[2013年文献] 高血圧罹病期間が長いほど,抗血管新生ペプチドであるエンドスタチンの血清値が高い(PIVUS+ULSAM)

Carlsson AC, et al. Association between circulating endostatin, hypertension duration, and hypertensive target-organ damage. Hypertension. 2013; 62: 1146-51.pubmed

コメント
抗血管新生ペプチドとして注目されているエンドスタチンの血中濃度と高血圧罹病期間との関連について,コホート研究データを用いて,後ろ向き解析ならびに断面解析を行った研究である。その結果,エンドスタチン値は高血圧の罹病期間が長いほど高値であること,また腎機能低下があると高値であることも示された。この現象が,生体の代償作用によるものなのかどうか,また高血圧者においてエンドスタチン値が予後予測に有効な指標であるかなどについて,今後の検討がまたれる。
編集委員・磯 博康
目的
エンドスタチンは,高血圧性標的臓器障害の病態生理の鍵を握る細胞外マトリックスの代謝回転(turnover)やリモデリングを反映するとされるマーカーの一つで,XVIII型コラーゲン(高血圧にともなって血管,心臓および腎臓組織で増加する)のC末端ドメインの加水分解により生じる。エンドスタチンは,血管新生を内因性に阻害するペプチドとして癌領域で注目されているが,心血管疾患における意義は明らかになっていない。そこで,「高血圧への曝露期間が長いほど細胞外マトリクスのリモデリングが進展し,それを反映して血清エンドスタチン濃度が上昇する」という仮説を検証するため,高齢の一般住民を対象とした2つのコホート研究のデータを用いて,(1)高血圧罹病期間と血清エンドスタチン値との関連(後ろ向き解析),ならびに(2)血清エンドスタチン値と高血圧性標的臓器障害(血管,心臓,腎臓)との関連(断面解析)について検討した。
コホート
Prospective Investigation of the Vasculature in Uppsala Seniors(PIVUS: スウェーデン・ウプサラに居住する高齢男女を対象としたコホート研究),およびUppsala Longitudinal Study of Adult Men(ULSAM: 1970年に開始され,スウェーデン・ウプサラに居住する中年男性を対象としたコホート研究)。

・PIVUS: 2001~2004年にウプサラに居住していた70歳の男女で,研究に同意のうえ第1回健診(2001~2004年,受診時年齢70歳)ならびに第2回健診(2006~2009年,受診時年齢75歳前後)を受診した827人のうち,エンドスタチンのデータに不備のあった15人を除外した812人。
高血圧罹病期間については,第2回健診をベースラインとし,第1回健診時の血圧値と降圧薬服用状況を用いてレトロスペクティブに調査した。高血圧性標的臓器障害に関する検討のうち,左室心筋重量および内皮機能依存性血管拡張反応*については,第1回健診受診者を対象とし,尿中アルブミン/クレアチニン比については第2回健診受診者を対象とした。
*ストレインゲージ式プレチスモグラフィ(血管の容積変化を観血的に評価する)で測定した前腕血流量を用い,以下の式により算出した。
内皮機能依存性血管拡張(%)=(アセチルコリン静注中の前腕血流量-安静時の前腕血流量)/安静時血流量

・ULSAM: 1920~24年に出生し,1970年の研究開始時にウプサラに居住していた50歳の男性で,研究に同意のうえ1998~2001年の第4回健診(受診時年齢77歳前後)を受診した838人のうち,エンドスタチンのデータに不備のあった53人を除外した785人。
高血圧罹病期間については,第4回健診をベースラインとし,その6・17・27年前に実施された健診の結果を用いてレトロスペクティブに調査した。また,第4回健診受診者を対象に,高血圧性標的臓器障害として尿中アルブミン/クレアチニン比を調査した。
結 果
◇ 対象背景
PIVUS,ULSAMにおけるおもな対象背景はそれぞれ以下のとおり。
年齢: 75.3歳,77.6歳,女性: 51%,0%,BMI: 26.8,26.3 kg/m2,総コレステロール: 208,208 mg/dL,HDL-C: 58,50 mg/dL,空腹時血糖: 94,106 mg/dL,収縮期血圧: 149,151 mmHg,血清エンドスタチン: 60±27,55±18 ng/mL,糸球体濾過量: 68,73 mL/min/1.73 m2,喫煙率: 50%,59%,糖尿病: 14%,14%,心血管疾患既往: 20%,27%

