[2006年文献] 降圧薬治療中の朝の高血圧では,脳卒中のリスクが高い

先行研究から,朝と晩の血圧には大きな差があることや,降圧治療は血圧変動に影響を与えることが報告されている。また,朝の血圧は心血管疾患発症リスクの予測能が高いことが知られているが,晩の血圧の予測能についてはほとんど知られていない。そこで,40歳以上の日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,晩の家庭血圧値の脳卒中発症リスクの予測能を朝の血圧値と比較した。11年間の追跡の結果,晩の家庭血圧値は朝の家庭血圧値と同様に,全脳卒中の発症リスクと有意に相関した。とくに降圧薬治療例における朝の高血圧は,脳卒中発症リスクが著しく高かった。これより,朝の高血圧,とくに治療下での朝の高血圧は,脳卒中の有意な予測因子であることが示唆された。

Asayama K, et al. Prediction of stroke by home "morning" versus "evening" blood pressure values: the Ohasama study. Hypertension. 2006; 48: 737-43.pubmed

コホート
朝の家庭血圧を3日で3回以上測定した40歳以上の1913例のうち,晩の血圧を3回以上測定しなかった56例,および脳卒中既往のある91例をのぞいた1766例を,1987年より平均11年間追跡。
平均年齢は60.1歳で,男女比は4対6。
心疾患既往は1%,糖尿病既往は12%,高脂血症既往は12%。
結 果
平均血圧値は,朝125.0 / 75.0 mmHg,晩123.0 / 73.2 mmHg。
家庭血圧測定により,全体を以下の4つのグループに分けて解析をおこなった。
   ・正常血圧: 朝も晩も135 / 85 mmHg未満 (1184例)
   ・朝の高血圧: 朝は135 / 85 mmHg以上,晩は正常 (156例)
   ・晩の高血圧: 朝は正常,晩は135 / 85 mmHg以上 (63例)
   ・持続性高血圧: 朝も晩も135 / 85 mmHg以上 (363例)

降圧薬服用は29%,喫煙は22%。
追跡期間中に死亡したのは262例(14.8%)。
脳卒中を発症したのは156例。内訳は,脳梗塞106例(68%),脳出血31例(20%),くも膜下出血12例(8%),一過性脳虚血発作4例(3%),病型不明3例(2%)。

家庭血圧の収縮期血圧および拡張期血圧は,朝・晩を問わず,すべて全脳卒中の発症リスクと有意に相関した(P<0.0001)。
随時血圧では,いずれの脳卒中についても,家庭血圧値から独立した有意な予測能はなかった。

朝の高血圧および持続性高血圧の脳卒中発症リスクは正常血圧よりも有意に高く,晩の高血圧では有意差はなかった。相対ハザード(95%信頼区間)は以下のとおり。
   ・正常血圧: 1.00
   ・朝の高血圧: 2.66 (1.64-4.33)
   ・持続性高血圧: 2.38 (1.65-3.45)
さらに降圧薬治療例における朝の高血圧では,脳卒中の相対ハザードが3.55(95%信頼区間1.70-7.38)と顕著だった。

以上のように朝の高血圧,とくに治療下での朝の高血圧は,脳卒中の有意な予測因子である。


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