[2014年文献] 継続的に多量飲酒する男性では認知機能の低下が早い(Whitehall II Study)

Sabia S, et al. Alcohol consumption and cognitive decline in early old age. Neurology. 2014; 82: 332-9.pubmed

コメント
英国ロンドン勤務の35~55歳の公務員男女を対象としたコホート研究において,アルコール摂取状況の調査(5~6年間隔で3回)と,その後約10年間にわたっての認知機能(記憶力および実行機能)の調査(3回)が行われた。その結果,壮年~中年期において継続的に1日36 g(日本酒1合半に相当)以上のアルコールを摂取していた男性では,摂取量の少ない継続定期飲酒者にくらべて認知機能がより早く低下していたことが示された。現在の日本人の壮年~中年男性のアルコール摂取状況を鑑みると,認知機能低下への影響は無視できないと判断される。日本人における同様の検討が望まれる。
編集委員・磯 博康
目的
アルコールの不適切な摂取は,さまざまな疾患発症や死亡の原因となる。一方,少量~中程度の摂取であれば,認知症のリスク低下と関連することがこれまでに示されているが,加齢に伴う認知機能の変化に対し,アルコールがどのような影響を及ぼすかはまだ明らかになっていない。その背景として,高齢者を対象とした研究では健康上の理由がアルコール摂取量に影響する場合が多いこと,年齢とともに飲酒者数が減少し解析が難しくなること,長期間・複数回の調査による正確なアルコール摂取状況の評価が行われていないことなどが挙げられる。そこで,英国の公務員を対象としたコホート研究において,壮年~中年期のアルコール摂取状況について約10年間にわたる3回の評価を行い,その後の認知機能低下との関連を長期的に検討した。
コホート
Whitehall II Study。
英国・ロンドンで勤務している35~55歳の公務員で,1985~88年に実施された健診を受診した10308人のうち,1991~93年および1997~99年に実施された健診も含めた計3回のアルコール摂取状況調査を完了した7356人を追跡。このうち,1997~99年(44~69歳時),2002~04年(50~74歳時),2007~09年(55~80歳時)に実施された認知機能検査を1回以上受けた7153人(男性5054人,女性2099人)を解析の対象とした。追跡期間は最大10年間。

◇ 飲酒状況の評価
約10年間にわたる3回のアルコール摂取状況調査の結果をもとに,3回とも「直前1年間の飲酒なし」と回答した人を『非飲酒者』,1985~88年,1991~93年のいずれかまたは両方の調査で「直前1年間に飲酒した」と回答したが1997~99年の調査では「直前1年間の飲酒なし」と回答した人を『禁酒者』,3回とも「直前の1年間に飲酒したが直前1週間の飲酒はなし」と回答した人を『不定期飲酒者』,それ以外を『定期飲酒者』(さらに1日あたりアルコール摂取量(g)の10・30・50・70・90パーセンタイル値により6つのカテゴリーに分類)とした。ただし定期飲酒者については,予備解析において男女とも10・30・50パーセンタイル値によるカテゴリー間では認知機能低下度に差がみられなかったことから,これらを1つにまとめ,以下の6つのカテゴリーによる解析を行った。
  非飲酒者: 男性97人,女性89人
  禁酒者: 78人,70人
  継続不定期飲酒者: 110人,152人
  継続定期飲酒者(男性0.1~19.9 g/日,女性0.1~9.9 g/日): 3358人,1262人
  継続定期飲酒者(20.0~35.9 g/日,10.0~18.9 g/日): 942人,354人
  継続定期飲酒者(36 g/日以上,19 g/日以上): 469人,172人

◇ 認知機能の評価
1997~99年(44~69歳時),2002~04年(50~74歳時),2007~09年(55~80歳時)に,記憶力および実行機能に関する以下の4つのテストを実施。それぞれのスコアについて,1997~99年時のテスト結果における平均値を0,標準偏差を1とした標準化を行い(zスコア),4つのzスコアの平均値をその人の認知機能スコア(global cognitive score)とした。

・記憶力
(1)短期言語記憶: 2秒おきに口述された20の単語(1~2音節)を記憶し,2分後にどれだけ紙に書き出せるかを評価。
・実行機能
(2)論理的思考力: 65の数理・言語項目で構成されるAlice Heim 4-Iテスト(10分間,だんだん難しくなる)により評価。
(3)言語流暢性(音素[phonemic]): 「s」を含む単語を1分間にどれだけ列挙できるかを評価。
(4)言語流暢性(意味): 動物の名前を1分間にどれだけ列挙できるかを評価。
結 果
◇ 対象背景
1997~99年の健診(認知機能に関する追跡開始時)における対象背景をみると,直前10年間のアルコール摂取状況は男女で異なる傾向を示しており,女性では非飲酒者・禁酒者・継続不定期飲酒者の割合があわせて14.7%と,男性(5.6%)にくらべて高かった。
摂取の頻度はその人のアルコール摂取量との関連が強く,たとえば1985~88年および1997~99年の健診において,毎日またはほぼ毎日アルコールを摂取していたのは,1日あたり36 g以上摂取する継続定期飲酒者の男性でみるとそれぞれ95.1%および96.0%であったが,1日あたり0.1~19.9 g摂取する継続定期飲酒者の男性でみるとそれぞれ18.7%および38.5%であった。同様に,毎日またはほぼ毎日アルコールを摂取していたのは,1日あたり19 g以上摂取する継続定期飲酒者の女性でみるとそれぞれ87.4%および92.6%であったが,1日あたり0.1~9.9 g摂取する継続定期飲酒者の女性でみるとそれぞれ8.4%および18.8%であった。