◇ 高血圧罹病期間と血清エンドスタチン値
(1)PIVUS
高血圧罹病期間ごとの血清エンドスタチン値,ならびに血清エンドスタチン値の1 SD増加に対する回帰係数(β)(多変量調整後)は以下のとおりで,罹病期間が5年を超える高血圧では,罹病なしに比してエンドスタチン値が有意に高くなっていたが,5年以下の高血圧では有意差はみられなかった。
年齢,糖尿病,喫煙,BMI,総コレステロール,HDL-C,脂質低下薬治療,心血管疾患,身体活動,糸球体濾過量で調整)
  正常血圧(罹病なし): 53 ng/mL,対照
  高血圧(0~5年): 55 ng/mL,0.08(95%信頼区間-0.15-0.30),P=0.50
  高血圧(>5年): 62 ng/mL,0.25(0.08-0.42),P=0.005

また,第2回健診時に質問票で自己申告された高血圧罹病期間(最高42年間)を用いた解析を行った結果,罹病期間が1年長くなるほど,第2回健診時の血清エンドスタチン値が0.01 SD(95%信頼区間0.001-0.02)有意に高くなることが示された(P=0.03)。

第1回・第2回健診時のいずれでも正常血圧だった人(持続正常血圧)といずれでも高血圧だった人(持続高血圧)とのあいだで,第1回から第2回健診時にかけての血清エンドスタチン値の増加幅を比較した結果,持続高血圧の人では+14.0 ng/mLと,持続正常血圧の人(+9.0 ng/mL)に比して有意に増加幅が大きかった(P=0.005)。

(2)ULSAM
高血圧罹病期間ごとの血清エンドスタチン値,ならびに血清エンドスタチン値の1 SD増加に対する回帰係数(β)(多変量調整後)は以下のとおりで,罹病期間が17~27年および27年を超える高血圧において,エンドスタチン値が有意に高かった。
  正常血圧(罹病なし): 48 ng/mL,対照
  高血圧(0~6年): 56 ng/mL,0.20(95%信頼区間-0.03-0.43),P=0.09
  高血圧(7~16年): 54 ng/mL,0.17(-0.03-0.38),P=0.10
  高血圧(17~27年): 57 ng/mL,0.31(0.09-0.53),P=0.005
  高血圧(>27年): 57 ng/mL,0.30(0.11-0.50),P=0.003
  
◇ 血清エンドスタチン値と高血圧性標的臓器障害
(1)血管
PIVUSの第1回健診時に高血圧だった人における血清エンドスタチン値の平均値(±SD)は48±14 ng/mLで,内皮機能依存性血管拡張反応は514%±298%であった。
内皮機能依存性血管拡張反応の1 SD増加ごとに,血清エンドスタチン値の1 SD増加に対する回帰係数(β)(年齢・性により調整)は有意に低下したが,多変量調整を行うと有意な関連は消失した。
年齢,性,糖尿病,喫煙,BMI,総コレステロール,HDL-C,脂質低下薬治療,心血管疾患,身体活動,高血圧罹病期間で調整)

(2)心臓
PIVUSの第1回健診時に高血圧だった人における左室心筋重量係数は46±13 g/m2であった。
左室心筋重量の1 SD増加ごとに,血清エンドスタチン値の1 SD増加に対する回帰係数(β)(年齢・性により調整)は有意に大きくなっていたが,多変量調整を行うと有意な関連は消失した(β係数0.06,95%信頼区間-0.02-0.15,P=0.144)。

(3)腎臓
PIVUSの第2回健診時に高血圧だった人における尿中アルブミン/クレアチニン比は7±30 mg/μmolで,ULSAMの第4回健診時に高血圧だった人では5±21 mg/μmolであった。
PIVUSでは,尿中アルブミン/クレアチニン比の1 SD増加ごとに,血清エンドスタチン値の1 SD増加に対する回帰係数(β)(年齢・性により調整)は有意に大きくなっており,これは多変量調整後も同様であった(β係数0.13,95%信頼区間0.05-0.22,P=0.0002)。また,ULSAMでも同様の結果が得られた(0.21,0.13-0.29,P<0.0001)。


◇ 結論
高齢の一般住民を対象とした2つのコホート研究のデータを用いて,血管や臓器のリモデリングを反映するとされる抗血管新生ペプチドであるエンドスタチンと高血圧罹病期間,ならびに高血圧性標的臓器障害との関連を検討した。その結果,高血圧罹病期間が長いほどエンドスタチン値が有意に高いこと,また,エンドスタチン値が腎機能低下と有意に関連することが示された。今後,これらの背景にあるメカニズムの解明とともに,高血圧患者におけるエンドスタチンの予後予測能の評価が期待される。


監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康

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