[2008年文献] 家庭血圧と家庭心拍数の日間変動性は,心血管疾患死亡リスクの予測因子

日本人一般住民を対象に,家庭血圧,ならびに家庭心拍数の日間変動と心血管疾患死亡リスクとの関連を検討したはじめての研究である。前向きコホート研究における11.9年間の追跡の結果,標準偏差により評価した家庭血圧,ならびに心拍数の個人内の日間変動性は,他の心血管危険因子で調整を行ったうえでも,心血管疾患死亡の有意な予測因子であることが示された。この結果より,心血管疾患死亡抑制のためには,血圧や心拍数の変動性に寄与する修正可能な因子を明らかにすることが急務となるが,当面は,血圧および心拍数の日間変動の大きい高リスク者における全体的な心血管危険因子のコントロールが重要と考えられる。

Kikuya M, et al. Day-by-day variability of blood pressure and heart rate at home as a novel predictor of prognosis: the Ohasama study. Hypertension. 2008; 52: 1045-50.pubmed

コホート
ベースライン健診に参加した35歳以上の大迫町住民2933人のうち,家庭心拍数が測定されなかった53人,家庭血圧または家庭心拍数の測定回数が10回(10日)未満の425人を除外した2455人を平均11.9年間追跡した(29224人・年)。
結 果
◇ 対象背景
平均年齢59.4歳,女性60.4%,BMI 23.5 kg/m2,総コレステロール値193 mg/dL,現在喫煙率19.3%,飲酒率25.8%,高脂血症26.6%,糖尿病9.5%,心血管疾患既往5.3%。

1人あたりの平均血圧測定回数は24.5回で,収縮期血圧(SBP)は124.6 mmHg(標準偏差[SD] 8.6 mmHg,変動係数[CV]6.9%),拡張期血圧(DBP)は74.7 mmHg(SD 6.4 mmHg,CV 5.2%),心拍数は67.4拍/分(SD 5.7 拍/分,CV 8.4%)であった。
SBPはSBPのSDと,心拍数は心拍数のSDとそれぞれ正の相関を示していたが(それぞれr=+0.40,r=+0.32),DBPについては,DBPのSDとの関連はみられなかった(r=+0.07)。
血圧は心拍数とは関連していなかったが(SBP: r=-0.06,DBP: r=+0.03),SBPおよびDBPのSDは,それぞれ心拍数のSDと正の関連を示していた(SBP: r=+0.28,DBP: r=+0.39)。年齢と心拍数の日間変動との関連はみられず(r=-0.027)。

◇ 家庭血圧,家庭心拍数,ならびにこれらの日間変動と心血管疾患死亡リスク
追跡期間中に死亡したのは462人で,うち心血管疾患による死亡は168人(36.4%)であった。内訳は以下のとおり。
・脳卒中死亡83人(18.0%): 脳梗塞51人,脳内出血21人,くも膜下出血8人,その他または病型不明3人
・心疾患死亡85人(18.4%): 心筋梗塞33人,心不全18人,突然死7人,慢性冠動脈疾患6人,不整脈5人,その他の心臓障害16人

SBP,心拍数,ならびにこれらの変動性(SD)の1 SD増加あたりの全死亡,心血管疾患死亡,非心血管疾患死亡の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおりで,SBPと心拍数,ならびにこれらのSDはいずれも全死亡および心血管疾患死亡リスクの有意な予測因子であった(心拍数のSDと全死亡との関連を除く)。
性別,年齢,肥満,喫煙,飲酒,心血管疾患既往,糖尿病,高脂血症,降圧薬治療,ならびにSBP,心拍数,SBPのSD,心拍数のSD[解析対象の変数を除く]で調整。*P≦0.05,**P≦0.01,***P≦0.00143)

・全死亡
  SBP: 1.13(1.01-1.25)*
  心拍数: 1.19(1.09-1.30)***
  SBPのSD: 1.18(1.07-1.31)***
  心拍数のSD: 1.05(0.96-1.16)

