[2008年文献] 脳卒中/TIA発症リスクとの関連は,家庭血圧のほうが診察室血圧よりも強い

日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,家庭血圧と診察室血圧の脳卒中(一過性脳虚血発作[TIA]を含む)発症リスク予測能を比較するとともに,『高血圧治療ガイドライン2004』(JSH2004)のリスク層別化の枠組みを用い,診察室血圧と家庭血圧のそれぞれによるリスク層別化を検討した。その結果,家庭血圧を用いた場合の血圧カテゴリーは,診察室血圧よりも脳卒中またはTIA発症リスク予測能に優れており,正常高値血圧から有意なリスク増加がみとめられた。JSH2004に基づくリスクグループと脳卒中発症リスクとの関連を検討した結果からは,よりよい意思決定のために家庭血圧測定を活用することが推奨される。

Asayama K, et al. Proposal of a risk-stratification system for the Japanese population based on blood pressure levels: the Ohasama study. Hypertens Res. 2008; 31: 1315-22.pubmed

コホート
1988~1995年にベースライン健診に参加した35歳以上の大迫町住民2933人のうち,家庭血圧(朝および夜)の測定が3回未満の454人,脳卒中既往のある111人を除いた2368人を2001年まで9.4年間(中央値)追跡。
参加率80%。

診察室血圧ならびに家庭血圧のそれぞれについて,対象者を以下の4つのカテゴリーに分類して解析を行った。
・診察室血圧(『高血圧治療ガイドライン2004』に基づく)
  至適血圧: <120 / 80 mmHg(598人)
  正常血圧: 120 / 80 ~ 129 / 84 mmHg(544人)
  正常高値血圧: 130 / 85 ~ 139 / 89 mmHg(531人)
  軽症高血圧: 140 / 90 ~ 159 / 99 mmHg(521人)
  中等症高血圧: 160 / 100 ~ 179 / 109 mmHg(137人)
  重症高血圧: ≧180 / 110 mmHg(37人)

・家庭血圧(拡張期血圧については,家庭血圧135 / 85 mmHgが診察室血圧140 / 90 mmHgに相当されていることから各カテゴリーの診察室血圧に相当すると考えられる値を設定し,収縮期血圧については,診察室血圧により分類された各カテゴリーの人数を考慮して決定)
  至適血圧: <115 / 75 mmHg(679人)
  正常血圧: 115 / 75 ~ 124 / 79 mmHg(551人)
  正常高値血圧: 125 / 80 ~ 134 / 84 mmHg(513人)
  軽症高血圧: 135 / 85 ~ 149 / 94 mmHg(458人)
  中等症高血圧: 150 / 95 ~164 / 104 mmHg(141人)
  重症高血圧: ≧165 / 105 mmHg(26人)
  
また対象者は,心血管危険因子(高齢[男性≧60歳,女性≧65歳],BMI≧25 kg/m2,習慣的な喫煙,高脂血症)の保有数により以下の3つのカテゴリーに分類された。
  クラス1: なし
  クラス2: 1~2つ
  クラス3: 3つ以上,糖尿病あり,心血管疾患既往ありのいずれか
結 果
◇ 対象背景
家庭血圧による血圧カテゴリーごとのおもな対象背景は以下のとおり(それぞれ至適血圧,正常血圧,正常高値血圧,軽症高血圧,中等症高血圧,重症高血圧の値)。
  年齢(歳): 52.7,58.4,61.3,64.7,66.7,68.2
  男性(%): 23.3,40.1,39.4,46.1,64.5,73.1
  BMI(kg/m2): 22.7,23.6,23.8,24.0,24.2,24.2
  糖尿病(%): 7.1,9.4,9.4,12.2,13.5,15.4
  喫煙(%): 12.8,22.5,19.3,21.4,29.8,42.3
  降圧薬服用(%): 7.5,16.7,35.9,54.1,67.4,65.4
  診察室血圧(mmHg): 119.9 / 69.0,127.6 / 73.2,134.8 / 75.3,141.0 / 79.7,145.7 / 82.4,154.4 / 86.2

◇ 診察室血圧および家庭血圧と心血管疾患発症リスク
追跡期間中の脳卒中または一過性脳虚血発作(TIA)の発症は174人。
うち脳梗塞は118人(67.8%),脳内出血は35人(20.1%),くも膜下出血は12人(6.9%),TIAは9人(5.2%)であった。

診察室血圧,および家庭血圧による血圧カテゴリー間でそれぞれ脳卒中またはTIA発症の多変量調整相対ハザード(RH)を比較すると,いずれの血圧を用いた場合でも,血圧が高いカテゴリーほどリスクが高くなる有意な関連がみとめられた(家庭血圧: P for trend<0.0001,診察室血圧: P for trend=0.007)。
家庭血圧を用いて診断した正常高値血圧では,至適血圧に対する有意なリスク増加がみとめられたが(RH 1.91,95%信頼区間1.04-3.51),診察室血圧を用いて診断した正常高値血圧では,至適血圧との有意差はみられなかった(RH 1.52,0.89-2.60)。
年齢,性別,BMI,喫煙,飲酒,糖尿病,高脂血症,心血管疾患既往で調整)

