[2014年文献] 社会的なネットワークが小さい人では脳卒中発症リスクが高い(ARIC)

Nagayoshi M, et al. Social network, social support, and risk of incident stroke: atherosclerosis risk in communities study. Stroke. 2014; 45: 2868-73.pubmed

コメント
社会的ネットワークや社会的サポートと,脳卒中発症との関連をコホート研究により分析した,数少ない研究である。米国の白人および黒人1万3000人以上を約19年間追跡した結果,社会的ネットワークが小さい人では,大きい人にくらべて脳卒中発症率が約40%高かった。一方,社会的サポートと脳卒中発症リスクとのあいだには有意な関連はみられなかった。社会的ネットワークと脳卒中との関連は,その一部に疲労(vital exhaustion)が介在している可能性があるものの,既知の脳卒中危険因子とは独立していた。わが国においても,社会的ネットワークの大きさと脳卒中死亡リスクとの有意な負の関連が報告されている。脳卒中の発症や重症化の予防のために,このような社会的な要因も考慮する必要性を示唆する研究として意義深い。
編集委員・磯 博康
目的
これまでの研究により,社会的ネットワーク(他人との量的・質的な関係性の構造)が小さいこと,あるいは社会的サポート(他人との関係性により与えられる食事などの供給や機能のサポート)が得られないことと,冠動脈疾患や心不全の発症リスクとの関連が指摘されている。この背景には,行動的な要因(食事,喫煙,飲酒,身体活動など),生理学的な要因(高血圧,糖尿病,肥満,炎症など),およびこれらに影響を及ぼす精神的なストレス(抑うつ,孤独,疲労[vital exhaustion]など)が関与していると考えられるが,脳卒中との関連については検討が少ない。そこで,白人および黒人からなる米国の大規模前向きコホート研究において,社会的ネットワークが小さいこと,あるいは社会的サポートが得られないことと脳卒中発症リスクとの関連について,介在因子としての種々の行動要因や既知の脳卒中危険因子,疲労や炎症反応の関与も考慮したうえで検討を行った。
コホート
ARIC(Atherosclerosis Risk in Communities Study): 第2回健診(1990~1992年)を受診した14348人のうち,脳卒中既往のある275人,白人・黒人以外の人種の42人,メリーランドおよびミネソタコホートの黒人47人を除外。さらに,社会的ネットワークに関連するデータに不備のある298人を除外した13686人を社会的ネットワークに関する解析の対象者とした。また,社会的サポートに関するデータに不備のある301人を除いた13683人を,社会的サポートに関する解析の対象者とした。
追跡期間は18.6年(中央値)。

社会的ネットワークについては,10項目からなるLubbenの社会的ネットワーク尺度を用い,各対象者における家族や友人,隣人との能動的な社会的ネットワークの広さを評価。各項目(0~5点)の合計点数(最低0点,最高50点)に基づき,過去の報告にならって以下の4つのカテゴリーに対象者を分類した。
  20点以下: 小さい(380人),21~25点: やや小さい(778人),26~30点: やや大きい(1908人),31点以上: 大きい(10620人)

月に1回以上会う・連絡をとる親戚の数,もっとも親しい親戚との連絡の頻度,親しい親戚の数,親しい友人の数,月1回以上連絡をとる親しい友人の数,もっとも親しい友人との連絡の頻度,重要な決断をする際に相談できる人の有無,重要な決断をする際に自分に相談してくる人の有無,なんらかの理由で自分に毎日頼る人,あるいは助けを必要とする人の有無,および同居者の有無。

また,自覚的な社会的サポートの度合いについては,短文式の対人サポート評価リスト(ARICの研究者らが開発したオリジナルのリストの項目を40項目から16項目に減らした修正版)を用い,各項目(まったくあてはまらない: 0点~非常によくあてはまる: 3点)の合計点数(最低0点,最高48点)に基づき,以下の4つのカテゴリーに対象者を分類した。
  16点以下: 社会的サポートがない,17~23点: 小さい,24~31点: 中等度,32点以上: 大きい
結 果
◇ 対象背景
社会的ネットワークに関する解析の対象者における平均年齢は57歳,女性は56%,黒人は24%であった。

追跡期間中の脳卒中発症は905件で,1000人・年あたりの発症率は4.0。
うち804件が虚血性脳卒中,114件が出血性脳卒中であった。

社会的ネットワークのスコアとの有意な関連がみられたのは,自覚的な社会的サポートのスコア(r=0.49,P<0.0001)および疲労(vital exhaustion)スコア(r=-0.21,P<0.0001)。炎症反応のマーカーである高感度CRP(hsCRP)との有意な関連はなかった。
自覚的な社会的サポートのスコアとの有意な関連がみられたのは,疲労スコア(r=-0.41,P<0.0001)およびhsCRP(r=-0.04,P<0.0001)。

