[2012年文献] 家庭血圧値による動脈血管硬化指数(HASI)は脳梗塞発症リスクと関連

家庭血圧値を用いて算出した動脈壁硬化指標(HASI)と脳梗塞発症リスクとの関連について,日本人一般住民を対象とした13.2年間の前向きコホート研究による検討を行った。その結果,HASIは,脈圧,平均動脈圧,収縮期血圧の日間変動とは独立した脳梗塞発症の予測因子であることが示され,男性および正常血圧者においても同様の結果が得られた。家庭血圧値は高血圧発症リスクをもつ人のスクリーニングに重要であるが,さらにそこから算出できるHASIを併用することで,有用な情報を上乗せできる可能性が示唆された。

Kikuya M, et al. Prognostic significance of home arterial stiffness index derived from self-measurement of blood pressure: the Ohasama Study. Am J Hypertens. 2012; 25: 67-73.pubmed

コホート
1988年~1995年のベースライン健診時に35歳以上であった大迫町住民2920人のうち,脳卒中の既往のある136人,家庭血圧測定回数が10回未満の407人を除く2377人を平均13.2年追跡。
平均年齢は58.9歳,女性の割合は61.2%。

参加者はそれぞれオシロメトリック方式の自動血圧計にて,毎日の朝の家庭血圧(起床後1時間以内,座位,2分以上安静後)を4週間測定し,その結果から,家庭血圧値による動脈血管硬化指数(home arterial stiffness index: HASI)*を算出した。

* HASI: 家庭血圧値を用いて算出するarterial stiffness index(ASI: オシロメトリック法による血圧測定の際に得られる血管の力学的特性を利用した血管の硬さの指標)。HASI=1-(家庭拡張期血圧と家庭収縮期血圧の回帰勾配)として算出し,1に近いほど動脈硬化が進んでいることを示す。
結 果
◇ 対象背景
家庭血圧値による動脈壁硬化指標(home arterial stiffness index: HASI)の平均値は0.60であった。
高血圧患者の割合は39.7%で,そのうち降圧薬を使用している人の割合は70.9%。

追跡期間中にはじめて脳卒中を発症したのは268人であった。
内訳は,脳梗塞191人,脳出血57人,くも膜下出血18人,病型不明2人であった。

ベースラインの患者背景をHASIの三分位(<0.50,0.50~0.68,≧0.68)によるカテゴリー間で比較したところ,HASIは年齢(r=0.18,P<0.0001),脈拍(r=0.30,P<0.0001),平均動脈圧(r=0.12,P<0.0001)と有意な正の関連を示した。

◇HASIと脳梗塞発症との関連
HASIが高いカテゴリーほど脳梗塞発症率が高かった。性別および高血圧・治療の有無ごとにみると,男性,および正常血圧者においてHASIと脳梗塞発症率に対数線形関係がみとめられた。
HASIが1 SD増加した場合の脳梗塞発症のハザード比**(95%信頼区間)は以下のとおりで,男性および正常血圧者において有意な関連が認められた。
**性別,年齢,BMI,脈圧,平均動脈圧,心拍数,収縮期血圧の日間変動,喫煙・飲酒習慣,総コレステロール,糖尿病,降圧薬治療により調整

全例:1.19(1.01-1.40)

 女性:0.93(0.71-1.20)
 男性:1.37(1.12-1.67)
(性別による相互作用のP=0.014)

 治療中高血圧者:1.05(0.83-1.32)
 未治療の高血圧者:1.09(0.68-1.75)
 正常血圧者:1.46(1.12-1.90)
  (高血圧・治療の有無による相互作用のP=0.056)

◇ 脳梗塞発症の予測因子
脳梗塞発症の予測因子を見出すため,HASIおよびベースライン時の血圧指標と脳梗塞発症リスクとの関連を検討した。その結果,HASI,平均動脈圧,収縮期血圧の日間変動が有意な予測因子となった(性別,年齢,BMI,心拍数,喫煙および飲酒習慣,血清総コレステロール,糖尿病,降圧治療,HASI,脈拍,平均動脈圧,および収縮期血圧の日間変動により調整)。この結果は,男性および正常血圧者でも同様であった。

 HASI(+1 SD):ハザード比1.19(95%信頼区間1.01-1.41),P=0.034
 脈圧(+1 SD):1.10(0.93-1.30)
 平均動脈圧(+1 SD):1.31(1.10-1.56),P≦0.005
 収縮期血圧の日間変動(+1 SD):1.23(1.07-1.42),P≦0.005

<男性>
 HASI(+1 SD):1.37(1.12-1.67),P=0.002
 脈圧(+1 SD):1.11(0.86-1.40)
 平均動脈圧(+1 SD):1.43(1.12-1.81),P≦0.005
 収縮期血圧の日間変動(+1 SD):1.26(1.03-1.54),P≦0.05

<正常血圧者>
 HASI(+1 SD):1.46(1.12-1.90),P=0.006
 脈圧(+1 SD):1.61(1.02-2.56),P≦0.05
 平均動脈圧(+1 SD):1.38(0.83-2.29)
 収縮期血圧の日間変動(+1 SD):1.29(0.95-1.76)

◇ 結論
家庭血圧値を用いて算出した動脈壁硬化指標(HASI)と脳梗塞発症リスクとの関連について,日本人一般住民を対象とした13.2年間の前向きコホート研究による検討を行った。その結果,HASIは,脈圧,平均動脈圧,収縮期血圧の日間変動とは独立した脳梗塞発症の予測因子であることが示され,男性および正常血圧者においても同様の結果が得られた。家庭血圧値は高血圧発症リスクをもつ人のスクリーニングに重要であるが,さらにそこから算出できるHASIを併用することで,有用な情報を上乗せできる可能性が示唆された。


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