◇ 診察室血圧および家庭血圧を用いたリスク層別化
(1)おもに『高血圧治療ガイドライン2004』(JSH2004)に基づく場合
今回の検討における発症状況ならびにJSH2004のリスク層別化に基づき,診察室血圧または家庭血圧による血圧カテゴリーと心血管危険因子の保有状況(クラス1~3)の組み合わせにより以下の4つのリスクグループを設定し,Cox比例ハザードモデルを用いて脳卒中またはTIAの発症のRHを比較した。
  「リスクなし」: クラス1+至適血圧/正常血圧/正常高値血圧,クラス2+至適血圧
  「低リスク」: クラス1+軽症高血圧,クラス2+正常血圧
  「中等度リスク」: クラス1+中等症高血圧,クラス2+正常高値/軽症高血圧/中等症高血圧,クラス3+至適血圧
  「高リスク」: クラス1+重症高血圧,クラス2+重症高血圧,クラス3+正常血圧/正常高値血圧/軽症高血圧/中等症高血圧/重症高血圧

その結果,診察室血圧と家庭血圧のいずれを用いた場合でも,血圧が高いカテゴリーほど脳卒中またはTIAのリスクが高くなる有意な傾向がみとめられるとともに(いずれもP for trend<0.0001),「リスクなし」に比し,「低リスク」「中等度リスク」「高リスク」のいずれについても脳卒中またはTIAのリスクが有意に高くなっていた(家庭血圧を用いた場合の「低リスク」のRH 2.39,95%信頼区間1.36-4.19,「高リスク」のRH 5.32,3.21-8.82,診察室血圧を用いた場合の「低リスク」のRH 2.35,1.35-4.10,「高リスク」のRH 4.12,2.45-6.91)。

一方,「低リスク」に対する「中等度リスク」の脳卒中またはTIAのRHを比較すると,家庭血圧を用いた場合には有意差がみとめられたが(RH 1.71,1.10-2.66),診察室血圧を用いた場合には有意差はみられなかった(RH 1.51,0.98-2.32)。
「中等度リスク」と「高リスク」の脳卒中またはTIAのRHには,家庭血圧,診察室血圧のいずれを用いても有意差はなかった。

(2)クラス3+正常血圧/正常高値血圧を「低リスク」に分類し直した場合
(1)の検討では,クラス3+正常血圧,ならびにクラス3+正常高値血圧はいずれも「高リスク」に分類されたが,これらの2つのあいだには,家庭血圧を用いた場合に有意な脳卒中またはTIA発症RHの差がみられる(クラス3+正常高値血圧におけるRH 5.76,95%信頼区間1.28-26.0)(診察室血圧を用いた場合はRH 1.17,0.41-3.38)。この結果より,クラス3+正常血圧の人を「高リスク」ではなく「中等度リスク」に分類し直した。
その結果,家庭血圧に基づく4つのリスクグループのいずれのあいだでも,脳卒中またはTIAのRHが有意に異なっていた(すべてP<0.05)。一方,診察室血圧を用いると,「低リスク」と「中等度リスク」,「中等度リスク」と「高リスク」との有意差はみられなかったが,「リスクなし」に対する「高リスク」の脳卒中またはTIAのRHは,(1)の解析よりも高くなった(RH 4.71,2.76-8.06)。

(3)クラス2+中等症高血圧を「高リスク」に分類し直した場合
今回の検討における発症状況をみると,クラス2+中等症高血圧における脳卒中またはTIAの発症率は高いといえるため,(2)での再分類に加え,さらにこれを「中等度リスク」ではなく「高リスク」に分類し直した。
その結果,診察室血圧と家庭血圧のいずれを用いた場合でも,「中等度リスク」と「高リスク」のあいだの脳卒中またはTIA発症のRHが有意に異なるという結果が得られた(家庭血圧を用いた場合: P<0.0001,診察室血圧を用いた場合: P<0.05)。


◇ 結論
日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,家庭血圧と診察室血圧の脳卒中(一過性脳虚血発作[TIA]を含む)発症リスク予測能を比較するとともに,『高血圧治療ガイドライン2004』(JSH2004)のリスク層別化の枠組みを用い,診察室血圧と家庭血圧のそれぞれによるリスク層別化を検討した。その結果,家庭血圧を用いた場合の血圧カテゴリーは,診察室血圧よりも脳卒中またはTIA発症リスク予測能に優れており,正常高値血圧から有意なリスク増加がみとめられた。JSH2004に基づくリスクグループと脳卒中発症リスクとの関連を検討した結果からは,よりよい意思決定のために家庭血圧測定を活用することが推奨される。


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