ならびにその各病型のリスクとの関連について,閉経後女性を対象とした米国の大規模なコホート内症例対照研究による検討を行った。その結果,虚血性脳卒中と有意な正の関連を示していたのはリノエライジン酸(トランス脂肪酸),パルミチン酸(飽和脂肪酸),およびオレイン酸(一価不飽和脂肪酸)で,有意な負の関連を示していたのはドコサペンタエン酸,ドコサヘキサエン酸(DHA)(いずれもn-3系多価不飽和脂肪酸),およびアラキドン酸(n-6系多価不飽和脂肪酸)であった。虚血性脳卒中の病型別にみると,アテローム血栓性脳梗塞とラクナ梗塞については,これらとほぼ同様の関連がみとめられた。アテローム血栓性脳梗塞,ラクナ梗塞,心原性脳塞栓,病型不明のいずれとも有意な負の関連を示していたのはDHAのみであった。


監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康

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