[2014年文献] 呼吸機能低下や気流閉塞のある人は心房細動リスクが高い(ARIC)

Li J, et al. Airflow obstruction, lung function, and incidence of atrial fibrillation: the Atherosclerosis Risk in Communities (ARIC) study. Circulation. 2014; 129: 971-80.pubmed

コメント
心房細動は,日本人に多い脳梗塞の重要な危険因子である。米国のコホートにおいて,1秒量(FEV1)の低下が心房細動のリスク上昇と関連することが示された点で,注目すべき研究といえる。この研究では,アジア人での検討は人数が少ないために行われておらず,今後,日本人における検討が望まれる。
編集委員・磯 博康
目的
臨床現場では,心房細動と慢性閉塞性肺疾患(COPD)の合併はよくみられ,また呼吸機能の低下は,冠動脈疾患や心不全など心房細動の危険因子となる疾患や,心房細動に伴って発症する脳卒中の危険因子でもある。これらのことから,呼吸機能の低下と心房細動発症リスクが関連している可能性が示唆され,とくに重要な交絡因子である喫煙を含めた検討が求められる。そこで米国の大規模前向きコホート研究において,呼吸機能障害(1秒量や気流閉塞の有無で評価)と心房細動発症リスクとの関連について,性・人種・喫煙状況別の解析も含めた詳細な検討を行った。
コホート
Atherosclerosis Risk in Communities Study(ARIC)。
第1回健診(1987~89年)を受診した,4コホート(メリーランド州ワシントン郡,ミネソタ州ミネアポリス郊外,ノースカロライナ州フォーサイス郡,ミシシッピ州ジャクソン)の45~64歳の15792人のうち,心電図データに不備のある85人,心房細動の有無が判別不可の225人,心房細動または心房粗動を呈した37人,呼吸機能のデータに不備のある116人,黒人・白人以外の47人,座高や喫煙状況,喫煙量など重要な交絡因子のデータに不備のある278人を除外した15004人(女性55.1%,黒人26.2%,平均年齢54歳)を,2008年まで平均17.5年間追跡。

呼吸機能については,健診時のスパイロメトリー検査における努力性肺活量(forced vital capacity: FVC)および1秒量(forced expiratory volume in 1 second: FEV1[1秒間に吐き出せる息の量])により評価した。気流閉塞の診断には,肺気腫/気管支炎/喘息の既往歴(自己申告),またはスパイロメトリー検査(1秒率[FEV1/FVC]<70%)を用いた。

心房細動の発症については,追跡健診(3年間隔)や死亡診断書,病院の退院時・死亡時記録を用いて調査した。
結 果
◇ 対象背景
1秒量(FEV1)の四分位間で比較すると,FEV1が低いほど高値を示していたのは年齢,喫煙率,BMIおよび炎症マーカーの値で,FEV1が低いほど低値を示していたのは座高および教育年数。

◇ 呼吸機能と心房細動リスク
追跡期間中に心房細動を発症したのは1691人(11.3%)。
性や人種を問わず,発症者では非発症者にくらべてベースラインのFEV1や努力性肺活量(FVC)が低値であった。

FEV1の四分位(Q1: もっとも低い,Q4: もっとも高い)ごとの心房細動発症の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおりで,性・人種を問わず,FEV1がもっとも低いグループでは有意なリスク増加がみられた(年齢,座高,座高の2乗,喫煙状況,喫煙量,BMI,教育歴,コホート,白血球数,フィブリノーゲン値,アルブミン値,プロテインC値およびフォン・ビルブランド因子値を調整)。

[白人男性]Q1: 1.49(1.16-1.91),Q2: 0.99(0.78-1.27),Q3: 1.09(0.86-1.37),Q4: 1(対照)
[黒人男性]2.36(1.30-4.29),1.53(0.86-2.71),0.81(0.44-1.51),1
[白人女性]1.37(1.02-1.83),0.93(0.70-1.24),0.97(0.73-1.28),1
[黒人女性]1.63(1.00-2.66),1.12(0.69-1.84)1.10(0.67-1.80),1