◇ 社会的ネットワークと脳卒中リスク
社会的ネットワークが「大きい」人にくらべ,「小さい」人で高い値を示していたのは,黒人の割合,男性の割合,非婚者の割合,雇用されていない人の割合,疲労スコア,糖尿病の割合,喫煙者の割合,低所得者の割合,高校卒業以下の教育歴の割合,およびhsCRP。
社会的ネットワークが「小さい」人の9.2%が,社会的サポートが「ない」人であった。

社会的ネットワークのカテゴリーごとの脳卒中発症の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおりで,社会的ネットワークが「大きい」人に対して「小さい」人のリスクが有意に高くなっていたが,ネットワークの広さとリスクとの線形の関連はなかった(年齢,性別,人種,社会経済的状況[教育歴,収入および職業],婚姻状況,行動学的要因[喫煙,飲酒および身体活動],高血圧,糖尿病,LDL-C,HDL-C,脂質低下薬服用およびBMIで調整)。
  小さい: 1.44(1.02-2.04)
  やや小さい: 0.93(0.69-1.26)
  やや大きい: 0.90(0.73-1.11)
  大きい: 1(対照)

社会的ネットワークが「小さい」ことと脳卒中発症リスクとの関連に対する,人種や性別の影響はみとめられなかった。

病型別にみると,社会的ネットワークが「小さい」人の虚血性脳卒中発症の多変量調整ハザード比‡は1.41(95%信頼区間0.98-2.03)であった。
出血性脳卒中については,症例が少なく解析は行えなかった。

◇ 社会的ネットワークと脳卒中リスクに対する介在因子の影響
疲労スコアとhsCRPは,いずれも脳卒中発症のハザード比(年齢,性,人種で調整)と有意に関連していた。

多変量調整モデルにおける,社会ネットワークが「小さい」ことと脳卒中発症リスクとの関連の回帰係数(β)は0.366で,さらに疲労スコアによる調整を行うと0.336となった(-8.1%)。一方,疲労スコアのかわりにhsCRPによる調整を行った場合は,βは0.361となり-1.4%の変化にとどまった。
この結果から,社会的ネットワークが「小さい」ことと脳卒中発症リスクとの関連に対し,疲労は部分的に介在因子として関与しているものの,炎症は関与していないことが示唆された。

◇ 自覚的な社会的サポートと脳卒中リスク
自覚的な社会的サポートが「ない」人は75人(0.5%)であった。
社会的サポートのカテゴリーごとの対象背景は,社会的なネットワークのカテゴリーにみた場合とほぼ同様であった。
社会的サポートが「ない」人の46.6%が,社会的ネットワークが「小さい」人であった。

社会的サポートが「ない」カテゴリーでの脳卒中の発症は7件のみで,社会的サポートが「大きい」人に比した調整ハザード比(年齢,性別および人種で調整)は1.66(95%信頼区間0.79-3.50)と,有意ではないが高い傾向を示した。さらに社会経済的状況,行動学的要因,脳卒中の既知の危険因子などによる調整を行うと,関連は弱まった。

病型別にみると,社会的サポートの度合いと虚血性脳卒中発症リスクとの関連は,全脳卒中でみた場合とほぼ同様であった。


◇ 結論
白人および黒人からなる米国の大規模前向きコホート研究において,社会的ネットワークの狭さや,社会的サポートの欠如と脳卒中発症リスクとの関連を検討した。その結果,自身の社会的ネットワークが小さいと答えた人では,大きいと答えた人にくらべて脳卒中発症リスクが約40%高いことが示された。この関連は,その一部に疲労が介在している可能性が示されたものの,年齢や生活習慣,肥満,その他の既知の脳卒中の危険因子,炎症反応とは独立していた。以上の結果から,社会的ネットワークが小さいことが脳卒中発症リスクを増加させるという因果関係が推察される。観察研究から得られた結果であり,解釈には注意が必要であるが,今後の研究で因果関係が裏付けられた場合,個人に対する社会的ネットワーク状況のスクリーニングや,健康や生きがいに関連する社会的なつながりの大切さについての議論,さらには社会的ネットワークの拡大に向けた情報提供などの適切なはたらきかけを,医療従事者が行うことが期待される。


監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康

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