◇ 約10年間の認知機能の変化
追跡開始から約10年間の認知機能スコアの低下度(95%信頼区間)は以下のとおり。
・男性
  認知機能スコア: -0.42(-0.44--0.40)
  記憶力スコア: -0.28(-0.31--0.25)
  実行機能スコア: -0.39(-0.41--0.37)
・女性
  認知機能スコア: -0.39(-0.42--0.37)
  記憶力スコア: -0.25(-0.30--0.20)
  実行機能スコア: -0.38(-0.40--0.35)

◇ アルコール摂取状況と認知機能低下度
アルコール摂取状況のカテゴリーごとにみた,追跡開始から約10年間の認知機能スコアの低下度†(対照: 少量~中程度の継続定期飲酒者)は以下のとおり(†年齢,人種,教育年数,職場での地位,婚姻状況,喫煙歴,身体活動時間,野菜と果物の摂取頻度,追跡年数,ならびに各因子と時間との相互作用項[interaction term]により調整)。
男性では,36 g/日以上の継続定期飲酒者の認知機能スコア低下度が有意に大きく(コホート全体にくらべて2.4年早く機能低下が進んだことに相当),記憶力スコアと実行機能スコアのいずれも低下度が有意に大きかった(それぞれ1.5年,5.7年早く機能低下が進んだことに相当)。
一方,女性では,非飲酒者において認知機能スコアの低下度が有意に大きく(コホート全体にくらべて約5年早く機能低下が進んだことに相当),実行機能スコアについても低下度が有意に大きかった。19 g/日以上の継続定期飲酒者でも認知機能スコアの低下が大きかったが(コホート全体にくらべて2.4年早く機能低下が進んだことに相当),対照との有意な差はみられなかった(P=0.09)。

・男性
  非飲酒者: -0.01(95%信頼区間-0.14-0.12)
  禁酒者: -0.01(-0.16-0.14)
  不定期飲酒者: -0.02(-0.14-0.10)
  定期飲酒者(0.1~19.9 g/日): 0.00(対照)
  定期飲酒者(20.0~35.9 g/日): 0.01(-0.04-0.05)
  定期飲酒者(36 g/日以上): -0.10(-0.16--0.04),P<0.005
・女性
  非飲酒者: -0.21(-0.37--0.04),P<0.05
  禁酒者: -0.09(-0.27-0.09)
  不定期飲酒者: -0.03(-0.15-0.09)
  定期飲酒者(0.1~9.9 g/日): 0.00(対照)
  定期飲酒者(10.0~18.9 g/日): -0.07(-0.15-0.01)
  定期飲酒者(19 g/日以上): -0.04(-0.15-0.08)

これらの関連は,調整因子にアルコールの種類(ビール/ワイン/蒸留酒)を加えても変わらず,アルコールの種類が認知機能低下に影響するわけではないことが示唆された。一方,調整因子に糖尿病・高血圧・心血管疾患および抑うつ症状の既往の有無を加えると,関連はやや弱くなった。
アルコール摂取状況と認知機能低下度との関連に対する年齢の影響は,男女とも有意ではなかった。

◇ 男性におけるアルコールの種類別摂取状況と認知機能低下度
男性において,アルコールの種類(ビール/ワイン/蒸留酒)別に,摂取量と認知機能低下度との関連をみると,蒸留酒の摂取量が多い人における認知機能スコアの有意な低下がみとめられ,1日4.0~7.9 g摂取する人の認知機能スコア低下度(vs. 蒸留酒を摂取しない人)は-0.08(95%信頼区間-0.14--0.02,P<0.05),1日8.0 g以上摂取する人の低下度は-0.10(-0.16--0.03,P<0.05)であった。ビールとワインについては,摂取量と認知機能低下度との関連はみられなかった。


◇ 結論
英国の若年の公務員を対象としたコホート研究において,長期的かつ複数回にわたって評価したアルコール摂取状況と,その後の認知機能低下との関連を分析した。その結果,継続的に1日36 g以上のアルコールを摂取していた定期飲酒者の男性では,それよりも摂取量の少ない継続定期飲酒者にくらべて認知機能スコア,実行機能スコアならびに記憶力スコアがより早く低下しており,女性でも19 g/日以上のアルコールを摂取していた定期飲酒者において,有意ではないが同様の関連がみとめられた。以上のことから,少なくとも男性において,加齢に伴う認知機能の変化に対し,アルコール摂取は中程度までなら問題とならないものの,多量の場合は有害な影響を及ぼすことが示唆された。


監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康

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