FVCの四分位を用いた検討でも同様の傾向がみとめられたが,心血管危険因子や炎症マーカーなどで調整すると有意な関連は消失した。

◇ 喫煙状況による層別化解析
喫煙状況(現在喫煙者3868人/禁煙者4777人/喫煙未経験者6359人)別にみた,FEV1の四分位ごとの心房細動発症の多変量調整ハザード比は以下のとおりで,喫煙未経験者でも,性・人種を問わず,FEV1が低いほどリスクが有意に高かった(白人の男性を除く)。Q4に対するQ1のハザード比は,白人にくらべ黒人で大きかった。
年齢,座高,座高の2乗,喫煙量[禁煙者と現在喫煙者のみ]により調整)

[白人男性]
 現在喫煙 Q1: 1.89(1.11-3.24),1.09(0.63-1.89),1.06(0.60-1.89),1(P for trend=0.001)
 禁煙 1.89(1.34-2.66),1.28(0.91-1.80),1.36(0.99-1.86),1(P for trend=0.001)
 喫煙未経験 1.70(1.03-2.79),1.06(0.68-1.67),1.04(0.68-1.58),1(P for trend=0.066)

[黒人男性]
 現在喫煙 2.17(0.95-4.93),1.35(0.59-3.09),0.63(0.23-1.67),1(P for trend=0.025)
 禁煙 2.31(0.80-6.63),1.23(0.44-3.40),0.81(0.27-2.46),1(P for trend=0.046)
 喫煙未経験 5.04(1.50-16.95),4.28(1.47-12.44),1.82(0.63-5.30),1(P for trend=0.003)

[白人女性]
 現在喫煙 2.81(1.35-5.86),1.32(0.61-2.87),1.93(0.90-4.14),1(P for trend=0.001)
 禁煙 1.39(0.80-2.44),0.98(0.57-1.69),0.71(0.41-1.23),1(P for trend=0.056)
 喫煙未経験 1.83(1.22-2.75),1.23(0.84-1.80),1.10(0.76-1.59),1(P for trend=0.003)

[黒人女性]
 現在喫煙 2.02(0.77-5.27),1.86(0.75-4.62),1.17(0.44-3.11),1(P for trend=0.107)
 禁煙 2.41(0.61-9.48),1.78(0.43-7.42),2.24(0.60-8.40),1(P for trend=0.352)
 喫煙未経験 2.51(1.36-4.63),1.10(0.57-2.12),1.07(0.56-2.02),1(P for trend=0.001)

◇ 気流閉塞と心房細動
スパイロメトリー検査でみた気流閉塞(1秒率[FEV1/FVC]<70%)のある人では,ない人にくらべて心房細動発症の多変量調整ハザード比が有意に高かった。ハザード比を性・人種別にみると,白人男性では1.37(95%信頼区間1.17-1.60),黒人男性では1.69(1.13-2.55),白人女性では1.58(1.29-1.93),黒人女性では1.10(0.73-1.67)だった。
呼吸器疾患既往(肺気腫または喘息)と心房細動発症リスクについては,黒人男性でのみ有意な関連がみられた。


◇ 結論
米国の大規模前向きコホート研究において,呼吸機能障害(1秒量の低下や気流閉塞の有無で評価)と心房細動発症リスクとの関連を,性・人種・喫煙状況なども考慮して詳細に検討した。その結果,1秒量(FEV1)の低下は,性・人種・喫煙状況を問わず,心房細動発症リスクの増加と有意に関連することが示された。また,スパイロメトリー検査で評価した気流閉塞も心房細動発症リスクと関連した。心房細動は脳卒中や死亡のリスクを増加させる重要な疾患であり,呼吸機能が低下している人や気流閉塞をもつ人では,心房細動発症リスクが高いことへの注意が必要と考えられる。今後,呼吸機能低下と心房細動発症との関連の背景にあるメカニズムが解明され,新たな心房細動の予防策となることが期待される。


監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康

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