[2020年文献] 高血圧の若年成人では,高血圧のタイプにより心血管疾患発症リスクが異なる

Lee H, et al. Cardiovascular Risk of Isolated Systolic or Diastolic Hypertension in Young Adults. Circulation. 2020; 141: 1778-1786.pubmed

目的
孤立性収縮期高血圧(ISH)は,以前は若年成人ではあまり見られなかったが,肥満などが影響し,近年増加している。フラミンガム心臓研究では,10年間の追跡の結果,ISHの人の約20%がのちに孤立性拡張期高血圧(IDH)または収縮期・拡張期高血圧(SDH)を発症したと報告されているが,若年成人のISHの転帰についてはほとんど知られていない。また,IDHをもつ若年成人のCVD発症リスクについてのデータは少ない。2017年の米国心臓病学会/米国心臓協会(ACC/AHA)の高血圧ガイドラインの定義では,I度高血圧をSBP 130~139 mmHgまたはDBP 80~89 mmHgとしていて,この定義に基づくI度高血圧の若年成人は,正常血圧の若年成人に比してCVD発症リスクが有意に高いことが報告されている。今回,韓国の国民健康保険データベースの健康診断データを用いて,20~39歳の若年成人を対象に,ベースラインの高血圧のカテゴリーごとのCVD発症リスクと,追跡期間中にカテゴリーが変化した場合のCVD発症リスクを検討した。
コホート
2003~2007年に韓国のNational Health Insurance Service(NHIS)の国民健康診断プログラムを受けた,20~39歳の成人(656万9862人)のうち,心筋梗塞・脳卒中・心不全既往のある人,ベースライン時の検査前に降圧薬を処方されていた人,ベースライン時からの追跡期間が1年未満の人を除外した,642万4090人を対象とした。追跡期間中央値は13.2年。

国民健康診断プログラムの際に測定した血圧値により,参加者を以下の8つのカテゴリーに分類した。
[1]正常血圧: 収縮期血圧(SBP)<120 mmHg,拡張期血圧(DBP)<80 mmHg
[2]正常高値血圧: 120~129 mmHg,<80 mmHg
[3]I度孤立性拡張期高血圧(IDH): <130 mmHg,80~89 mmHg
[4]I度孤立性収縮期高血圧(ISH): 130~139 mmHg,<80 mmHg
[5]I度収縮期・拡張期高血圧(SDH): 130~139 mmHg,80~89 mmHg
[6]II度IDH: <140 mmHg,≧90 mmHg
[7]II度ISH: ≧140 mmHg,<90 mmHg
[8]II度 SDH: ≧140 mmHg,≧90 mmHg
結 果
追跡期間中の心筋梗塞発症は11488人,脳卒中発症は29382人,心不全による入院は1915人であった。また,CVD関連の死亡は4177人,全死亡は55421人であった。

◇ 対象背景
ベースライン時の対象背景は以下のとおり。正常血圧の人に比して,高血圧のすべてのカテゴリーの人は,BMI,空腹時血糖値,総コレステロール値が高く,男性,喫煙者,頻繁に飲酒する人が多かった。

 人数(人): [1]266万5310,[2]70万5344,[3]127万1505,[4]25万5588,[5]71万1503,[6]30万4369,[7]17万0511,[8]33万9960
 年齢中央値(歳): 29,30,30,29,30,32,31,33
 女性: 58.2%,34.2%,33.1%,21.0%,18.9%,17.5%,12.5%,10.8%
 SBP(mmHg): 106.7,122.05,118.63,132.22,131.51,128.21,143.55,147.3
 DBP(mmHg): 66.69,70.74,80.58,72.05,81.61,90.84,80.21,95.03
 BMI(kg/m2): 21.69,22.88,22.94,23.67,23.97,24.30,24.78,25.5
 空腹時血糖値(mg/dL): 87.37,89.83,89.32,91.45,91.63,91.81,94.52,95.85
 総コレステロール値(mg/dL): 177.36,182.12,184.89,185.05,189.09,193.29,192.87,199.18
 喫煙(現在): 25.2%,37.6%,38.3%,45.2%,46.5%,47.1%,50.3%,51.7%
 1週間に3回以上飲酒する: 4.6%,7.1%,7.7%,8.8%,10.2%,11.0%,12.0%,14.9%

◇高血圧のカテゴリーごとのCVD発症リスク
CVDイベントの累積発生率は,[8]がもっとも高く,次いで[7]~[1]の順番であった。高血圧のカテゴリーごとにみた,CVD発症の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。I度SDHは,I度ISH,I度IDHに比して,CVD発症リスクが高かった(年齢,性別,世帯収入,Charlson comorbidity index,血糖降下薬服用,脂質低下薬服用,喫煙,飲酒,運動,BMI,空腹時血糖値,総コレステロール値で調整)。

[1]1.00(対照),[2]1.14(1.09-1.18),[3]1.32(1.28-1.36),[4]1.36(1.29-1.43),[5]1.67(1.61-1.72),[6]1.82(1.75-1.89),[7]1.90(1.81-1.99),[8]3.13(3.03-3.23)

◇I度のISH,IDHから別のカテゴリーに変化したときのCVD発症リスク
ベースライン時(2003~2007年)にI度IDHまたはI度ISHだった人のうち,2005~2012年にカテゴリーが変化した人のCVD発症の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。I度SDHまたはII度高血圧のカテゴリーに変化した人は,同じカテゴリーのままの人に比してCVD発症リスクが高かった。また,ベースライン時にI度ISH,I度IDHであっても,正常血圧や高値正常血圧に変化した人は,CVD発症リスクが低くなった。

・I度IDH[3]から別のカテゴリーに変化した場合
[1]0.76(0.71-0.83),[2]0.87(0.78-0.97)[3]1.00(対照),[4]1.00(0.86-1.16),[5]1.30(1.20-1.42),[II度高血圧]1.91(1.76-2.08)

・I度ISH[4]から別のカテゴリーに変化した場合
[1]0.73(0.56-0.95),[2]0.81(0.61-1.08),[3]0.98(0.75-1.28),[4]1.00(対照),[5]1.19(0.91-1.54),[II度高血圧]1.95(1.51-2.51)

◇結論
若年成人では,ACC/AHAが定義するI度のISH,IDH,SDHの人は,正常血圧の人よりも約13年後のCVD発症リスクが高かった。また,I度ISHとI度IDHのCVD発症リスクは同等であったが,I度SDHは,I度ISH,I度IDHに比して,CVD発症リスクが高かった。I度高血圧の若年成人を,ISH,IDH,SDHに分類することで,CVD発症のリスクが高い人を特定するための層別化をより改善できる可能性が示唆された。


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