[2015年文献] 地中海食は虚血性脳卒中リスクの低下と関連するが,出血性脳卒中とは関連なし(REGARDS)

Tsivgoulis G, et al. Adherence to a Mediterranean diet and prediction of incident stroke. Stroke. 2015; 46: 780-5.pubmed

コメント
地中海食は,オリーブオイルや植物性食品(野菜,豆,果物)と少量の肉,乳製品,中等量の魚,アルコールで特徴づけられる食事で,これまでに冠動脈疾患に予防的にはたらくとされてきたが,脳卒中発症に対する影響は明らかにされていなかった。そのようななかで,脳卒中死亡率の高い米国南部のコホート研究において,人種や居住地域にかかわらず,地中海食は虚血性脳卒中発症リスクの低下と関連していた。しかし出血性脳卒中発症リスクとの関連はみとめられなかった。この研究結果は,地中海食が冠動脈疾患と同様に虚血性脳卒中リスクの低下にも役立つことを支持するものである。
編集委員・磯 博康
目的
米国では18人に1人が脳血管疾患により死亡し,40秒に1件の脳卒中が起こっているとされ,2050年までに脳卒中発症率は倍増する(とくに高齢者やヒスパニックをはじめとした非白人)との推算もあるなど,予防対策が急務となっているが,これまでにわかっている心血管危険因子が寄与していない脳卒中は,全体の最大4分の1にものぼる。その他の要因として,食習慣が脳卒中のリスクに影響を及ぼすことが指摘されている。植物性食品やオリーブオイル,少量の肉類,乳製品,魚,アルコールなどの摂取により特徴づけられる地中海食は,これまでに死亡・癌死亡・アルツハイマー病・認知障害・冠動脈疾患などのリスク低下と関連することが報告されているが,脳卒中発症リスクへの影響について白人以外も含めて検討した研究は少ない。そこで,白人と黒人の両方を含む米国の大規模前向きコホート研究において,地中海食と脳卒中および脳卒中の病型ごとの発症リスクとの関連について,人種による相互作用も考慮した検討を行った。
コホート
REGARDS(Reasons for Geographic and Racial Differences in Stroke): 米国で脳卒中死亡率がとくに高い「脳卒中ベルト地域」を中心とした地域一般住民を対象に行われている,大規模前向きコホート研究。
2003年1月~2007年10月に登録された45歳以上の30239人のうち,脳卒中既往のある2088人,食事データに不備のあった7738人,および追跡不可能となった216人を除外した20197人を平均6.5年間追跡。

おもに米国南部の8州(ノースカロライナ州,サウスカロライナ州,ジョージア州,テネシー州,ミシシッピ州,アラバマ州,ルイジアナ州,アーカンソー州)をさすことが多い(Neuroepidemiology. 2005; 25: 135-43. pubmed)。

地中海食の遵守度(adherence)を評価するために,ベースライン健診後に配布・回収した食物摂取頻度調査票への回答に基づいて,地中海食を特徴づける9つの食品・栄養素(野菜,果物,豆類,パン・シリアル・パスタ・米,魚,肉類,乳製品,アルコール,脂肪[一価不飽和脂肪酸/飽和脂肪酸比])の摂取状況から,以下の各項目の点数を足しあわせた「地中海食スコア」を算出した(最低0点,最高9点)(JAMA. 2009; 302: 638-48. pubmed)。
・野菜,果物,豆類,パン・シリアル・パスタ・米,魚,および一価不飽和脂肪酸/飽和脂肪酸比: それぞれの摂取量が性別の中央値未満の場合に0点,中央値以上の場合に1点
・肉類および乳製品: それぞれの摂取量が性別の中央値以上の場合に0点,中央値未満の場合に1点
・アルコール:少量~中程度の摂取(男性7~14杯/週,女性1~4杯/週)の場合に1点,それ以外の場合に0点
結 果
◇ 対象背景
平均年齢65歳,黒人33%,男性44%,脳卒中ベルト地域居住者56%。
地中海食スコアの平均値は4.4点。スコアは正規分布を示しており,0~3点が6632人,4~5点の人が8354人,6~9点の人が5211人であった。