・心血管疾患死亡
  SBP: 1.26(1.06-1.49)**
  心拍数: 1.16(1.01-1.34)*
  SBPのSD: 1.20(1.02-1.40)*
  心拍数のSD: 1.18(1.02-1.36)*

・非心血管疾患死亡
  SBP: 1.06(0.93-1.21)
  心拍数: 1.21(1.07-1.35)***
  SBPのSD: 1.18(1.04-1.34)**
  心拍数のSD: 0.97(0.86-1.10)

心血管疾患死亡リスクとの関連においてP=0.10以下となった変数を含めたステップワイズ回帰分析において,心血管疾患死亡リスクとの独立した有意な関連を示していたのは性別(P<0.0001),年齢(P<0.0001),心血管疾患既往(P<0.0001),SBPのSD(P=0.027),SBP(P=0.009),心拍数のSD(P=0.036),心拍数(P=0.029)であった。

診察室血圧のデータを有する2243人において,家庭血圧値のかわりに診察室血圧値を用いた解析を行ったところ,診察室SBP(P=0.004)ならびに家庭SBPのSD(P=0.006)が心血管疾患死亡リスクの有意な予測因子となった。

◇ 家庭血圧,家庭心拍数,ならびにこれらの日間変動と脳卒中,冠動脈疾患死亡リスク
SBP,心拍数,ならびにこれらの変動性(SD)の1 SD増加あたりの脳卒中死亡,脳梗塞死亡,心疾患死亡,心筋梗塞死亡の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおりで,SBPのSDは脳卒中死亡および脳梗塞死亡リスクの有意な予測因子であったが,心疾患死亡および心筋梗塞死亡との関連はみられなかった。逆に,心拍数のSDは心疾患死亡および心筋梗塞死亡リスクの有意な予測因子であったが,脳卒中死亡および脳梗塞死亡との関連はみられなかった。SBPまたは心拍数のSDと脳出血死亡との関連はなし。
性別,年齢,肥満,喫煙,飲酒,心血管疾患既往,糖尿病,高脂血症,降圧薬治療,ならびにSBP,心拍数,SBPのSD,心拍数のSD[解析対象の変数を除く]で調整。*P≦0.05,**P≦0.01)

・脳卒中死亡
  SBP: 1.29(1.01-1.64)*
  心拍数: 1.25(1.02-1.52)*
  SBPのSD: 1.38(1.12-1.72)**
  心拍数のSD: 1.06(0.84-1.33)

・脳梗塞死亡
  SBP: 1.38(1.02-1.88)*
  心拍数: 1.15(0.88-1.50)
  SBPのSD: 1.46(1.11-1.91)**
  心拍数のSD: 1.01(0.74-1.38)

・心疾患死亡
  SBP: 1.22(0.96-1.56)
  心拍数: 1.09(0.89-1.33)
  SBPのSD: 1.02(0.81-1.29)
  心拍数のSD: 1.30(1.08-1.56)**

・心筋梗塞死亡
  SBP: 1.20(0.80-1.79)
  心拍数: 0.85(0.60-1.21)
  SBPのSD: 0.87(0.59-1.27)
  心拍数のSD: 1.47(1.13-1.92)**

以上の結果は,SBPのかわりにDBPのSDを用いた解析でも同様であった。
また,感度解析(最初の10日間のデータのみを用いた解析,変動性の指標としてSDのかわりにCVを用いた解析など)を行っても結果は変わらなかった。


◇ 結論
日本人一般住民を対象に,家庭血圧,ならびに家庭心拍数の日間変動と心血管疾患死亡リスクとの関連を検討したはじめての研究である。前向きコホート研究における11.9年間の追跡の結果,標準偏差により評価した家庭血圧,ならびに心拍数の個人内の日間変動性は,他の心血管危険因子で調整を行ったうえでも,心血管疾患死亡の有意な予測因子であることが示された。この結果より,心血管疾患死亡抑制のためには,血圧や心拍数の変動性に寄与する修正可能な因子を明らかにすることが急務となるが,当面は,血圧および心拍数の日間変動の大きい高リスク者における全体的な心血管危険因子のコントロールが重要と考えられる。


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