[2007年文献] 24時間ABP(とくに夜間血圧)は随時血圧よりも頸動脈硬化との関連が強い

24時間自由行動下血圧測定(ABPM)により得られた血圧指標(血圧値,変動性,モーニングサージ)と,超音波検査で評価した頸動脈硬化との関連について,日本人一般住民を対象としたコホート研究の断面解析により検討した。その結果,ABPMにより得られた血圧値は,随時血圧値よりも頸動脈硬化との関連が強く,なかでも夜間の血圧値のほうが昼間の血圧値よりも頸動脈硬化との強い関連を示していた。また,夜間の血圧変動幅は頸動脈プラークと,夜間の収縮期血圧の不十分な降圧は平均IMTとそれぞれ有意に関連していたが,モーニングサージと頸動脈硬化との関連はみられなかった。これらの結果から,24時間ABPMにより得られた血圧値と血圧変動幅はそれぞれ頸動脈硬化と独立に関連している可能性が示唆された。

Shintani Y, et al. Ambulatory blood pressure, blood pressure variability and the prevalence of carotid artery alteration: the Ohasama study. J Hypertens. 2007; 25: 1704-10.pubmed

コホート
55歳以上の大迫町住民3077人のうち,日中に在宅していない492人,入院中,精神疾患がある,または寝たきりの185人,ならびに研究参加への同意が得られなかった人を除外。24時間自由行動下血圧測定を行った775人を対象とした(断面解析)。

Bモード超音波検査により,頸動脈内膜-中膜肥厚(IMT)およびプラークを評価した。
結 果
◇ 対象背景
平均年齢66.2歳,女性68.8%,降圧薬服用39.0%,喫煙率19.2%,飲酒率42.7%,糖尿病14.6%,高脂血症42.7%,心血管疾患既往は15.6%,BMI 23.7 kg/m2

平均頸動脈内膜-中膜肥厚(IMT)は0.73 mm,頸動脈プラークをもつ人は35.4%,昼間血圧は130.5 / 76.8 mmHg,夜間血圧は113.8 / 64.7 mmHgで,いずれも随時血圧144.8 / 79.0 mmHgより有意に低値(P<0.001)であった。
昼間血圧変動幅は15.3 / 9.4 mmHg,夜間血圧変動幅は11.5 / 7.0 mmHg,夜間降圧率は収縮期血圧(SBP)12.6%,拡張期血圧(DBP)15.5%。
朝の血圧値が得られている738人におけるモーニングサージは,SBP 13.5 mmHg,DBP 10.1 mmHgであった。

◇ 平均IMTに関連する血圧指標
各血圧指標(随時SBP・DBP,昼間SBP・DBP,夜間SBP・DBP,昼間血圧変動幅,夜間血圧変動幅,夜間降圧率)と平均IMTとの関連を検討した結果,多変量調整後も平均IMTとの有意な正の関連を示していたのは,随時SBP,昼間SBP,昼間DBP,夜間SBP,夜間DBP,および昼間DBPの変動幅で,有意な負の関連を示していたのはSBPの夜間降圧率であった(年齢,性別,BMI,喫煙,飲酒,降圧薬服用,心血管疾患既往,糖尿病,高脂血症で調整)。

◇ 頸動脈プラークに関連する血圧指標
各血圧指標と頸動脈プラークとの関連を検討した結果,多変量調整後も頸動脈プラークの調整オッズ比の有意な増加と関連していたのは,昼間SBP,夜間SBP,夜間SBPの変動幅,および夜間DBPの変動幅であった。

◇ 血圧値+血圧変動幅の組み合わせと頸動脈プラーク
夜間血圧値(正常値120 mmHgを境に高値群と正常群を設定),ならびに夜間血圧変動幅(平均値11.5 mmHgを境に高値群と低値群を設定)の組み合わせと頸動脈プラークの多変量調整オッズ比との関連をみると,血圧正常+変動幅低値(対照)に比し,血圧正常+変動幅高値,ならびに血圧高値+変動幅高値におけるオッズ比の有意な増加がみとめられたが(それぞれ1.71[95%信頼区間1.14-2.56],1.81[1.17-2.82]),血圧高値+変動幅低値群では有意差はみられなかった。
この結果は,感度分析として降圧薬服用の有無による層別化解析を行っても同様で,降圧薬服用による有意な相互作用もみとめられなかった。

◇ モーニングサージと頸動脈硬化
朝の血圧値が得られている738人において,モーニングサージ(朝に自己測定した血圧と起床前血圧の差)は,SBP,DBPのいずれも,平均IMTおよび頸動脈プラークとは有意に関連していなかった。


◇ 結論
24時間自由行動下血圧測定(ABPM)により得られた血圧指標(血圧値,変動性,モーニングサージ)と,超音波検査で評価した頸動脈硬化との関連について,日本人一般住民を対象としたコホート研究の断面解析により検討した。その結果,ABPMにより得られた血圧値は,随時血圧値よりも頸動脈硬化との関連が強く,なかでも夜間の血圧値のほうが昼間の血圧値よりも頸動脈硬化との強い関連を示していた。また,夜間の血圧変動幅は頸動脈プラークと,夜間の収縮期血圧の不十分な降圧は平均IMTとそれぞれ有意に関連していたが,モーニングサージと頸動脈硬化との関連はみられなかった。これらの結果から,24時間ABPMにより得られた血圧値と血圧変動幅はそれぞれ頸動脈硬化と独立に関連している可能性が示唆された。


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