地中海食スコアが高いカテゴリーほど高値を示していたのは,男性の割合,黒人の割合,非喫煙率で,スコアが高いカテゴリーほど低値を示していたのは脳卒中ベルト地域居住者の割合,高血圧の割合,糖尿病の割合,肥満の割合,および座りがちな生活習慣の割合であった。

追跡期間中に脳卒中を発症したのは565人(2.8%)。うち虚血性脳卒中が497人(全脳卒中の88%),出血性脳卒中が68人(全脳卒中の12%)であった。

◇ 地中海食と虚血性脳卒中リスク
地中海食スコアの高い人(5~9点)における,0~4点に比した虚血性脳卒中発症の多変量調整ハザード比は,0.79と有意に低かった(95%信頼区間0.65-0.96,
P=0.0164)(年齢,人種,年齢×人種の相互作用,地域,性,収入,教育,総摂取エネルギー,喫煙,座りがちな生活習慣,心疾患既往,心房細動,BMI,腹囲,糖尿病,高血圧,降圧薬服用,収縮期・拡張期血圧値で調整)。

この結果は,地中海食スコアを連続変数として扱った解析でも同様で,スコアが1点高くなるごとに,虚血性脳卒中発症リスクは5%有意に低下した(95%信頼区間0%-11%)。
また,対象者を地中海食スコアの三分位によるカテゴリーに分けて解析した結果,遵守度がもっとも高いカテゴリー(6~9点)における虚血性脳卒中発症のハザード比は調整を行わないモデルでもっとも低いカテゴリー(0~3点)に比して0.78(95%信頼区間0.61-1.00,P=0.047)と有意に低く,多変量調整を行うと関連は若干弱められた(ハザード比0.78,0.60-1.01,P=0.057)。

地中海食スコアと虚血性脳卒中発症リスクとの関連に対し,人種による有意な相互作用はみられなかった(P=0.37)。
ただし,白人と黒人を分けて行った解析では,黒人においてのみ,地中海食スコアが高い人(5~9点)における,0~4点に比した有意なリスク低下がみられたが(多変量調整ハザード比0.61[95%信頼区間0.44-0.87]),白人では有意な関連はみられなかった(0.89[0.70-1.12])。

年齢,性,脳卒中ベルト地域居住,心房細動,心疾患既往,糖尿病,高血圧,および収縮期血圧値についても,地中海食スコアと虚血性脳卒中発症リスクとの関連に対する有意な相互作用はみられなかった。

◇ 地中海食と出血性脳卒中リスク
地中海食スコアの高い人(5~9点)と低い人(0~4点)とで,出血性脳卒中発症の多変量調整ハザード比‡に有意な差はみられなかった。
この結果は,地中海食スコアを連続変数として扱った解析,ならびに地中海食スコアの三分位によるカテゴリーを用いた解析でも同様であった。

年齢,性,人種,脳卒中ベルト地域居住,および収縮期血圧値について,地中海食スコアと出血性脳卒中発症リスクとの関連に対する有意な相互作用はみられなかった。


◇ 結論
米国の大規模前向きコホート研究において,地中海食と虚血性および出血性脳卒中発症リスクとの関連について,人種による相互作用も考慮した検討を行った。その結果,地中海食の遵守度が高い人では,低い人にくらべて虚血性脳卒中発症リスクが有意に低く,この結果は他の危険因子で調整しても変わらず,人種や性,居住地域による相互作用もみとめられなかった。一方,地中海食の遵守度と出血性脳卒中との関連はみられなかった。今回の結果は,人種や住んでいる地域が異なっていても,脳卒中一次予防のためには健康的な食事が必要であるという,これまでに蓄積されてきたエビデンスを裏付けるものと考えられる。


監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康

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