[2012年文献] 前高血圧は慢性腎臓病(CKD)発症リスクと関連

高血圧患者では慢性腎臓病(CKD)発症リスクが増加することが知られているが,前高血圧とCKD発症との関連は不明である。本研究は,日本の一般住民を対象として,前高血圧とCKD発症との関連を示したはじめての研究。高血圧のみならず前高血圧でも,正常血圧にくらべてCKD発症リスクが有意に増加することが示された。

Kanno A, et al. Pre-hypertension as a significant predictor of chronic kidney disease in a general population: the Ohasama Study. Nephrol Dial Transplant. 2012; 27: 3218-23.pubmed

コホート
1992年のベースライン健診時に40歳以上であった大迫町住民3076人のうち,1993~2007年の健診を受診しなかった549人,同意が得られなかった55人,ベースライン時に尿蛋白が陽性であった91人,推算糸球体濾過量<60 mL/min/1.73 m2であった231人を除く2150人を平均6.5年(最大14.9年)追跡。
平均年齢は60.3歳,女性の割合は63.4%。

JNC7の基準にしたがい,健診受診時の血圧レベルを以下のように分類した。
   正常血圧: 収縮期血圧(SBP)<120 mmHgおよび拡張期血圧(DBP)<80 mmHg(586人)
   前高血圧: SBP 120~139 mmHgまたはDBP 80~89 mmHg(815人)
   ステージ1高血圧: SBP 140~159 mmHgまたはDBP 90~99 mmHg(386人)
   ステージ2高血圧: SBP≧160 mmHgまたはDBP≧100 mmHg,または降圧治療中(363人)
結 果
◇ 対象背景
喫煙率を除き,年齢(P<0.001),性別(P<0.001),飲酒(P<0.001),BMI(P<0.001),心血管疾患既往(P<0.001),糖尿病(P=0.006),高脂血症(P<0.001),降圧治療(P<0.001),血清クレアチニン(P<0.001),推算糸球体濾過量(eGFR)(P<0.001),追跡調査の頻度(P<0.001),追跡期間(P<0.001),収縮期血圧(SBP)(P<0.001),拡張期血圧(DBP)(P<0.001)のいずれについても,血圧カテゴリー間に有意差がみとめられた。

血清クレアチニン値は,正常血圧者0.63 mg/dL,前高血圧者0.65 mg/dL,ステージ1高血圧者0.67 mg/dL(P<0.001 vs. 正常血圧,かつP<0.001 vs. 前高血圧),ステージ2高血圧者0.66 mg/dL(P<0.001 vs. 正常血圧)であった。
eGFRはそれぞれ82.6 mL/min/1.73 m2,83.6 mL/min/1.73 m2,81.7 mL/min/1.73 m2,79.4 mL/min/1.73 m2(P<0.001 vs. 正常血圧)。

追跡期間における慢性腎臓病(CKD)の発症は461人。 CKD診断の基準別にみると,eGFR<60 mL/min/1.73 m2が360人,蛋白尿陽性が149人(eGFR<60 mL/min/1.73 m2かつ蛋白尿陽性が48人)。

◇ CKD発症の危険因子
CKD発症の有意な危険因子は以下のとおりで,SBPを含めた多変量調整モデルでは降圧治療も有意な因子となった。

・CKD発症の調整ハザード比(95%信頼区間)(SBP,年齢,性別,喫煙,飲酒,肥満,心血管疾患,糖尿病,高コレステロール血症,降圧治療,eGFR,追跡調査の頻度,ベースライン調査年により調整)
   年齢(+10歳):1.30(1.13-1.48),P<0.001
   eGFR(1 mL/min/1.73 m2減少ごと):1.06(1.05-1.07),P<0.001
   SBP(+10 mmHg):1.12(1.06-1.19),P<0.001

・CKD発症の調整ハザード比(95%信頼区間)(DBP,年齢,性別,喫煙,飲酒,肥満,心血管疾患,糖尿病,高コレステロール血症,降圧治療,eGFR,追跡調査の頻度,ベースライン調査年により調整)
   年齢(+10歳):1.36(1.19-1.55),P<0.001
   降圧薬使用:1.31(1.02-1.68),P=0.04
   eGFR(1 mL/min/1.73 m2減少ごと):1.06(1.05-1.07),P<0.001
   DBP(+10 mmHg):1.15(1.05-1.26),P=0.002

◇血圧レベルとCKD発症リスク
前高血圧および高血圧のCKD発症,CKD+全死亡の調整ハザード比(HR)(交絡因子により調整),人口寄与危険度割合(PAF)は以下のとおりで,前高血圧および高血圧で,正常血圧に比した有意なリスク増加が認められた。

・CKD発症
   正常血圧1(対照),前高血圧1.49(95%信頼区間1.15-1.94)(P<0.01),ステージ1高血圧1.83(1.34-2.48)(P<0.001),ステージ2高血圧2.55(1.58-4.11)(P<0.001)
   PAF:正常血圧(対照),前高血圧2.1,ステージ1高血圧8.6,ステージ2高血圧14.9

・CKD+全死亡
   正常血圧1(対照),前高血圧1.31(95%信頼区間1.06-1.63)(P<0.03),ステージ1高血圧1.42(1.10-1.84)(P<0.001),ステージ2高血圧2.02(1.36-3.01)(P<0.001)
   PAF:正常血圧(対照),前高血圧8.6,ステージ1高血圧5.4,ステージ2高血圧12.6

◇ 結論
高血圧患者では慢性腎臓病(CKD)発症リスクが増加することが知られているが,前高血圧とCKD発症との関連は不明である。本研究は,日本の一般住民を対象として,前高血圧とCKD発症との関連を示したはじめての研究。高血圧のみならず前高血圧でも,正常血圧にくらべてCKD発症リスクが有意に増加することが示された。


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